技能五輪国際大会「AM職種」で日本初参戦・銀メダル
- 投稿日時
- 2026/10/14 09:10
- 更新日時
- 2026/10/14 09:14
AI活用と極限の「残り1分」をこじ開けた「やすり」
中国・上海の空に、誇らしく日の丸が翻った。9月22日~27日に開催された「第48回技能五輪国際大会」において、日本が初参戦を果たした「付加製造(AM)」職種の宮堂頌也選手(豊田自動織機)が見事、銀メダルに輝いた。
4日間・計22時間に及ぶ過酷な競技の終盤、ドラマは起きた。全7課題(工程)を経て、ロボットの「エンドエフェクター(先端治具)」を組み上げる最終局面。競技終了まで残り1時間を切ったところで、熱収縮や物性誤差によりパイプが造形品の穴にどうしても差し込めないという絶体絶命の事態に見舞われた。
必要なのは、あと「内径0.2~0.3㍉」の削り込み。極限の疲労のなか、宮堂選手の手を動かしたのは、共に汗を流したコーチや「オールジャパン」として技術を授けてくれた支援者たちの顔だった。最後はデジタル(3Dプリンター)の限界を、アナログの「ヤスリがけ」でこじ開ける――。執念で削り、組み上げ、勝ち取った。「多くの方にサポートしていただいたので、表彰台に上がることで恩返しができた」(宮堂選手)。
今回の上海大会は、課題をモジュール単位でこなした前回(リヨン大会)から大きく進化し、「エンドエフェクターの軽量化」をテーマに7工程を経てひとつのシステムを完成させる総合力が試された。金属AMを想定したプロセス設計、MEX方式、3Dスキャナーによるリバースエンジニアリングなど、あらゆるAM技術を網羅する難関だ。
宮堂選手は物性誤差と格闘しながら順調にパーツを仕上げ、迎えた最終4日目。午後のわずか1時間に設定された「最終組み付け作業」で問題が発生した。
治具の組み付けにおいて、隙間がゆるくガタつきが出れば一発アウト(大幅減点)となる。そのため宮堂選手は、寸法精度をギリギリまで攻めた「極小クリアランス」で設計していた。ブカブカを避ける攻めの設計だったが、AM特有の表面粗さや熱影響により、「微妙にきつい」状態になっていたのだ。
きついのであれば造形品を削って適正サイズに追い込める。残された時間はわずか1時間。外径18㍉のパイプと、差し込む穴(深さ50㍉)を完璧にフィットさせるため、宮堂選手はヤスリを握りしめた。
しかし、会場備え付けの競技用ヤスリは研削性能が低く、数回削るだけで目詰まりを起こす。削ってはエアガンで粉塵を吹き飛ばし、再び削り込む作業を繰り返した。
観客席から見守っていた同社技能五輪グループ造形グループ長の大岩洋之氏は、「フルフェイスのマスクで呼吸もままならない中、鬼気迫る気迫でやり遂げた。声を出して応援できない中、心で叫ぶしかなかった」と振り返る。
執念で数百ミクロン(0.2~0.3㍉)におよぶ削り込みを行い、最終的にミクロン単位の精度へと追い込んだ造形品の穴に、パイプが「スッと」吸い込まれるように収まった。日本が培ってきたミクロン単位の手仕上げ技能と幾何公差制御の賜物だった。時計の針が指していたのは、競技終了の「まさに1分前」だった。「組み合わさった瞬間、私は涙が止まらなくなりました」(大岩氏)。
■ AI活用と現場思考の融合、そして愛知「金」へ
初参戦の日本が世界の強豪を抑えて銀メダルを獲得できた勝因は、テーマである「軽量化」に対する高度な設計アプローチだ。
宮堂選手は、かつて機械製図の全国大会で銀メダルを獲得した圧倒的なCAD操作スピードをベースに、AIによる「ジェネレーティブデザイン(構造自動生成)」を導入。荷重条件やAM造形時の熱特性、仕上げ精度を見極め、最小質量で最大強度に耐える最適形状へAIと共創して練り上げる。「得点を取りに行くだけでなく、使用者を想定した使いやすさも意識し、ハンドルでは人の手にフィットさせ、滑り止めも施した」(宮堂選手)。
半面、今後の課題も浮き彫りになった。「日本はお客様の手にわたるところまでを想定してプロセスを保証するが、大会では完成品が優れていれば評価される。他国のいい意味でのラフさが強みになることもある」(同社・野中英樹コーチ)。次回もエキスパート(コーチ)候補の野中氏は、2028年技能五輪国際大会日本・愛知大会での金メダル奪取を固く誓う。
大岩氏は「豊田自動織機は創業100周年を迎える。その中で築き上げた歴史や日本のモノづくりの積み上げの中にAMがあり、オールジャパンで銀メダルに輝いた。遅れているといわれる日本のAMだが、確固たる積み上げの上にあることは今後の普及に大きな意味を持つ。当社の次の100年に向けた技術挑戦の象徴ともなる」と力強く語った。

左から大岩洋之氏、宮堂頌也選手、野中英樹コーチ(すべて豊田自動織機)G型自動織機の前で。G型自動織機は豊田自動織機の社祖である豊田佐吉翁が開発し、当時では先進的な各種自働化機構が装着された。そこに込められた思想や技術革新の精神は、現在にも受け継がれている。
(日本物流新聞2026年10月10日号掲載)