CLO設置で深化する物流改革
- 投稿日時
- 2026/02/26 09:00
- 更新日時
- 2026/02/26 09:00
司令塔が「現場」と向き合うべき理由
「物流の2024年問題」は、もはや議論のフェーズを終え、日本社会全体が直面する共通の課題となっている。トラックドライバーの時間外労働規制は既に施行され、我々は「運べる能力」が刻一刻と減退する時代を生きている。さらに、何の対策も講じなければ約34%もの輸送能力が不足するという「2030年危機」も控える。最悪の状況をいかに回避し、持続性を確保するかはこの先5年の取り組みにかかっている。その鍵を握るのが、今年4月に全面施行となる「物資の流通の効率化に関する法律(改正法)」、通称「新物効法」であり、それを現場に落とし込む司令塔、いわゆるCLO(Chief Logistics Officer、物流統括管理者)だ。
日本の経済を静かに支えてきた物流がいまだかつてない変革期に直面している。今年4月に全面施行される新物効法は、史上初めて荷主サイドを規制するものとなる。具体的には、年間取扱貨物重量が9万㌧以上の荷主を「特定荷主」と指定し、物流効率化を努力義務から法的義務へと引き上げる。
本制度がモデルとしたのは、かつて日本を「省エネ後進国」から「先進国」へと押し上げた省エネ法の「トップランナー制度」である。業界を牽引する大手企業に厳しい義務を課し、その背中を中堅・中小企業に追わせることで、サプライチェーン全体の底上げを狙う。
新物効法でも特定荷主には、「中長期計画」の策定と「定期報告」が義務付けられる。取り組みが著しく不十分な場合には、国による勧告や社名公表、さらには最大100万円の罰金という罰則までもが備わる。従来のように「現場任せ」は通用せず、物流が経営マターとなる「歴史的な転換点」になる可能性が極めて高い。
変革を率いるのが、選任が義務化された「物流統括管理者(CLO)」の存在だ。CLOに求められるのは、単なる物流部門の専門知識ではない。法がCLOを「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」と定義している通り、役員級の経営幹部がその任に就くべきものとなっている。

なぜ経営層なのか。それは物流効率化のボトルネックが、物流部門の関与できない「他部門の聖域」にあるからだ。例えば、製造部門の「ジャストインタイム」や販売部門の「短納期対応」は、物流現場での長時間待機や低積載率という「歪み」によって支えられてきた側面がある。CLOには、こうした部門間の壁を壊し、時には社外ともやり取りしながら、全社最適の視点で取り組む役割が期待される。政府の有識者会議などにも出席するローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏は、CLOが必ずしも物流に詳しい必要はないとし、「経営者目線で他部門に意見を言える人」「その会社で声が大きい部門の出身者」こそが、長年の慣習を打破する突破口になると指摘する。
■まずは「現場」を見るべし
具体的にCLOが進めるべき実務は、物流の現状を「数値」として可視化し、経営指標へと昇華させることだ。特定荷主には、5年を上限とする中長期計画の策定と、毎年度の定期報告が課される。中長期計画には、載効率の向上や荷待ち・荷役時間の短縮に向けた数値目標に加え、「誰が」「いつまでに」「何を」行うかという具体的な実行計画を盛り込まなければならない。
そのため、CLOがまずすべきは、学習院大学の河合亜矢子教授の言葉を借りれば、「(現場のデータを)粗々のものでもいいから、まず数値化して見える化する」ことだ。河合教授は、物流改革の先頭を行く企業の多くでも、リーダーがまず現場に立ちデータと照らし合わせながら「これっておかしくないか?」と疑問を持つところから始めていると指摘。全体最適はその先にあるとする。
この「現場の数値化」こそが、義務化される定期報告の実効性を左右する。定期報告では、自社管理施設でのドライバーの待機時間を計測し、実態を把握することが求められる。これまで「タダ」だと思われてきたドライバーの拘束時間が、今後は「対価を支払うべきコスト」として、経営の表舞台に引きずりだされることになる。
だからといって、データ取得に多大なコストや時間は掛けられない。従来のように、ストップウォッチによる張り付き調査や高額な追加設備が必須な状況では改革は進まない。(一社)運輸デジタルビジネス協議会とtraevoが提供する動態管理プラットフォーム「traevo Platform」に注目が集まっている。トラックに装備されているデジタルタコグラフを活用することで、トラック1台当たり月額500円という価格で待機時間や荷役時間を可視化できる。実態が数値化されれば、省力化・自動化設備やバース予約システムの導入といった、真に効果的な投資判断への道筋も立つ。
2030年の輸送能力不足を目前に控え、日本企業が目指すべきは単なるコスト削減ではない。物流を経営戦略の核に据え、付加価値を生む「戦略的武器」へと進化させることだ。次期物流施策大綱では、自動運転トラックやドローン、AIによる配車最適化など、最先端技術の社会実装に目が向けられる。その恩恵を享受できるのは、今この瞬間に「物流を経営課題」と捉え、行動変容を決断した企業だけである。
物流を単なるコストセンターとして現場に押し付ける時代は終わった。CLOの設置を単なる法的義務の消化で終わらせるのか、それとも100年に一度の構造改革をリードし、自社の収益力と競争力を高める絶好の「チャンス」と捉えるのか。いま、日本企業の経営体質そのものが問われている。
フコク、重量物搬送を安全、手軽に
生産性高める「バキュームリフト」
改正物流効率化法が施行され、一定規模以上の荷主企業には荷待ち・荷役時間の削減に向けた抜本的な対策が求められている。一方で、大型重量物や鋼材の荷役は、安全確保のために慎重な作業が不可欠であり、単純な時間短縮が難しい領域だ。そのため、法が求める「物流の停滞解消」と安全を担保した上での効率化の両立が避けて通れない。こうした中、フコクの「バキュームリフト」が、安全に荷役の省人化とスピードアップを実現すると注目を集めている。
物流効率化法の改正により、特定事業者(大規模荷主など)には中長期的な計画作成や、荷役時間の短縮が義務付けられた。しかし、重量物の搬送現場では、安全確認に時間を要するため、荷役時間の把握や報告が免除されるケースもある。だからといって何ら対策を打たなくていいかというとそうではない。ドライバーの長時間労働抑制が全業種で至上命題となる中、重量物を扱う荷主にも「荷待ち時間の短縮」や「輸送効率の最大化」に向けた具体的なアクションが期待されている。
フコクのバキュームリフトは、こうした重量物搬送の作業を一変させる。クレーンに吊り下げられた装置が、ボタン一つで対象物を吸着し、軽々と持ち上げる。作業員は、重いものを持ち上げる筋力や、バランスを保つための体力から解放される。これにより、作業後の疲労度が劇的に軽減され、作業効率やモチベーションの維持にもつながる。高齢化が進む建設・製造現場において、熟練の技術者が長く安心して働き続けられる環境を整えることは、技術継承という喫緊の課題にもつながる。
バキュームリフトの中でも、特に現場の働き方改革に貢献するのが、電源やコンプレッサーを必要としない無動力モデルだ。クレーンの昇降動作だけで吸着と離脱を行うこのシステムは、電力供給が不安定な場所や、配線が煩雑になりがちな現場でも、手軽かつ安全に利用できる。

無動力モデルのバキュームリフト
さらに、ランニングコストの削減という経済的メリットも見逃せない。電気代やメンテナンスコストが抑えられることは、特に中小企業にとって大きな利点となり、設備投資のハードルを下げる効果もある。
無動力モデルのS型(シングル)は機械加工や製缶加工に適しており、石材やガラス材など多彩な材料を安全に搬送する。M型(標準マルチ型)は2個以上のパッドを持つタイプ。パッドが横一列の配列となっており、横幅のたわみが少ない鋼板の搬送に適している。さらに定尺鋼板型は、大型の鋼板を水平かつ安定したバランスで搬送が可能。建築向け資材の加工はもちろん、プラズマ切断機やレーザー切断機、タレットパンチなど板金機械へのテーブル搬送にも向く。
■鋼材搬送の手間が激減
電動式のバキュームリフトは独自の技術による数々の安全を考慮した真空ポンプユニットを搭載し、安全性と作業性を両立。最大12㌧以上の搬送を可能とし、造船所や製鋼所、橋梁建設現場、プラントメーカーなどに採用されており、大型鋼板の安全・確実な搬送を担っている。

電動式バキュームリフト
実際に同社の電動式バキュームリフトを採用した現場では「従来の重量物運搬は、複数人での作業が必須であったが、こうした装置を導入すれば、1〜2人の少人数で安全かつ迅速に作業を行える。それによって、他の作業員を別の工程に配置できるようになり、全体の工程効率が劇的に改善された」という。
別の現場では「吸着と離脱がスムーズに行えるため、作業時間の短縮につながる。例えば、鋼材を一枚ずつ運ぶ作業でも、従来のように複数人で持ち直す手間がなくなり、数倍のスピードで作業が進む」と話す。
こうした生産性の向上は、結果として労働時間の短縮につながり、作業員がより多くの休暇を取得できる環境を作り出す。これは建設業界などで喫緊の課題とされている「週休二日制」の実現を強力に後押しする。残業を減らし、休日を増やすことで、ワークライフバランスが改善され、離職率の低下や新たな人材の確保にもつながる。
汗と根性で乗り切る旧態依然とした現場から、安全でスマートに、そして効率的に働くことが評価される現場へ。フコクのバキュームリフトは、その転換を象徴する存在だ。作業員は、重いものを運ぶための肉体労働者ではなく、機械を巧みに操り、工程全体を管理するスマートなプロフェッショナルへと生まれ変わる。
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(日本物流新聞2026年2月25日号掲載)