2026年度の設備投資はどう動く?「端境期」を脱する半導体・造船・防衛の市場展望
- 投稿日時
- 2026/03/11 14:58
- 更新日時
- 2026/03/11 15:16
自動車業界の設備投資は停滞したままなのか?
「端境期」という言葉は本来、米や野菜の供給が収穫期の谷間で一時的に少なくなる時期のことを指す。だが現状の国内生産財市場も、まさにこの端境期と言えるのではないか。長らく設備投資を牽引してきた自動車の投資が停滞するなか、浮揚の芽をどこに見出すのか。本特集では2号続けて注目市場の動向にフォーカス。
(一社)日本工作機械工業会が発表した2025年(暦年)の工作機械受注(確報)は、前年比8.0%増の1兆6043億円だった。過去4番目に高い数字……なのだが業界にさほどの明るさはない。アジアと米国の需要が牽引し外需は過去最高だったが、内需は自動車関連のまとまった投資が少なく、25年の年始に期待されたような本格的な回復には程遠かった。体感と受注金額が乖離している状況は、好況の実感が乏しいままに株価だけがぐんぐん上昇していく状況にも似ている。目線を国内市場に絞れば、25年はまさに設備投資の「端境期」と言うべき一年だったのではないか。
「来年こそは自動車の本格投資がある」という期待は数年前から年始や期初になると盛んにささやかれ、後半にかけてしぼみ、そのたびにマーケットは落胆を味わってきた。足元では投資の復調傾向が見られるものの、電動化の動向はいまだ不明瞭で、いつ来るかわからない投資をいつもまでもただ待ってはいられない。そうした背景から、自動車以外の活路を模索する各社の動きは25年にかけてかなり鮮明になった。半導体、造船、防衛、プラント、ヒューマノイド。様々な業界の動向に耳をそば立て、端境期を乗り越えようとする。
■半導体、26年に爆発か
26年にまとまった投資が見込める分野はどこだろうか。
高市政権が先の衆議院選挙に大勝したことで、政権が掲げる17の重点戦略分野における設備投資がさらに有望視されるようになった。重点分野の(1)に掲げられたのは「AI・半導体」である。まさにこの分野の投資が26年の生産財市場のけん引役になる期待は大きい。

年始に開かれた(一社)日本半導体製造装置協会の賀詞交歓会で、登壇した河合利樹会長(東京エレクトロン社長)は「12月2日に公表されたWSTS世界半導体市場統計によると、26年の半導体市場は9755億㌦と予想されている。2030年頃に1兆㌦という以前の市場コンセンサスに対し大幅な前倒しとなっている」と力強く口火を切った。
これを踏まえて25年度の日本製装置販売高は、台湾ファウンドリによる㌨メートル世代のGAA構造への本格投資やHBM(高帯域幅メモリー)を中心とした底堅いDRAM投資に支えられ、前年度比3%増の4兆9111億円と堅調に推移する見通し。そして迎える26年度、市場は一気にギアを上げ、「前年度比12%増の5兆5004億円に達する」との見方が示された。

河合利樹会長
さらに河合会長は「足元ではAIサーバー向け半導体の供給不足に対して投資の前倒しや追加の動きもあり、さらなる上方修正の可能性が高まっている」とする。
AIの普及によってデータセンターの需要が急速に増加しており、30年には現在と比べデータセンターの電力消費が約130%増加すると予測される。この課題は政府も認識しており、同じ賀詞交歓会に登壇した経済産業省の西川和見大臣官房審議官は「 AIやデータセンター活用で電力需要の拡大が“爆発”する。エネルギー供給が半導体産業の発展や国の経済成長の制約になってはならない。基盤となるエネルギーも徹底的に確保し、そのための危機管理投資をやるのが今の高市政権の方針」と語った。
経済産業省ではAI・半導体政策に30年までに10兆円以上の公的支援の枠組みを策定しており、TSMCやラピダスなど重要な半導体拠点への出資・支援を加速させる構えだ。
半導体の製造装置に留まらず、データセンターが増えれば冷却設備など関連した投資が、発電設備が増えればタービンなど付帯した部品加工の需要が望めるだろう。半導体は日本の安全保障の上でもかなり重要視されており、政府の支援策も手厚い。実際に年始の様々な賀詞交歓会場で本紙が59人を対象に行ったアンケートでも、今年のキーワードに「半導体、電子部品」を選んだ人が7人と最多だった。工作機械メーカーなどから「半導体・AI・電子部品関連市場の拡大に期待」との声が複数聞かれた。26年の設備投資のドライバー役、その筆頭はやはり半導体とその関連投資と言ってよいのではないか。
■造船、 建造量倍へ
半導体以外にも好調な分野はいくつか目につく。その1つが造船だ。先に触れた高市政権17の重点戦略分野でも、「AI・半導体に」次いで挙げられたのは「造船」だった。日本の造船業は中韓とのコスト競争に押されて長らく低迷に苦しんできたが、世界的な船舶需要の高まりに円安が追い風となって、ここにきて明確に力強さを取り戻しつつある。
近年は中国に押され日本船のシェアは低迷していたが、地政学的リスクの高まりに伴い、四方を海に囲まれた日本における造船業の重要性が改めて認識されるようになった。自前で船を作れることの意味は経済安全保障上、極めて大きい。政府は年末に「造船業再生ロードマップ」を公表、補助金も投入し35年までに建造量を現状の倍の1800万総㌧に引き上げる方針を明かした。併せてゼロエミッション船などの次世代船舶の開発で先行し、国際的なイニシアチブを握る目標も掲げる。
建造量倍、という野心的な目標がどこまで実現できるかは不透明だが、造船各社はかなりの手持ち工事を抱えており、船舶サプライヤーも先々を見据えた投資がしやすい環境が続く。鋼材の加工機や溶接機、また深刻な人手不足を補うための自動化投資が中長期的に期待できるだろう(10~12面に造船の詳しい記事)。
他にも自動車の投資に局地的ではあるが復調の兆しが見られたり(6面に記事)、穏やかではないが防衛産業の投資が足元で大きく活気づくなど(7面に記事)、端境期の国内市場にも浮上の芽は十分にありそうだ。
(一社)日本工作機械工業会は26年の工作機械受注額を前年比6.0%アップの1兆7000億円と見通している。達成できれば過去3番目に高い水準だ。足元の世界情勢は予断を許さないが、できれば国内投資が下支えする形で1年後にこの数字を達成したい。
端境期の注目市場(1)
自動車投資は低迷したままなのか
北関東に薄日差し込む
長らく低迷が続く国内自動車向けの工作機械受注。電動化や内燃機関向け投資の抑制といった構造変化のさなかにあり、2025年まで国内の自動車向け工作機械受注は3年連続で減少している。
だが、ここにきて薄日が差してきている。
「埼玉、群馬がようやく動き始めてきた」
こう話すのは首都圏の大手機械ディーラー。それによると、ホンダやスバルといったメーカーがハイブリッド車を中心とした生産拡大に向け、本腰を入れ始めているという。時期を同じくして、工作機械メーカー幹部も「去年は壊滅的だった北関東だが、昨年後半からはっきりと回復傾向にある」という。

これらの発言を裏付けるかのように、日工会統計の自動車向け受注は2025年8月を境にゆるやかな上昇曲線を描き始めている。2025年12月の自動車及び自動車部品向けを合わせた受注は約150億円弱、2026年1月は105億円といずれも前年同期を上回っている。
「自動車がダメだから機械が売れない」が常套句になりつつある昨今。だが、日本政策投資銀行「全国設備投資計画調査」を紐解くと、2023年以降自動車産業の設備投資は年々増加。2024年には約1兆6000億円規模に達している。輸送用機械の設備投資額と合わせると3兆2000億円という巨額の投資が行われている。
では、機械を買わずどこに設備投資をしているのか。巨額の資金が投じられているのは車載電池(バッテリー)の生産体制構築に対してだ。主要メーカーは、電動車拡充のために設備投資と研究開発費を過去最高水準に引き上げている。また、それにともない知能化・SDV(ソフトウェア定義車両)の開発に向けたIT・デジタル基盤への投資が加速している。
ここにようやく、国内の既存工場の生産ラインをEVやハイブリッド車向けに改修する「能力増強・更新」が入り込んできたのが現状だ。また製造工程におけるCO2排出削減を目指した、省エネ設備や再生可能エネルギー関連の導入投資も徐々に動き始めている。
では、どのような機械が売れているのか。前出の大手機械ディーラーが話す。
「需要が増えているのが5軸MC。モーターケースやインバーター筐体、バッテリーケースなどのアルミダイカスト部品の加工向けに高精度かつ高速に削る能力が求められている。高精度の複合旋盤もモーターシャフトや、減速機向け精密シャフトの加工でニーズが増えている。またEVではギアの静粛性が要求されることから、超精密ギヤ研削盤の導入も進んでいる。加えて機械単体だけではなく、ロボット統合型やパレチェン付き工作機械といった自動化需要も底堅い」
日工会は2026年工作機械の受注額は前年比6%増の1兆7000億円と予測。特にEV関連や自動化といった自動車向け投資がけん引役になると見ている。予測通りとなれば、自動車産業向けモノづくりも再び活況を呈するだろう。
端境期の注目市場(2)
AMが切り拓く参入の扉
防衛産業、中小・新興勢力の波
日本の防衛産業が、静かに、しかし確実に変わり始めている。ロシアによるウクライナ侵略を機に安全保障の現実が世界規模で問い直されるなか、日本政府は2022年末、防衛生産・技術基盤を「防衛力そのもの」と位置づける国家安全保障戦略を策定した。防衛費はGDP比2%を目標に増額が続き、25年度の防衛関係予算は8兆7000億円超に達する。新規契約額も23年度以降に急拡大し、防衛産業を取り巻く環境は明らかに変質した。
マーケットの関心も高い。世界最大級の防衛・セキュリティ関連展の日本版「DSEI Japan」の出展社数は23年の291社から25年には471社へと倍増。国内企業だけでも86社から169社へと急増した。産業政策としての防衛への本気度が増す中、これまで防衛需要依存度が平均4%程度に留まってきた国内製造業各社の関心が急速に高まっている。

ドローンの迎撃用ドローン
背景には、ウクライナ紛争が示した現代戦の変容がある。ドローンや自律型ロボットが主役に躍り出た戦場では、装備品の設計は数週間単位で更新され、補給の在り方そのものが問い直されている。今まで以上に「速度」と「柔軟性」が求められる新しい戦場は、必ずしも巨大な設備を必要としない。
■AM主戦場・防衛が日本でも
こうした潮流の中で脚光を浴びているのが積層造形(AM)だ。防衛省でも部隊への3Dプリンター導入に向けた実証実験の発注が確認されているほか、3Dプリンター部品を搭載した小型無人機の飛行試験と独自の認証プロセスの立案を求める仕様書も公開されている。陸上自衛隊はAM人材の育成を目的に任期付自衛官の募集まで行っており、単なる試験・研究の段階から「認証・運用」の段階へと歩を進めている。
1月に行われた3Dプリンター・AM展示会「TCT Japan 2026」でも、そうした兆候は見られた。会場では治具や金型部品での活用だけではなく、ドローンを追撃するためのドローンや銃の消音機(サプレッサー)など、防衛産業向けを示唆する展示も見られた。ニデックマシンツールは、自衛隊で使用されている「3 1/2t トラック」に金属3Dプリンターを積載するイメージを披露。同社担当者は「海外ではコンテナへ3Dプリンターを積載し、前線で部品を作るといった提案がトレンドとなっている」ことを受けたものだと説明した。汎用工作機械などと組み合わせれば、材料は金属粉末のみで完結し、前線や離島などでも部品を製造できるようになる可能性がある。

3Dプリンターで造形した銃の消音機(サプレッサー)。内部構造に発砲時の衝撃や音の減衰特性を持つ。欧米では既にニーズが高まっているという
会場では「ドローンやロボットの活用は、これまで重工メーカーしか参加できなかった防衛市場を一変させる。中小・新興企業にも門戸が開かれつつある」といった期待も聞かれ、その一軸としてAMが定着する日も遠くなさそうだ。
端境期の注目市場(3)
ヒューマノイドで需要増、樹脂加工に照準?
スーパーエンプラ用刃物も登場

昨年12月の国際ロボット展にはヒューマノイドロボットが数多く集まった。
樹脂加工ににわかに注目が集まっている。きっかけの1つにヒューマノイドロボットが登場したことがある。ロボットの関節に減速機が使われ、減速機にはギヤが必要になる。このギヤ加工のニーズが出てきたと話すホブ盤メーカーもある。ギヤには軽くて耐久性が高いことが求められる。そこで採用され始めたのがPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などのスーパーエンジニアリングプラスチックだ。

ホブ盤メーカーがヒューマノイドロボットに使われることを想定してテスト加工した直径3.6mmの棒状ギヤ
PEEKは丈夫で過酷な環境で使えるのが特長。250℃に耐え、酸・アルカリ系溶剤に強く、金属を代替できるほどの剛性をもつ。この分野に詳しい歯車加工機メーカー、清和ジーテックの達俊彦社長は「航空機での材料革命がCFRPであったようにロボットでPEEKが革命的な材料になる」と話す。
「人型ロボットの初期のタイプで0.09ほどの歯車モジュールが遊星ローラースクリューなどの減速機1ユニットに十数個組み込まれている。減速機はヒューマノイド1体に150~300個の歯車が必要になる。巨大な歯車市場が誕生する」
米テスラは注力分野をEVからロボットや自動運転へシフトしようとしている。EVの「モデルS」「モデルX」の2車種の生産を終えると発表しており、その工場でヒューマノイドロボット「オプティマス」を製造するという。長期的にはオプティマスを年100万台を生産するとの見通しを示した。
減速機メーカーにも動きが見られる。ハーモニック・ドライブ・システムズは今夏をめどに米国工場(マサチューセッツ州)を増強する。減速機やアクチュエーターの生産能力を現在の5割増の1万5千台に引き上げる。米国でヒューマノイドロボットやフィジカルAI関連の開発が進んでいることに対応する構えだ。
■ゆるやかな 左ねじりが有効か
刃物メーカーは樹脂加工への対応力を高めている。オーエスジーはおそらく業界で唯一、「スーパーエンプラ用」と謳うDLC超硬エンドミル「SEP-EL」(刃径0.5~6ミリ)を医療や半導体産業向けにJIMTOF2024で披露し、昨年発売した。すでに非鉄金属用の同「AE-TL」もあるが、ねじれが強く樹脂加工ではバリが出やすいという。同社は「新開発のSEP-ELはねじれがゆるやかで、樹脂切削特有のバリが出にくい。まずはこれが第1弾」と後続製品の投入を示唆する。

バリが出やすいPFA(フッ素系樹脂)を加工した様子(切削速度約60m/min、刃あたり送り約0.06mm/t)。用いた刃物は左からSEP-EL、AE-TL-N、従来の鋼用4枚刃(オーエスジーの資料から)
日進工具は樹脂加工用エンドミルシリーズに3枚刃右刃左ねじれのスクエアエンドミル「RSE325LH」(刃径1~6ミリ)を昨年12月に加えた。エンドミルは右ねじれが一般的だが、左ねじれ(同社の標準品では初)にしたことで「下方向に切りくずがはけるので、樹脂を削った際にバリが立ちにくい」と言う。同社がMCナイロンの側面加工(刃径6㍉×12㍉)をしたところ、既存の樹脂加工用エンドミル(RSE230)で生じたバリ幅が0・081㍉だったのに対し、RSE325LHではバリ幅0・028㍉に抑えられた。このシリーズのカタログには各種エンドミルおよび各種被削材に対して参考となる切削条件を記載。「樹脂でひとくくりにせず、被削材の種類や外径・刃長・首下長などに合わせて切削条件を変えていただければ」と注意を促す。

日進工具のゆるやかな左ねじれのRSE325LH(右)と一般的なエンドミル
樹脂についてはサポートレスで造形できる小型の3Dプリンターが登場しそうだ。桜井製作所が1月に東京のAM技術展で参考出品した「IGNISYS(イグニシス)」がそれで、ペレット状の樹脂材料を用いて1層ずつ積み重ねて造形する(FGF方式)。造形する際、5軸制御で台座を適した向きに傾けることで、造形物が自重で垂れ下がるのを防ぐ。櫻井成二社長は「PEEK材など高価な材料を使用する際、サポート材として使いたくないという要望がある。サポート材の分だけコストがかかるうえ、造形時間も長くなる」と開発した理由を話す。様々な樹脂材料の利用を想定し、機内のチャンバーは160℃まで上がる。
(日本物流新聞2026年3月10日号掲載)