法改正で高齢者の労災防止措置が努力義務へ
- 投稿日時
- 2025/07/11 13:08
- 更新日時
- 2025/07/30 11:24

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働く高齢者の労災防止を目的とした作業環境の整備を、努力義務として事業者に課す改正労働安全衛生法が今年5月に衆議院本会議で可決され成立した。2026年4月から順次施行される。足元ではシニアの就労人口が増えており、同時に労災件数も増加傾向に。今回の法改正は企業がこの課題に取り組むうえで強力な動機付けになるだろう。関連して働きやすい工場環境を整えるためのヒントも探った。
少子高齢化の先頭集団を走る日本。だが実は労働力人口(15歳以上人口のうち就業者と完全失業者を合わせた数)は、この10年で348万人も増加している。足元でも2024年平均の労働力人口は6957万人と、前年比で32万人も増加した。人口減少のイメージが強い日本だけにこの話を意外に思う向きも多いのではないか。
働き手が増えている要因はほぼ、女性の労働力人口が特に55歳以上で増加していることによる。参考までに24年平均の男性の労働力人口は前年比で1万人の減少、女性は33万人増加しており、55~64歳で29万人、65歳以上で16万人も増えた。中高年の働き手が顕著に増加している。その存在はもはや人手不足にあえぐ日本社会において不可欠な存在になっている。
だが中高年齢労働者の増加は労働災害の件数が増える一因にもなっていそうだ。2023年の労災による死傷者数(休業4日以上)は13万5371人と前年比で3016人増加。労災は様々な要因が絡み合って発生するため一概には言えないが、事実として22年の休業4日以上の労働災害の死傷者のうち60歳以上は28.7%を占める。とりわけ高年齢女性の転倒災害発生率が高く、60代以上は20代の約15倍にもなる(第14次労働災害防止計画資料より)。休業期間も年齢が上がるにつれて長くなる傾向がある。
こうした状況を受けて厚生労働省は20年に高齢労働者の労災防止に向けたエイジフレンドリーガイドラインを策定。事業者へ高齢者の特性を考慮したな労働災害防止対策に積極的に取り組むよう促してエイジフレンドリー補助金まで用意したが、十分な成果を生まなかった。
今年5月の労働安全衛生法の改正で、働く高齢者の労災防止を目的とした作業環境の整備を努力義務として事業者に課したのはこうしたガイドラインに法的な根拠を与える目的がある。今回の法改正にあたり厚労省から具体的な情報はまだ出そろっていないが、改正の内容として「事業者は高年齢者の労働災害の防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない」とされている。
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今回の法改正は多くの企業にとって、先送りしてきた宿題に着手する契機になるだろう。労働安全衛生や作業環境の改善は直接的に自社の利益につながりづらく、投資の優先順位が上がりにくい傾向があったが、この状況に変化が期待できるかもしれない。
エイジフレンドリーガイドラインには職場環境の改善例として、「通路を含めた作業場所の照度確保」や「解消できない危険個所への標識等の注意喚起」「パワーアシストスーツの導入」などを挙げている。改正法の施行に先立ちこうした対策に着手したい。
熱中症対策義務化、対応を急げ
7月末~8月半ばダブル高気圧で40℃級の酷暑も
今年の6月1日、職場の熱中症対策に関する労働安全衛生規則の一部を改正する省令が施行された。職場の熱中症対策が事業者に義務づけられ、罰則規定も。昨年は世界全体の気温が観測史上もっとも暑く、日本も6~8月は歴代1位タイだった。今夏も気象庁が全域で平年より気温が「高い」と予測。職場の暑気対策が急がれる。
風鈴に趣を感じる余裕があったのは昔の話。令和の夏は気が遠くなる酷暑の連続だ。昨夏(6~8月)の暑さは2年連続過去最高で平年と比べ+1.76度だった。気象庁は特に7月以降について「異常気象だと言える」と振り返っている。
気象庁が6月24日に公表した7~9月の3カ月予報では、全国的に暖かい空気に覆われやすいため向こう3カ月の気温を全国で平年より「高い」とした。ウェザーニューズも同日発表した予報で同様の見解を示す。特に7月末~8月前半にかけて2つの高気圧が上空で重なり合う“ダブル高気圧”が発生した場合は、「35度以上の猛暑日が続き内陸部などでは40度前後の酷暑になることがある」とする。今夏も日本はたぶん、うんざりするほど暑い。
近年、熱中症による死者数は高止まりしており対策が急がれる。これを受けて職場の熱中症対策に関する労働安全衛生規則の一部を改正する省令が6月1日に施行された。職場の熱中症対策の強化が事業者に義務付けられ、適正な対策を行わなかった場合は6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性がある。
課される義務は体制整備と手順作成、関係者への周知。(1)熱中症の自覚やおそれがある人を報告する体制を整備する(2)事業場ごとに緊急連絡網や緊急連絡先とその所在地を取りまとめる(3)作業からの離脱や体の冷却、医療機関への搬送など重篤化を防ぐ措置の手順を定める―を行い関係者へ周知する必要がある。対象は暑さ指数28度以上または気温31℃以上の環境下で、連続1時間以上か1日4時間を超える作業。あらゆる業界が対象だ。
改正法では熱中症を起こさないための対策が義務付けられるわけではないが、厚生労働省の担当者は「予防に関しては従前から労働安全衛生規則で屋内の暑熱な現場に冷房や空調設備の設置を求める規定がある」と、暑気対策の必要性を説く。事業者は従業員を危険な暑さから守るため対策を講じるべきだろう。
WBGT測るIoT機器が好調
NKE 営業部 営業支援グループ 岡 友也 氏
労働安全衛生規則の一部を改正する省令が6月1日に施行され、職場の熱中症対策の強化が事業者に義務付けられた。対象は暑さ指数(WBGT)28度以上または気温31度以上で、連続1時間以上か1日4時間を超える作業。これに伴いWBGTを測定したい現場が増えており、NKEの提供する「WBGTれんら君」にも高い関心が寄せられる。
――「WBGTれんら君」を展開しています。
「以前から人感センサーや音センサーを備え高齢者を見守る『見守りれんら君』というIoT機器を展開していました。ただ今年6月から職場の熱中症対策が義務に。そこで従来機能を活かしつつ、より熱中症対策に役立つよう改良した『WBGTれんら君』を開発しました」
――機能は。
「本体に温湿度センサーを内蔵し、WBGTや温度・湿度、熱中症の警戒レベルをモニタに一括表示します。複数のれんら君の情報を1画面に集約することも可能。WBGTや温湿度があらかじめ設定した閾値を超えるとメールやブザーで知らせ、音声で水分補給などを推奨する機能も追加予定です。データは約1年分が蓄積されるので分析して適切な対策を講じられます。また我々の機器の特徴として夏場に限らず通年使えます」
――冬場はどう使う。
「冬はインフルエンザなど感染症のリスクが高まりますが、温度や湿度から危険度を可視化できます。熱中症同様、情報を一括表示する画面も専用で設計しました。さらに人感センサーと音センサーを活かした簡易的な防犯機器としての使い方も。単にWBGTを測定するだけはでないプラスαの付加価値が特徴です」
――職場の熱中症対策が義務化されましたが、反響は。
「義務化のスタートは6月。先立って4、5月に問い合わせが増えると想定していましたが、意外と少なく6月に問い合わせが急増しました。業界を問わず需要が寄せられ販売も伸びています。今は新品をサンプルとして貸し出し、気に入ってもらえればそのまま購入いただく提案を進めています。この形なら返却が不要で再設置の手間がない。すぐに使えます」
職場環境を変える製品群
ミノル工業、軽量・コンパクトな圧着工具、新ハンドル仕様に
開き幅狭めて女性作業者にも使いやすく
ミノル工業(大阪府大阪市中央区上町1-28-28 TEL.06-6764-5551)はこのほど、自社ブランド工具「M Creative」から、新仕様のハンドルを採用した裸圧着端子・スリーブ用の圧着工具「MC10H002J」を発売した。ハンドル開閉時の開き幅を約20%狭くし(同社比)、握りやすさをアップ。軽量・コンパクトに使える。「制御盤やハーネスの圧着作業は女性の作業者が多い。握りはじめを狭くすることで小さい手でも握りやすくなり、圧着荷重も軽減する」(同社)。
安全・確実に圧着作業を行えるJIS製品。エラストマー採用のグリップは手にフィットし、連続作業でも負担が少ない。端子・スリーブ呼び1.25㎟、2㎟に対応。全長167㎜、質量は235g。
岩崎電気、LEDioc HIGH-BAY θ(レディオック ハイベイ シータ)
幅広い機種で低温から高温まで対応
2026年4月から順次、高齢者の労災防止を目的とした作業環境の整備を努力義務として事業者に課す改正労働安全衛生法が施行される。厚生労働省が定めたエイジフレンドリーガイドラインは職場環境の改善例として「通路を含めた作業場所の照度確保」を掲げており、このことからも明るいLED照明器具を適切に配備することは今後ますます重要になるだろう。
岩崎電気のLEDioc HIGH-BAY θ(レディオック ハイベイ シータ)はマイナス30度の低温域から常温まで幅広い使用温度に対応するLED高天井用照明器具だ。保護等級IP65に準拠し、さらにオイルミストや80℃もの高温、マイナス40度の低温に対応する機種などラインナップを広く揃える。LED照明は元々省エネ効果が高いが、人の出入りが少ない現場に適した人感センサー搭載のタイプもある。高齢者の労働災害では転倒事故の割合が高いだけに、照度の足りない箇所の対策を急ぎたい。
NKEのエアサポ、安価な超小型アシストスーツ
NKEが販売する「エアサポ」は、腰部の負荷軽減に特化した超小型アシストスーツだ。標準価格は税込み2万4970円とアシストスーツの中ではかなり価格競争力が高い。無料の試着レンタルも行っているが、そのために用意した約70着がほぼフル稼働で貸し出される状況が続いており、実際に試した企業の半数以上が導入に踏み切っているという。
エアサポは腰に巻き付けるように装着。エアーで収縮する16本の人工筋肉が腰部をサポートして腹直筋の負担を最大55%、腹斜筋の負担を最大47%軽減する(ユニチカガーメンテック調べ)。頸椎がぐっと押されることで正しい姿勢を保つ働きもあり、腰痛などの労働災害を防ぐ。
記者も1時間ほど装着してみたが途中で巻いていることを忘れる自然な付け心地だった。
バーテック、イージームーヴブラシ
大きな板の搬送、移動時の製品のクッションに
バーテックはブラシを活用したFA事業に注力している。大きな板の搬送、移動時の製品のクッションにブラシを使用するイージームーヴブラシもその一つだ。キャスター部分にブラシを植毛した新しい発想の搬送ツールであり家具や建材製造工場、板金加工工場など、大きな板材を取り扱う現場での搬送作業を効率化できる。
製品を守るクッション性があり、ブラシが製品とキャスターの接触面をやさしく保護し、鋼板や木板などの繊細な素材にも傷をつけにくい設計となっている。
また自由自在の搬送性能もストロングポイントであらゆる方向にスムーズに移動できるため、重い板材の取り扱いが楽になり、 作業効率が向上する。
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(日本物流新聞2025年7月10日号掲載)