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【EMO Hannover2025】日系大手4社の提案を振り返る

投稿日時
2025/10/24 09:49
更新日時
2025/10/24 10:01

自動化・工程集約で前進

922日から5日間、ドイツ・ハノーバーで開催されたEMO Hannover 202550周年の今展には世界45カ国から1622社がブースを構え、約8万人の来場者が世界各国から集まった。同展はドイツの景気悪化を受けて近年は縮小傾向が続き(2023年開催は約92000人が来場)、今回の日系メーカーの出展は54社にとどまった。ただDMG森精機は昨年に続きホール2を全館貸し切って40台超の工作機械を披露。ヤマザキマザック、オークマ、牧野フライス製作所などの大手日系メーカーも大型ブースで存在感を放った。いずれも今回のEMOで自動化・工程集約を従前より1歩進めた印象だ。その提案内容を振り返る。




オークマ、自動化にフィットする機械


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横形MCMS-320H」を前に。オークマヨーロッパ・技術部部長の松永夫士一氏(左)とオークマ欧米営業部の千代延哲課長

「出展した13機種のうち6台が自動化装置とセット。テーマは自動化にフィットする機械だ」。オークマヨーロッパの松永夫士一技術部部長は会場でそう力を込めた。欧州の景気動向はドイツを筆頭に苦しく、昼にセットアップして夜に自動で加工を行うニーズが従前よりさらに高まったという。ただ加工を自動化する以上、機械の異常停止は極力防がねばならず、特に切粉トラブルの対策は重要になる。その観点で「自動化を阻害する切粉トラブルを徹底改善した」とするのが横形マシニングセンタ(以下MC)「MS-320H」だ。

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オークマの横形MCMS-320H」はテーブルが横付きで切粉はけが良い

切粉の堆積をなくすため“テーブルが横から生えた”ユニークな構造を採用。真下のチップコンベヤに切粉を自然落下させる。「このスタイルはおそらく業界初。MCだがガントリーローダーで自動化した点も珍しい」と言う。こうした独自の構造を多数盛り込みつつ、機械の横幅は1580mmに抑えている。「省スペースで自動化できる。欧州の量産工程にもフィットするのではないか」と強調する。

欧州で新たに発売する横形MCMA-4000H」は、剛性を重視した従来機とスピードを重視した従来機を「1つにまとめた」機種だ。剛性とスピードが特長で、特に精度確保のために重要なB軸軸受の剛性を「今までにないレベルで高めた」という。油圧やエアー用のポートを16個設けたことで、多数個取りの場合でもロボットによるワーク着脱が可能になる。

カバーを取り払った工作機械のボディも展示した。「剛性と精度が我々の機械の根幹。精度が悪いと都度、寸法チェックが必要で自動化の意味がない。我々のしっかりした鋳物構造を見せることで、メカ的な強さを表現したかった」(松永部長)。この展示には工作機械メーカーの視察も相次いだ。

オークマ、スケルトンボディ.jpg

自動化からは離れるが、剛性を活かしたFSW(摩擦攪拌接合)の技術も展示。サンプルワークとして見せた金属製のダルマは、一見すると一体物の削り出しだが転がすと起き上がりこぼしのように勝手に姿勢が戻る。実はダルマは2つの部品をFSWで接合したもので、中に錘を入れているからだ。「FSWは欧州で問い合わせが増えている。自動車では軽量化、半導体では密封性向上の観点で注目されているからだ。専用機はハードルが高いが汎用的な機械でFSWができる点を提案している」(松永部長)








会場最大規模の「DMG MORI World


昨年に続きホールを全館貸切ったDMG森精機は「DMG MORI World」をテーマに圧巻の40台超の機械を並べた。「未来の製造」をテーマに電子・半導体/医療/金型/モビリティ/航空宇宙の5つの分野別に製品と技術を展開。新製品・技術が数多く展示されていた。

医療分野では出展機の1つである5軸複合加工機「NTX500」が「世界の人工骨・人工関節の分野でデファクトスタンダードになりつつある」(DMG森精機執行役員 兼 テクニウム社長・ブルーメンシュテンゲル健太郎氏)とする。初披露の「DMC 65 monoBLOCK 2. Generation」は自動化設備をつなぐ際、フロントドアではなく右側からアクセスする構造を採用。新たな自動化システム「MATRIS WPH」を接続してデモを行った。ハンド切替なしでパレット搬送とワークの直接搬送を1台で行えるシステム。従来は個別カステムで対応していた要望だが、標準仕様で対応が可能になった。「DMGとして新しいチャレンジ」(ブルーメンシュテンゲル健太郎氏)とする。

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MATRIS WPHはパレット搬送とワークの直接搬送がどちらも可能に

電子・半導体分野では新機種「ULTRASONIC 60 Precision」を披露。半導体業界では極めて高い加工精度が求められるが、超音波ユニットにより半導体分野の非金属素材を高精度に加工できる。超音波ユニットをドイツのシュティップスハウゼン工場で、ベースをポーランド工場で生産することで「我々の中でもかつてない高い精度(全軸5ミクロン)にも関わらず従来より1520%安くなる」と言う。ポーランド工場では従来、3軸機や2軸旋盤などを生産していたが技術力の向上によって5軸機の生産も可能な体制が整っており、このことが背景にあるようだ。黄色系の金属を機械からすべて取り除き、油が残らないクーラントを開発するなど半導体分野の高いクリーン度に対応する仕様「クリーンワン」をリリースしたことも紹介された。

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ULTRASONIC 60 Precision

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ZERODURと呼ばれる熱膨張をしない非金属素材をULTRASONIC 60 Precisionで加工したワンプルワーク

モビリティ分野で目玉となったのは新機種「NZ DUE TC」だ。NZシリーズは従来、最大4つのB軸付きタレットを搭載可能な生産性の高いターニングセンタだった。NZ DUE TCはそれに加えて切削主軸を上下に搭載できるようになる。様々なニーズに適する加工方法を選択可能だ。

会場中央には複数の自動化セルを展示。3台の工作機械と、AMRと協働ロボットを組み合わせた「WH-AMR」や最大搬送重量2000kgの「AMR2000」が連携。母材を置いたパレットやチップバケットの搬送、工具交換まで自動化してみせた。

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AMR2000がロボットを上部に載せ移動しながら様々なタスクをこなす






マザック、歯切り・研削・計測まで集約


20台の工作機械を出展したヤマザキマザック。うち7機種が世界初公開、13台は自動化システムがセットで、幅広い製品レンジと自動化による総合力を見せた。

注目を集めたのは旋削・歯切り・研削までを集約した複合加工機「INTEGREX i-350NEO AG」。プログラムが複雑化するのではないかと懸念してしまうが、歯切りや研削も「対話式の操作に慣れていれば歯切り、計測、研削、ドレッシングのパスまで簡単にプログラムを組める」(担当者)と言う。主軸の凸部をなくし切粉が絡みにくい仕様に改善したほか、フロントマガジンを標準仕様にした。ギヤの研削や機上計測まで多くの工程を1台に集約できるため「段取り替えによる誤差もない」と訴求する。

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旋削・歯切り・研削を集約した複合加工機「INTEGREX i-350NEO AG

初披露の2タレット2主軸旋盤「QRX-50MSY SG」も工程集約を可能にする機械と言える。従来もHQRシリーズという2タレット2主軸旋盤は存在したが、比較するとQRX15%ほど小型になっておりスペースあたりの生産性が高い。マガジンは上下タレット合わせて最大48本搭載可能。会場ではバーフィーダーを接続しバー材からの連続加工をしてみせた。小型のシャフトワークの量産に向く機械だ。

インド工場で生産した立形MCVC-Ez410IP」の姿もあった。インド生産機は2411月ごろから東南アジアへの輸出をはじめているが、EMOに出したのは同機を欧州でも販売するためだ。「欧州生産機より機能を絞りコストパフォーマンスを高めた機械。このたび欧州でも販売開始する」と言う。

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インド生産機を欧州でも販売






牧野フ、新5軸に新NC装置搭載


牧野フライス製作所の目玉は世界初披露の横形5軸MCa630iT」だった。最大で直径1000mm×800mm、1tの大型ワークを削れる5軸機でありながら、寸法的には630mm角を加工できる横形4軸の従来機とそれほど大差ない。加工室をのぞき込むと、トラニオンテーブルが薄くコンパクトであることが見て取ることができ、これゆえに接近性が高く「段取りなどで人が入っていくこともできる」(欧州営業部欧州担当 幸寺亮典氏)と言う。テーブルは薄いが機械構造は実績の豊富な45軸横形MCを踏襲しており「重切削でもブレない。精度も出る」とする。

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横形5軸MCa630iT」を前に。欧州営業部欧州担当の幸寺亮典氏(左)と、開発担当者

さらに同機は牧野フライス製作所の新たな制御装置「Professional 7」を搭載していた。一見して画面が大型で視認性が高いがバージョンアップの真価はむしろ内部にあるという。具体的には演算能力が大幅に向上し、従来はPCで行っていたような作業をNC装置で完結できるように。例えば加工プログラムから加工時間の見積もりを出せるほか、「サーボ等からのフィードバックに基づきカーナビ同様に加工時間の見積もりを修正する」と言う。3Dモデルでのリアルタイムの干渉チェックも可能だ。

欧州市場はドイツの自動車業界を筆頭に視界不良で、会場でも景気の現状や先行きを嘆く声があちこちで聞かれた。ただ同社は「重工系の大型発電機やエアロスペースの大型プロジェクトなどがある。市場全体は低調かもしれないが、運よく我々の強い市場が伸びている」とした。その言葉通り、会場でも船舶や発電所のサブ電源に用いるエンジンのインジェクターヘッドを模したサンプルワークを見せていた。



(日本物流新聞2025年10月10日号掲載より加筆)