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先山社会保険労務士事務所 代表 先山 真吾 氏
「労基法」改正へ、40年ぶりの大改正へ検討進む!
- 投稿日時
- 2026/01/22 15:02
- 更新日時
- 2026/01/23 15:23
約40年ぶりの抜本改正が検討されてきた労働基準法は、今年の通常国会での法案提出が目指されてきたが一転、政治主導で見送りとなった。一方で、議論の背景にはテレワークの拡大やプラットフォームワーカーの増加、副業・兼業の拡大など不可逆的な時代の変化もある。特定社会保険労務士の先山真吾氏に、改正議論の狙いと企業が備えるべきポイントを聞いた。

先山社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 先山 真吾 氏
――労働基準法(労基法)の改正が話題になっています。なぜ今、改正が議論されているのでしょうか。
「もともとは今年の法改正を目指して、厚生労働省の『労働基準関係法制研究会』で議論が積み重ねられてきました。ポイントは『長時間労働を一律に縛る法律』から『多様な働き方の中でも健康と安全を守る法律』へ発想を変えようということです。テレワークなどの新しい働き方や、Uber Eats やAmazon Flexなどのプラットフォームワークの増加、副業・兼業の拡大など働き方が多様化している中で、今の労基法では守りきれない人が増えているという問題意識に端を発しています」
――具体的には、どのような点が論点になっていたのですか。
「検討されていた主要論点は『連続勤務の上限規制』や『法定休日の明確な特定義務』など11ありました。高市総理が『労働時間規制の緩和』を掲げたことで、改正の方向性と正面からぶつかるため、整合性を取る必要があり法案提出が見送りになりました」
――抜本的に見直される可能性がある。
「そうした部分も出てくると思います。一方で、働き方の多様化や労働者の健康確保の必要性がなくなったわけではありません。変更点は出てくると思いますが、議論されてきた内容全てがなくなることは考えにくいと見ています」
――本改正議論を具体的に教えてください。
「例えば多様化する働き方に対しては、『労働者の範囲拡大』や『副業・兼業の割増算定見直し』などが盛り込まれていました。プラットフォームワークでは、契約上は雇用契約ではなく個人事業主として業務委託契約を結んでいる場合でも、実態は特定の企業の指示を受けて働いているケースがあります。今回の議論では、こうした人たちも実質的には労働者であり、保護すべき対象だという方向が強く打ち出されました。そうなると、残業代や有給休暇、労災の扱いも変わってきます」
――一人親方など以前からある働き方にも思えます。
「そうですね。背景には副業があると思います。Uber Eatsなどは副業でやられている方も多い。こうした方は従業員と同じ様な働き方をしているのに労働者に当てはまらないので、怪我をしても労災が適用されないなど本業にも影響を与えかねない状況となっています。これまで『そういうもんだ』で済んでいたことが、済まされなくなってきたということです」
――製造業などモノづくり企業が関わる部分はありますか。
「『勤務間インターバル制度の義務化』『週44時間特例の廃止』などでしょうか。工場などで採用されている3交代での勤務体系では、人が足りない時に連続で勤務することもあったと思います。改正案では勤務と勤務の間に最低11時間の休息を取ることを求めています。これまで以上にシフト調整が難しくなる可能性があります。また、週44時間特例の廃止は、繁忙期でも時間外労働の上限を臨時的に超えて仕事ができなくなるということ。建設業や運送業などにも影響は大きく、これまでの生産量や供給量が確保できなくなる可能性もあります」
――企業側はどのように備えるべきでしょうか。
「まずは正確な情報を企業側でつかむことです。今や従業員が自ら情報を取得できる時代です。うちは他とは違うでは通用しません。従業員とのトラブルを回避するためにも、正しい情報を取得し時代の変化に適切に対処していただく必要があると思います。また、企業は労働者から選ばれる時代になっています。リスク回避だけでなく、企業成長のためにも労務管理をしっかりとしておくことは非常に重要です」
――まずは、社労士の方に相談ですね。
「そうですね。結局何をすればいいかわからない方も多いと思います。実際、労務管理に『これさえやれば大丈夫』という万能策はありません。会社ごとに人も働き方も違います。時代の変化もあります。社会保険労務士は、人材に関する専門家です。実際は従業員を雇い入れるときやトラブルが起こった後にお声掛けいただく事が多いですが、そもそもトラブルが起きないように労働契約を見直すことも可能です。何か起きる前の方が取れる手立てもたくさんあります。人材関連でご心配事があればまずご相談いただければと思います」(全文はモノづくり総合ニュースサイトMonoQue〈モノクエ〉に掲載)
定年制見直しへの憂慮
近年、見直しの進む人事制度。製造業では定年制を廃止する企業も出てきた。先山氏は「従業員さんがどこまで働けるか見極める必要がある」と指摘する。従来の定年後再雇用契約では、1年ごとに労働契約を切り直すことが多かった。契約更新時には「次はどうする」と確認する機会があったが、定年制をなくすということはその機会がなくなる。「年齢を重ねるとどうしても働くのがきつくなったり、急な体調変化がある。若い方と比べるとリスクは高い。そうしたリスクを会社としてどのくらい把握・許容するかは考えねばならない」
(日本物流新聞2026年1月25日号掲載)