1. トップページ
  2. ニュース
  3. Icom Europe GmbH、VUCA時代に“切れない通信”が脚光

Icom Europe GmbH、VUCA時代に“切れない通信”が脚光

投稿日時
2025/08/28 08:55
更新日時
2025/08/28 09:02
16名が働くIcom Europeオフィス。うち4人が日本からの出向(男性3名+女性1名)で、社歴に関係なく、意欲のある社員にも駐在のチャンスがある

無線機大手アイコム、独法人の売上倍に

独・フランクフルト国際空港から車で約20分、ヘッセン州オッフェンバッハ郡ホイゼンシュタム市は緑豊かで清閑な街だった。無線機大手アイコムの子会社Icom Europeは2023年12月にこの地に移転してきた。09年ごろに600万ユーロ前後で推移していた年間の売上額は、19年から急速に上向き22年には約1200万ユーロへ倍増。事業拡大に伴い自社ビルを取得し物流などの機能を強化したのだ。欧州では自然災害やエネルギー危機に伴う「通信できなくなるリスク」が顕在化。Icom Europeがロバストな無線通信機を的確に提案したことが成長の背景にある。指揮を執る池上真輔ゼネラルマネージャーに現地取材を行った。


林立するフランクフルトのビル群から少し離れるとこうも静かなのかと驚く。Icom Europe は落ち着いた環境に広々としたオフィスを構えていた。

同社の設立は1976年。欧州と東欧の販売・営業・技術支援が主な役割だ。アマチュア無線機や陸海空の業務用無線機に加え、近年は衛星無線通信機やIP無線(携帯電話回線を使う無線)も展開。同社のIP無線は少し特殊で、携帯事業者と直接交渉し専用の閉域網を確保しており通信がクリアかつセキュア。同社はアマチュア無線機で世界首位を争うが、これらの特長も活かして業務領域でもさらなる成長を目指す。

現オフィスには23年12月に移転。物流機能の強化を見据えて324万ユーロを投じ自社ビルを購入した。床面積は2.5倍となり、在庫能力も格段に高まった。というのも近年、同社の売上は急増。09年に600万ユーロだった売上は19年から22年までの3年で1200万ユーロへほぼ倍増したからだ。

「最初の変化はコロナ禍の巣ごもり需要でアマチュア無線の価値が再評価されたこと」と池上氏は振り返る。まもなくしてドイツで洪水等の自然災害やロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー供給問題が発生した。全土で電力供給が不安視され、実際に洪水でインフラが被災し電力や通信網の停止が現実のものに。スマホの普及した現代では“つながる”のが大前提で、それが覆れば社会機能は麻痺する。この事態に衛星無線通信機の需要が急拡大した。衛星通信は宇宙を周回する衛星で通信が担保され、地上の電力インフラが被害を受けても通信が途絶えない。同社も提案を強化しドイツ内務省や救急隊での採用につながった。

IP無線もインフラが損傷すると使えないが、数年前にIP無線と従来の無線機のハイブリッド機もリリース。通常はLTEモードで使い、停電など非常時には通常の無線に切り替え電波が届く範囲で通信できる製品だ。これがかなり注目を浴び、市の行政機関も採用。「とはいえそれでも建物の地下で通信が途絶えるのを懸念するユーザーもいる」と池上氏は言う。「そこにも我々は目を付け、IP無線とWi-Fiのハイブリッド無線機もリリースを間近に控えています」

池上氏.jpg

池上真輔ゼネラルマネージャー。今回2度目となるIcom Europeへの赴任は19年から

ここまで来ると「どんな事態であれ通信を途切れさせない」という意地を感じるが、ドイツをはじめ欧州各国はインフラ断絶のリスクをそれだけ深刻に受け止めているようだ。池上氏はさらに続ける。「現在ミッションクリティカル通信(MCX)市場が注目されています。我々は日本のJRC社と業務提携しこの分野へ参入を進めている最中。今まで自社製品の展開に頼っていましたが、他社との協力体制も強化し売上拡大を図ります」

多くの通信はインフラに依存し、イベント会場などで大勢が使うと回線がパンクする可能性がある。しかしMCXはその場合でも途切れることなく、安定した通信を提供する。例えばJRCの基地局を緊急車両に積載し、アイコムの無線機を連携させれば極端な話、通信インフラが整っていない荒野に出動しても通信できる。ドイツでは法改正で電力会社が従来の無線に代わりMCXへ移行する規定が設けられた。オランダやオーストリア、スペインでも同様の動きが出ており、MCX市場は非常に有望であると言える。

■欧州での開発・供給体制の強化

Icom Europeオフィスは1階がほぼ倉庫機能に充てられ無線機が整然と在庫されていた。販売先はドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)や中東欧が主。だがそれにとどまらず同拠点に欧州向けバッテリーを集約する構想を進めている。危険物であるバッテリーは輸送に時間と費用がかかりタイムリーな輸入が難しい。元は欧州の各拠点が別個で輸入していたが、一括輸入して集約しドイツからEU諸国に配送してコストの最適化と安定供給を図る考えだ。

アイコム倉庫.jpg

1Fは倉庫機能。リペアセンターもあった

これが需要の増えた各種無線機の安定供給にもつながった。池上氏も「昔と違って今では欧州域内向けの貨物が、まるで国内に発送をするかのような形で各国のディストリビューターへ供給できる」と語る。今後は需要の増えた衛星無線通信機もドイツに集約し、物流拠点としての機能をさらに強化する方針だ。

また欧州向けの開発も強化。姉妹会社のIcom Spain(バルセロナ)に専任の開発人員を配置し、顧客の要望を取り入れたデジタル無線機を欧州で完結できるようにローカライズ・カスタマイズ対応するサポート体制を整えた。さらにフランスに配置しているLiason Officeは、欧州各国の法令や動向をいち早く収集し日本の本社にフィードバックする役割を持つという。

ドイツ経済は依然として不確実性が高く今後もいっそうロバストな通信手段が望まれるだろう。この流れに呼応して物流の強化で供給能力を高め、欧州の事情に即した開発機能を強化する。Icom Europeはこうしてさらなる成長を手繰り寄せようとしている。

無線機(紙面にスペースなければWEBのみ).jpg

無線機


【Memo】アイコム


アマチュア無線機に端を発するアイコム。アマチュア無線人口はアメリカが最大、日本がそれに次いで多いと言われているが、実はドイツも6~7万人の愛好家がいるとされ世界で10指に入る規模だ。欧州における業務用無線機は競合も多く同社は後発。しかし業務用無線を検討する公的機関のスタッフがアマチュア無線の愛好家で、アイコムを知っており採用につながる例もあるという。アマチュア無線人口は高齢化で減少傾向が否めないが、展示会への積極出展などで市場の活性化を目指している。