オピニオン

真潮流~33

投稿日時
2021/10/06 16:42
更新日時
2024/08/19 13:17

工作機械に革命を起こせるか
-トップダウンとボトムアップ双方が必要に-

今年、国内最大級の工作機械関連展示会MECT2021が、いよいよ10月20日から名古屋で始まる。昨年はコロナ禍のためIMTS、JIMTOFなどの大きな国際展示会が対面で開催されなかったことから、久しぶりに対面で見学できる大きな展示会となる。

このような状況からは、これまで出展できなかった多くの革新的な工作機械とその関連製品の出展が期待されるが、日本は、改善は得意だが、変革は苦手と言われている。日本では、「改善提案」制度が積極的に運用され現場力を高めているが、このような現場の高い改善力が、ものづくりに変革を起こすようなパワーに何故結びつかないのか考えてみた。

ある組織を良いものに変革するレベルとしては、改善、改革、革新、革命などがあるが、日本は、夢が小さく、改善レベルで満足してしまう傾向があるとの指摘がある。「改善」は「旧来の制度や組織、方法などは維持しつつ、悪いところを見つけて改善し、これまでの良いところを最大限に伸すこと」とされている。そして「改革」は「旧来の制度や組織、方法などを基盤にして、それらをより良いシステムにすること」、「革新」は「社会などの仕組みは変えずに、旧来の制度や組織、方法などを改めて、新しいシステムにすること」とされている。そして「革命」は「社会などの仕組みを根本から変えて、全く新しいシステムにすること」とされ、最も大きな変革がなされることになる。

これらを生産現場に当てはめてみると、例えば、「改善」は従来の工作機械と工具を最大限に生かし、加工条件を変更して、加工能率を向上する。「改革」は従来の工作機械を最大限に生かしつつ、これまでとは異なる革新的な工具を導入し、加工能率を大幅に向上する。「革新」は革新的な工作機械と工具を導入し、加工能率を飛躍的に向上する。「革命」は3D積層造形など従来とは全く異なる加工原理に基づく加工システムを導入し、革新的な生産システムを構築して、生産能率を劇的に向上する、といったイメージになるかと思われる。

以上のように改善は、システムの大枠を変えないので、現場独自のアイデアでより良いシステムにすることが可能と言える。つまり、ボトムアップでの取組みが可能であり、これが日本ではうまく機能して、現場発信で多くの改善提案がなされ、現場力が向上している背景になっていると思われる。

一方、改革は改善とは異なり、上述の様に革新的な工具の導入など、組織を動かす要素が加わり、ボトムアップだけでは推進が困難な側面が出てくる。更に、革新、革命となると、その傾向は更に強まり、実行する際には生産システム全体を見直す必要があるなど、トップダウンで推進する必要性が高まってくる。この点が、ボトムアップで成り立つ日本では、革新、革命的なシステムや製品が生まれにくい要因になっているものと思われる。

この解決のためには、トップから革新・革命を強力に求めていく体制にシフトしていく必要がある。このようなトップダウン体制を有効に機能させるためには、トップが現状の課題を正確に把握している必要がある。この正確な現状把握には、日本の現場で機能しているボトムアップ体制をもっと有効に活用すべきと思われる。トップ自らがトップダウンで、ボトムアップ体制を活用し現状の課題とその変革案を吸い上げ、それらをもとに的確な改革・革新・革命の推進をトップダウンで現場に指示するのだ。このようなボトムアップとトップダウンの双方向の推進体制こそ、日本らしい変革を起こせる効果的な体制ではないかと思う。今後、このような体制の下で、今進みつつある第4次産業革命に貢献できる革新的な工作機械とその関連製品が多数生み出されることを期待したい。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二

1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。