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「空が見えれば、どこでもつながる」世界へ

投稿日時
2025/08/08 09:00
更新日時
2025/08/08 09:00
能登半島地震ではKDDIの社員が、避難所ごとに足をのばし、約700台のスターリンクを設置した

KDDIが語るスターリンクの災害対応力

電柱が倒れ、基地局が沈黙しても、空が見えれば通信はつながる――。2024年1月に発生した能登半島地震で、通信インフラ復旧の切り札として注目されたのが、米スペースXが手がける衛星通信「Starlink(スターリンク)」だ。KDDIはこのスターリンクをいち早く災害現場に投入し、各地で通信を再開させた。従来の通信設備とは何が違うのか。そしてどんな災害対応の未来を描くのか。防災士の資格を持ち能登半島で支援にあたったKDDIの遠藤晃氏に話を聞いた。 


――能登半島地震ではスターリンクが大きな変革をもたらしたとか。

「はい。スターリンクの活用によって、災害時の通信インフラ復旧の常識が大きく変わる可能性を感じました。災害時の通信途絶の約8割は停電とケーブル断線によるもの。スターリンクなら地上設備に依存せず衛星で通信を確保できます」

――従来の衛星通信との違いは。

「まず、通信遅延が圧倒的に少ない。従来システムでは高度3万キロ付近の静止衛星を介して通信しているため、1秒近く通信遅延が発生していました。一方で、スターリンクは高度550キロメートル付近の低軌道衛星を使うため、遅延は0.1秒以下。能登では避難所の子どもたちが『オンライン対戦ゲームもできた!』と喜んでくれました」

――現地への展開もスピーディだったそうですね。

「機材が小型・軽量なため、ワゴン車でも一気に20台近く搬送可能です。これまでの装置では1台積めれば御の字だったので大きな違いです。当然、船やヘリへの搭載量も変わってきますし、道路が寸断されてしまっても人が担いでいくことも可能です。災害復旧のスピードを飛躍的に高める革新的なツールとなっています」

――中でも貴社の動きは迅速でした。

「発災直後に災害対策本部を立ち上げ、『ALL KDDI』体制で全国から延べ800人が金沢に集結しました。物流拠点や関連会社とも連携し、行政や企業からの要請に応じるだけでなく、避難所や医療機関などスターリンクが必要な場所を自ら探し、設置・運営支援を行いました。最終的には約700台を活用いただきました」

■スターリンクで変わる災害対応

――通信インフラとしての役割はどう広がっていきますか。

「政府が進める防災DXの流れの中で、被災地でも高品質通信の重要性が増すと見ています。たとえば、被災現場の写真や動画をその場でGIS(地理情報システム)に反映できれば、被害の可視化や意思決定が早まります。また、家屋被害の認定も専門家が現地に行かなくても判定可能になるとしたら、仮設住宅への入居申請がスムーズになります。防災DXを実現する通信環境は、災害対策や被災地での暮らしを大きく変えると見ています」

――平時からの備えも重要になりそうです。

「すでに鳥取県など複数の自治体が導入を進めていますし、ドローンの実証などで先行的に取り組んでいる『地域防災コンビニ』で今後はスターリンクも活用し、地域の危機対応力強化などに複合的に活用いただくことも可能かもしれません。また、空が見えれば誰でも簡単に接続できることもスターリンクの魅力で、学校の課外学習などにも活用いただきたいです。GIGAスクール構想も追い風で、通信があれば学習を続けられる環境は整いつつあります。災害時、迅速に学習を再開し日常を取り戻すための設備としても、スターリンクは有用に機能すると見ています」

――法人や個人向けのサービスも展開しています。

「企業のBCP対策となる『Starlink Business』や、スマホ圏外でもSMSを送れる『Starlink Direct』も進行中です。どんな状況でも通信が届く世界が、現実になりつつあります」

――最後にKDDIとして目指す姿を教えてください。

「私たちは3つのつなぐ『命をつなぐ・暮らしをつなぐ・心をつなぐ』を掲げています。災害時は初動が最重要。スターリンクは最初の3日間に必要な通信を確実に届けるツールです。今後も自治体や企業と連携し、非常時でも誰もが『つながる』社会の実現に貢献していきます」

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KDDI コア技術統括本部 オペレーション本部 エンジニアリング企画部 防災担当 エキスパートの遠藤晃氏とスターリンク



(日本物流新聞2025年8月10日号掲載)