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製造業DX実現のカギ~第16回
- 投稿日時
- 2022/07/25 09:48
- 更新日時
- 2024/08/19 13:20
日本文化と親和性の高い「製造業デジタル化」
日本文化と「製造業DX」は親和性も非常に高いと考えている。「DX」実現は技術力だけではなく、全体最適を考えた将来像の具現化と、それを実現するためのストーリー作りが非常に大切であることは明白であり、さらにそれを愚直に実行する胆力が必要である。日本文化はそれらに適していると考えている。
日本文化の一つの例としては「漫画・アニメ」があげられる。例えば世界的人気の「ワンピース」では、主人公並みの活躍を見せる「麦わらの一味」だけで9人いて、名前や姿が明確に区別できる登場人物だけでも700人以上登場するといわれている。ビジネス的に大成功を収めている「ポケットモンスター」でも、公式冊子にポケモンが896種類紹介されている。「アンパンマン」に至っては、ギネスの公式記録で1768体のキャラクターが登場し、それぞれの個性を生かした話が毎回展開されている。これを1人の作者が関係性やキャラクターの特徴を活かし、ストーリーに仕上げているのだ。しかも、それぞれの作品には共通のテーマがあり、それからぶれることはない。
DXを実現する工場においても、この多くのキャラクターを活かしたストーリー作りは非常に重要な要素となるのは論を待たない。
日本が誇る「職人技」も「製造業DX」に通じるものがあると考えている。例えばトヨタが誇る高級車「センチュリー」は「クラフトマン(職人)」と呼ばれる少数精鋭・熟練の作業者により、まるで芸術作品を創るかのように一台のクルマが作られていく。
ボディ自体はプレス機で加工されるが、その後の面の歪や凹凸の微調整は全て人の手で行い、人の目で検査されるといったように、機械と人がそれぞれ得意な部分を受けもち、工程が進んでいく。
常に最終形をイメージしながら作り上げるため、例えばドアを組み立てた後の工程では、内装品の重量が加わり、ドア後端が下がり段差が生じるのを見越して、「戸上げ」と呼ばれる技法を使い、あえて段差をつけた状態で取り付け、完成時に美しく見えるようにしているという。各地域に根差した伝統工芸品にも通じるものがあると考えている。
2つの例を示したが、ストーリー作りとそれを実行する胆力は、日本文化に根差したものであり、これらに最新技術が組み合わされることで、日本式の「製造業DX」が実現できると考えている。
■努力や肉体的付加を可視化
製造業DXは、働き方改革にも通じる。ここまでも述べてきたが、デジタルファクトリーを核とする製造業DXは、単なる「生産性向上」「人手不足解消」といった、目の前の課題解決だけにとどまらず、人々の働き方を良い意味で変えていく。
よく「働き方改革」=「労働時間の短縮」「ワークライフバランス」といった文脈で語られることが多いが、私はそのような一面もあるのは理解しながらも、それらが本質であるとは考えていない。働くという行為を「わくわく」「どきどき」するものに変え、努力と結果、報酬が明確になることを私は「働き方改革」と呼んでおり、DXによりそれが実現できると考えている。
一昔前、肉体労働を中心として、「きつい」「汚い」「危険」を指す、3Kと呼ばれる言葉が言われ始めた。今ではホワイトカラーを中心として新3Kと言われており、組み合わせは諸説あるが、「きつい」「厳しい」「帰れない」「給料が安い」といったキーワードが挙げられている。DXはそれらから人々を解放し、努力と結果、報酬が明確にできる仕事にシフトできると確信している。
それはシンプルに自動化(物理的・情報処理的両方)が進むことによる単純労働の削減や、効率化による労働時間短縮もあるが、DXの進展により、働き方が可視化され、その結果が数字や結果として現れることが大きいと考えている。今まで慣習で行ってきたことも、無駄であることがわかったり、その逆もあったりするだろう。
ある工程にかけた工数と生まれた付加価値、それを自動化するために必要な投資を数字化できれば投資判断もしやすい。さらに、その作業が人に与えるプラスの影響、マイナスの影響も可視化できればさらにわかりやすいだろう。重量物の搬送における体への影響や、単純作業による精神的な負荷など、付加価値だけでは測りきれない要素も数値化し、投資の判断材料にするのである。
(2022年7月25日号掲載)
チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。