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モノづくり入門

【第19回】いまさら聞けないモノづくりの基礎知識

投稿日時
2025/07/10 13:25
更新日時
2025/07/10 13:27

鋳造とは

モノづくりの基盤技術として「鋳造」の歴史はとびっきり古く、紀元前の世界古代遺跡でも活用の痕跡が多く見つかっています。高温で溶かした金属を鋳型に流し、冷まして凝固させ、加工物にするという工法。できた加工物を鋳物と呼びます。家庭で作るシャーベット(冷菓)のレシピに似ていると書くと、雑すぎかもしれませんが。

日本でも古くから、梵鐘、軍器、鍋釜、鉄器・花瓶と鋳造技術は広く使われ、地場産業として1000年以上の歴史を持つ地域も少なくありません。かつて筆者が取材した「天明鋳物」の街、栃木県佐野市には金屋仲町、金屋下町、金吹町と鋳造にちなむ町名が多く、数は減ったものの今も伝統を受け継ぐ職人さんがいて、工芸家も輩出しています。

鋳造は、鉄を溶かす「吹き」と、溶融金属を汲み取って型に入れる「湯だし&注湯」が工程のなかで際立っていますが、型から取り出した鋳物はヤスリや砥石で磨いたり、研磨の後に複数回焼いて表面に色を出したり、また最後に再び朴炭(ほうずみ)などで磨いたりと、モノによって後工程に相当の時間とノウハウを要します。

転じて現在の工業を見ると、3Dデータからの鋳型設計、3次元ツールを使った「湯」の流動や熱解析をはじめ、鋳型に発泡スチロールを使って短納期を実現する企業などもあり、技術革新が進んでいます。反面、小物から大物部品まで鋳物を使う例は今も膨大数あるものの、国内鋳物工場はこの約四半世紀だけで6割ほど減っており、廃業やM&Aによる集約化が顕著です。このため車や工作機械に欠かせない良質な鋳物部品の国内確保が難しいとの声もたびたび聞かれます。つい最近まで海外産は品質に不安との指摘もあったけど、今はどうなのでしょうか。朱色に溶けた金属を相手にする仕事はかっこよくもあるけど、職場は「灼熱のマグマを扱うような」危険な場所でもあります。常識的なつまらない結びになりますが、安全を確保し、職場改善を図って後継を育てる必要があります。


職人気質


鋳造・鋳物にちなむ映画では、若き吉永小百合さん主演の埼玉県川口市を舞台にした「キューポラのある街」が知られます。キューポラとは金属を熱で溶融するための円筒形の炉です。この映画の中では昔の職人気質がほうぼうで描かれていますが、別の鋳物の街では「昔はキューポラの稼働開始予告を知らせる合図(幕や看板)が出るまで、酒など飲んでブラブラする職人さんが多かった」(佐野市の鋳物組合)とも。歩合制のため自分の出番までは自由で、誰も文句を言わなかったらしい。せわしない現代から見れば、なんだか懐かしく、うらやましいような?



(日本物流新聞2025年7月10日号掲載)