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オピニオン

製造業DX実現のカギ~第18回

投稿日時
2022/08/23 16:47
更新日時
2024/08/19 13:17

「自動化工場」を日本の輸出産業に

製造業DXがもたらす未来として最たるものに、「ダイナミック・ケイパビリティ」の強化が挙げられる。ダイナミック・ケイパビリティの要素は「感知」「捕捉」「変容」の三能力と言われているが、製造業DXはそれらを劇的に進化させる。 

自動化ラインで新たな外需獲得へ

例えば、視点を工場外にまで広げてみよう。世の中にはオープンになっているデータがたくさんあふれている。それらのオープンデータと自社独自のデータを掛け合わせ「感知」「捕捉」「変容」の能力を強化するのだ。オープンデータとしては、公的機関が開示している統計データはもとより、民間企業も多くのデータを有償・無償で開示している。「ヤフージャパン」ではデータソリューションサービスとして、自社が提供するサービスから得られるデータを匿名データとして開示、検索結果などから人々の興味関心を可視化したり、購買データや行動データに位置情報をかけあわせ、地域の実態を可視化できる環境を提供している。

気象情報などは公益法人の他、多くの民間企業が提供している「グーグルマップ」などもオープンデータの典型であろう。それらのデータに、自社製品・サービスのユーザーデータや問合せデータ、HPの流入データ、営業で仕入れたデータなどを掛け合わせるのだ。このレベルになると、とても表計算ソフトで人が分析することはできないため、クラウドで提供されているAIなどを目的に応じて活用し、分析することになる。そうすることで、現在の市場での自社製品・サービスの強み、弱みを「感知」し、市場や競合他社の動きを「捕捉」し、自社が変容する示唆を得る事ができる。

このダイナミック・ケイパビリティの差が企業の明暗を分けた例は数多く例示されている。写真用フィルムの大手であった、コダックと富士フィルムの例では、フィルム事業で培った技術をヘルスケアや化粧品などへの事業転換に活かした富士フィルムが生き残り、既存事業にこだわったコダック社は2012年に経営破綻している。大手電機メーカーでも、液晶テレビにこだわったシャープは鴻海精密工業に経営権を渡し、FA機器に注力した三菱電機は大手8社といわれる企業群の中で継続的に高い利益率をたたき出している。

逆の言い方をすると、いくら改善を進め、デジタル化を行い、工場の生産性が向上できたとしても、市場の変化を感知、捕捉、変容できなければ、環境が変化したとたんに破綻してしまう。あくまでも、不確実性が高い世界では、ダイナミック・ケイパビリディの強化が企業や組織が生き残るために必要な要素なのだ。DX化はそのような未来を切り開くためにも必須の要件と言える。

■新興国は「工場建設ラッシュ」へ

製造業DXは各社の未来を明るくするだけではなく、新しい産業を生み出すと期待している。私がイメージしているのは「工場」自体の輸出だ。現状、日本の産業としては「産業用ロボット」「工作機械」「半導体製造装置」といった、装置レベルの輸出は世界でもトップクラスの強みを持っているが、「生産ライン丸ごと」「工場丸ごと」を海外に向けてビジネスとして提供している事例は実はそう多くはない。これは、各企業がノウハウの流出を恐れて、外部提供をしていないこともあるが、組立製造業の工場建設にあたり、工場丸ごと建設するような大掛かりな業務を請け負える大手プレイヤーがいないことと、要素技術が複雑で、それぞれの技術がデジタル化されておらず、都度プロジェクトを一から建付けする必要があるからだと考えている。

「工場の輸出」はこの製造業DXを日本で成功させた先に、輸出産業として確立できる要素を多分にはらんでいる。大手プレイヤーがいなくとも、それぞれの得意分野を持った企業がチームとなり、デジタルの力で連携すれば実現できる。 

市場はある。ASEANを中心に工業化が進んでおり、中間所得層の増加もあいまって、各国の市場自体が膨らんでいる。これら新興国の需要を満たすための工場建設ラッシュが見込まれる。米調査会社IDCによると、世界のIoTビジネス市場は2023年に100兆円を突破するといわれており、産業別では製造業が最大で25%を占めるとしている。

工業化の歴史は環境汚染の歴史でもある。しかし、単純な工業化ではなく、日本の製造技術、環境技術を基にした製造業DXのモデルを新興国に輸出することで、環境と工業化をバランスよく両立することができる。

日本では製造業は衰退産業と見る向きも少なくない。しかし、製造業は日本を支える重要な産業であることは明白で、製造業DXを推進することで、新たな輸出産業として花開き、世界に対して再び良い影響力を発揮することができると確信している。是非、皆様と力をあわせて、この製造業DXの推進、そして輸出産業としての確立を推進していきたいと考えている。

(2022年8月25日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也

あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。