鳥獣被害対策、2026年10月に強化月間
- 投稿日時
- 2026/10/19 09:00
- 更新日時
- 2026/10/19 09:00
『寄せ付けない』まちづくりが肝
10月に入ると、全国の多くの自治体が「鳥獣被害防止運動強化月間」を迎える。農産物被害はもとより、近年増加するヒグマやツキノワグマの出没と人身被害は、山間部のみならず市街地の安全や地域経済をも揺るがす課題へと広域化・深刻化している。
農林水産省の資料によれば、野生鳥獣による農作物被害額は年間約188億円に上り、シカやイノシシ、クマなどがその約7割を占める。長年、現場の主軸は「捕獲(個体群管理)」に置かれてきたが、単に捕獲頭数を増やすだけでは限界が見え始めている。今、改めて求められているのは、「とる(個体群管理)」「まもる(侵入防止)」、そして「よせつけない(生息環境管理)」を包括する鳥獣対策の「3本柱」を地域一体で徹底することだ。
■大量出没年で異なる出没ピークと被害環境
特に警戒を要するのがクマの出没傾向の変化である。環境省のデータ分析によれば、クマの人身被害件数の月別ピークは、ブナなど堅果類の豊凶によって大きく変動。平常年であれば夏場の採食や秋口の活動活発化に伴う山合いでの遭遇が中心となるが、大量出没年においては、堅果類の凶作により餌を求めるクマが人里近くまで下り、秋口(9月~11月)にかけて被害のピークが急峻かつ巨大化する傾向が顕著となる。こうした中で注目されるのが、環境整備を通じた「引き寄せないまちづくり」の実践例だ。岩手県北上市などの先進的な取り組みでは、センサーカメラ調査によってクマが川沿いの河畔林(かはんりん)を出没拠点・移動経路としている実態を突き止めた。行政と地域住民が連携して河川敷の草刈りや河畔林の伐採を進めた結果、出没回数の抑制効果を確認している。
さらに、地域の子どもたちを対象とした「クマ出前授業」や住民勉強会を通じ、放任果樹の除去やゴミ管理の徹底など防除意識を地域全体へ波及させた点は示唆に富む。
■省力化と精度を高める「スマート鳥獣害対策」
捕獲や環境管理を効果的に進める上で、近年農林水産省が重点的に推進しているのが「スマート鳥獣害対策」である。従来の対策現場では、捕獲わなの定期的な巡回や目撃情報の集計に、多くの人手と時間が費やされていた。これに対し、ICTを活用した「わな監視システム」による遠隔監視や、GPSやドローンによる生息動向の分析や追い払いなどの普及を進める。
デジタル技術の活用により、見回り作業の省力化や捕獲を強化すべき地点の特定などが可能になる。過疎化と高齢化が進む農山村において、スマート対策は現場の負担を軽減し、限られた人身・行政リソースで持続可能な防護網を構築するための重要な取り組みだ。
この他、農林水産省の「鳥獣被害防止特措法」に基づき、全国で1200を超える市町村に「鳥獣被害対策実施隊」が設置され、公務災害適用や銃刀法上の講習免除など担い手の支援策が整備されている。しかし、高齢化に伴う狩猟者の減少や集落の過疎化が進む中、地域主体の緩衝帯整備や継続的な管理をどこまで持続できるかが問われている。
市街地に近づくクマが増加している中、鳥獣被害対策はいまや農業関係者やハンターだけの問題ではなくなった。根本的な解決には人間の生活圏と野生動物の「すみ分け」を改めて実現する必要がある。
強化月間を啓発活動の場に終わらせず、科学的な出没データに基づき、河畔林の伐採や環境管理といった「寄せ付けないまちづくり」を地域ぐるみで実行できるか。捕獲人材の育成や確保、ICTを活用したスマート化と併せて進めていかなければならない。
(日本物流新聞2026年10月10日号掲載)