ナッシュが進める「安全優先の自動化」
- 投稿日時
- 2026/09/25 11:39
- 更新日時
- 2026/09/25 11:42
人間が怪我するなら機械を壊してでも止める
「人間が怪我をするくらいなら、機械を壊してでも止める」――。生産技術部の李敞熙部長は迷わずそう言い切る。深刻な人手不足が続く食品工場では、一足飛びの自動化が難しいなか、「タイミー」などのスポットバイト活用が急増しており、現場における非熟練スタッフの安全管理が最優先課題となっている。
冷凍弁当の宅配サービスで急成長を遂げるナッシュは、食品工場としては珍しく、社内に8人の専任エンジニアリングチームを組織。弁当製造だけでなく設備の内製化と現場の安全徹底を推し進めている。
李部長が最初に取り組んだのも現場作業員の安全対策だ。コンテナ積み工程の協働ロボットにエリアセンサーと安全柵を追加した際、作業動線と干渉して一時生産性が20%低下した。だが、作業域を柵外へ移す動線再設計によってすぐさま元の生産性を回復させた。
今後はAI活用など更なる自動化を見据えるが、足元では「一杯で完結する『食べるスープ』」やシニア向け新ブランド「健康ごちそう便 by ナッシュ」の立ち上げにより、製造SKUは急増している。安全最優先を貫きながら、多品種化と自動化をいかに両立させているのか。工場最前線の取り組みを追った。
製品バリエーション急増の狙いについて、広報担当の黒見繭氏は「従来は20〜30代が中心だったため、顧客層を広げるべく『食べるスープ』や、9月に立ち上げたシニア向け新ブランドの展開へ舵を切った」と語る。
しかし、固形中心の従来ラインに液体の「スープ」を流すのは容易ではなかった。1秒に1個という高速搬送のなか、従来の選別機で規格外品を押し出すとスープが跳ね、コンベヤを液体で汚してしまうためだ。
「スープにトロミをつけて跳ねを防ぐ案も出たが、お客様が求める味を機械側の都合で曲げるわけにはいかない」と李部長。市販機器ではサイズやコスト、鉄粉発生リスク等の課題をクリアできず、生産技術部での内製化を決断した。
開発期間はわずか1カ月。「見た目は高校生のロボコンのよう」と苦笑するが、1秒の間で「ゆっくり押し出し、素早く戻る」特殊なカム曲線をモータの加減速制御で実現。既存設備の信号と連動させることで、スープの高速自動選別を可能にした。この選別機の完成により、ソースの多い弁当メニューの開発・製造にも道が拓けたという。
■「日本で教わった安全」 リスクを排除しAIカメラの導入へ
スープに続くハードルとなったのが、シニア向け製品のライン投入だ。ご飯を含む主食付きトレイを採用したところ、容器内の高い仕切りを光センサーが境界と誤認し、「1個の弁当を2個」と判定するトラブルが発生。センサーの感度調整ではなく、コンベヤの搬送スピードを動的に制御するアプローチを選んだ。
李部長は「センサー通過の手前でコンベヤを一時的に加速させ、容器間に適切な隙間を作ることで正しく認識させた」と明かす。制御プログラムにより、同一ライン上で「通常モード」と「シニアモード」をワンタッチで切り替えられる仕組みを構築。ラインを新設することなく、複雑な形状の容器に対応する混在生産ラインを完成させた。番重の予洗いも自動化し、フルライン化も実現したことで人数を増やさずSKUの増加に対応している。
しかし、同社が最も重んじるのはどこまでも「安全」だ。以前はインターロックがなく、カバーを開けて手を入れて作業できてしまう環境があった。そこでライン上8箇所にインターロックを増設し、カバーが開くと自動で機械が緊急停止するシステムを構築した。
「人のケガを防ぐためなら、機械が壊れても構わないから停止精度をさらに上げる」と語る李部長。「日本に留学し、エンジニアとして働く中で『何よりも安全が第一』だと日本から教わった」として、(1)安全、(2)品質、(3)自動化という優先順位を信条に掲げる。
現場の安全対策が一巡したことで、「これでやっとAIカメラを活用した自動化に取り組める」と笑顔を見せた。

機材を製造する生産技術部の李敞熙部長
(日本物流新聞2026年9月25日号掲載)