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オピニオン

製造業DX実現のカギ~第17回

投稿日時
2022/08/09 10:17
更新日時
2024/08/19 13:19

DXが変える「働き方」と「働き手」の価値

前回に続き、DXがもたらす働き方改革について述べていく。 

何気なく日々行っている行為も、DX化によって実施すべきかどうかを明確にできる。簡単な例でいうと「ラジオ体操」が挙げられる。工場では始業時にラジオ体操をするところが今も昔も多い。「無駄だ」「かったるい」という意見が常にでがちな内容ではあるが、今ではIT企業、特に新進気鋭のベンチャー企業が率先して取り入れている。

神奈川県立保健福祉大学の渡部鐐二教授の調査によると「精神的な健康度の向上」「体の痛みの軽減」「高血圧症の予防」といった効果が明らかになっているという。これも各種バイタルセンサなどを駆使し、表情から精神状態を推定するアプリケーションなどを組み合わせたりすることで、さらに効果が数値化できるであろう。

人々がより付加価値の高い仕事にシフトし、さらにその結果が数値化されて、報酬に直結することで、さらに付加価値の高い仕事に取り組むという好循環が生まれる。

私はこれを「ゲーミフィケーション」という言葉で説明させていただくことが多い。「ゲーミフィケーション」とは、ゲームの要素や特徴を他の分野で活かすことを指す言葉で、ユーザーエンゲージメントや組織の生産性、フロー、学習、クラウドソーシング、従業員の採用および評価、使いやすさなどを向上させるのに用いられるとされている。

ゲームにはルールがあり、ゲーム内での自身の行為と結果は全て明確である。製造業DXとゲーミフィケーションは非常に親和性が高く、以前にも触れた、ねじ止めを例にした作りやすさを考慮した製品設計の事例などはまさにこの具体例でもある。

前出の例は「製品コスト」「製造コスト」に焦点をあてたが、今度は設計者が生み出す付加価値に焦点を当てて考えてみたい。例えば、従来であれば、ねじ止めする箇所が1製品あたり20ヶ所程度ある設計が普通だとする。1カ所あたり500万円の設備コスト増だとすると、10カ所削減できればこの設計は5000万円の節約(=企業の利益)をもたらす。仮にこの例と同程度の貢献を毎年3件、30年積み重ねた場合、30×3×5000万円=45億円分の貢献をこの設計者はすることになる。この様な会社に対する貢献が数字で明確になれば、定年後に10年間恩給として毎年2000万円支給したとしても、充分経済合理性が担保できる。また、後に続くエンジニアはその成功例を目指し、全体最適を考慮した設計が加速していくであろう。

■エンジニアが人気職種へ

もちろん、コストダウンだけではなく、製品設計者はヒット商品を生み出すのが重要な役目である。設備投資の金額、追加機能による売上寄与度などがデジタル技術により可視化され、投資とコスト、利益が最適なバランスになる様な設計が行われるようになれば設計者の生む付加価値はさらに増す。

しかし、製品の高度化に伴い、設計の難易度も上がっていくため、クリエイティブなエンジニアでも壁に当たってしまうこともあると考えられる。そのようなときは、巨大なモンスター達を狩るゲーム「モンスターハンター」での協力プレイの様に、助けあいながら設計することも出てくるであろう。現役設計者だけでは解決できない場合は、恩給をもらっている伝説の設計者に助けを求めることもでてくる。

経験豊富な設計者は、若手が当たっている壁をいとも簡単に乗り越え、その知見をデジタルで残し颯爽と去っていく。こんなことも現実に起こると思われる。ゲーミフィケーションは、金銭面だけではなく、貢献したエンジニアに賞賛をもたらし、チームワークを生み、正当に評価するためにも必要な要素なのである。

このようなエースエンジニアは、プロスポーツ選手の様な報酬体系になってもよいと私は考えている。例えば、プロ野球における2022年の日本人選手の平均年棒は4312万円。アメリカ大リーグの平均年俸に至っては約59億円にも及ぶ。

それぞれ厳しい競争を勝ち抜き、結果を残してきた選手たちだ。ゲーミフィケーションにより、ものづくりエンジニアもこの様な報酬を実現できると考えているし、その様な社会にしていきたい。

私は、アメリカに生まれたら「バスケット」「アメフト」「野球」選手というアメリカンドリームを目指す子供が多いように、日本に生まれたら「ものづくり」を目指したいと思える環境を整え、アイデアと技術で何億円という利益を継続的に生み出すことができるエンジニアをたくさん輩出したいと考えている。

エンジニアはプロスポーツの選手寿命と比較しても長い期間活躍ができるため、生涯年収も莫大なものになるだろう。これは夢物語ではなく、技術とゲーミフィケーションが結びつくことで、実現できると考えている。こうすることで、企業全体の生産性も劇的にあがり、社員もわくわくしながら仕事に打ち込め、優秀な人材があつまるなど、良いサイクルが回り始める。

(2022年8月10日号掲載)



チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也

あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。