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【2026年新春産業展望】造船、35年建造量倍へ再生ロードマップ

投稿日時
2026/01/08 14:04
更新日時
2026/01/08 16:24
新来島豊橋造船が建造し昨年に川崎汽船に引き渡された自動車専用船。LNG燃料を使用することで、従来の重油燃料に比べCO2の排出を25~30%、硫黄酸化物の排出をほぼ100%削減できるという。ロードマップではこうした特殊船舶で技術的優位を発揮し、海外市場への展開を目指す方針が示された

自動化・省力化への投資と再編進むか

長らく低迷に苦しんだ造船業界が浮上中だ。世界的な船舶需要の高まりに円安が追い風となって、中韓とのコスト競争に押されていた日本の造船業が力強さを取り戻しつつある。15日には国内最大手の今治造船が業界2位のジャパンマリンユナイテッドを子会社化、建造量で世界有数の規模となった。株式市場も沸騰。船用エンジン大手の三井E&Sの株価は23年にはおおむね300~500円台で推移していたが、昨年11月に7000円台まで駆け上った。

期待が過熱するのは造船再生が国策だからだ。地政学的リスクの高まりに伴い、四方を海に囲まれた島国・日本における造船業の重要性が改めて認識されるようになった。造船は日中韓で世界市場の9割を占める。19年頃まで日本の船舶受注量におけるシェアは20%前後で推移していたが、24年は8%に下落。この間に中国企業が支配力を強めた。22年以降は日本船主も中国造船所へ3~4割を発注していたが、政府はこれを是正し「日本の船は日本で造る」方針を掲げる。昨年1226日に発表された「造船業再生ロードマップ」に、その道筋が記されている。

ロードマップが掲げるのは2035年の目標だ。先に触れた通り、現在は約900万総トンの水準にある年間の建造量を、10年後に日本船主の船舶建造需要の予測量である1800万総トンに倍増させる。航行時に温室効果ガスを排出しないゼロエミッション船など次世代船の建造技術で世界をリードし、造船業の国際的な役割を確立する。容易な目標ではないと金子恭之国土交通相も認めており、会見で「目標は非常に野心的だが、官民が力を合わせ覚悟を持って取り組むことで達成可能と考えている」と述べた。

そもそも日本の造船業が苦戦してきた要因は構造的な課題だ。中韓と比べ日本の造船所は事業所の規模が小さく、資材高騰で船価を下げられないことから激しいコスト競争にさらされてきた。人手不足も深刻化するが、船舶は設計や生産が複雑で自動化はかなり難易度が高い。市場の変動が激しいうえ1隻を作るのに数年かかり、そもそも大規模な設備投資に踏み込みにくい産業でもある。この状況を打破するため政府は、28年を目途に造船業界を垂直・水平連携と再編で1~3のグループ体制へ集約する大胆な構想を描いている。

官民で1兆円もの規模の投資も進める。政府は10年間で3800億円の造船業再生基金を設立し、造船企業も3500億円規模の資金を調達。官民で2800億円のグリーン投資も実施する。こうした資金で造船所の拡充・刷新・再稼働・新設が進められ、28年をめどにまずは自動化・省力化を中心とした投資が(フェーズ1)、31年をめどに造船施設の新設・拡大が行われ(フェーズ2)、34年までに増強したドック・クレーンが稼働する(フェーズ3)というステップが想定されている。投資が目論見どおり進むかは見通せないが、長期的には造船産業の効率化・競争力強化が期待できるだろう。

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日本財団ゼロエミッション船プロジェクト「水素エンジンゼロエミッション船実証運航コンソーシアム(代表会社:ジャパンハイドロ)」が開発を進める、水素混焼エンジンを搭載したタグボートが昨年10月に就航。水素と重油を混焼することで、従来の化石燃料のみを使用するタグボートと比べて約60%CO2排出削減を実現するという。建造はコンソーシアムメンバーである常石造船だ

建造量の倍増は金子国交相が述べる通りかなり野心的な目標だ。だがそれだけに政府の強い覚悟も滲み、造船業界にもこの追い風を再興のラストチャンスと捉える向きがある。まずは28年までに業界再編と自動化・省力化の投資がうまく進むかが、造船ニッポン復活を占う試金石となる。

■造船投資、本格化は少し先か

策定された造船業再生ロードマップが実行に移されることにより、造船業界の設備投資は進んでいくものと見込まれる。だが2026年にさっそくまとまった設備投資需要が生まれるかは、やや不透明と言わざるを得ない。広島・愛媛県下の生産財商社は「造船サプライヤーの設備投資には一服感がある」と感触を語る。「景況は良い状況が続くだろうが、26年に爆発的に設備投資が活性化するかと言えば、そうでないのではないか」(広島県下の生産財商社)。「26年は現状維持、もしくは微増と思われる」(愛媛県下の生産財商社)。「長い目で見て投資が盛り上がるのは間違いないが、26年に引き合いが出始めて、(本格的な設備投資は)2~4年くらい後ではないか」(長崎県下の生産財商社)。

造船は数年先まで受注が決まっている。大規模な投資に踏み込むのは時間がかかる特性上、造船業界の設備投資が爆発するのは早くても26年後半、もしくはそれ以降になる可能性が高いとの見立てにはかなり現実味があるだろう。船舶用鋼材のR面取り機で高いシェアを持つ宮川工業の藤井崇取締役は「今後、建造量が増えるに従って溶接機など小型の商材から大型の商材へと、順を追って需要が増えてくるのでは」と見通す(下に関連記事リンク)。ロードマップに沿った補助金が具体化することで、その道筋が次第に見えてくるものと思われる。

ただ線表が先々まで埋まっているぶん、老朽設備の更新需要は26年も引き続き堅調に見込めそうだ。「前回のゼロエミッション船補助金で、大型のプラズマ切断機から大型ファイバーレーザー加工機への設備投資が促進された」と愛媛県下の生産財商社は語る。福山・尾道地区でも「船の修繕用途の設備更新で加工機のまとまった需要があった」(広島県下の生産財商社)という。サプライヤーも先々の仕事が見込めるぶん、設備投資しやすい環境だ。ダイヘンの金子健太郎専務執行役員は溶接部門について「造船関連は比較的堅調」と昨年12月に語った。パナソニックFSエンジニアリングの久賀元貴部長も溶接部門について、「25年は造船の需要が多かった。自動化や省エネなどの需要はこれからどんどん増えてくるだろう」と展望する。

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今後はまさに自動化が造船業界における設備投資の要になりそうだ。広島県下の生産財商社は「(造船は)圧倒的に人手不足。サプライヤーも含めて協働ロボット等を使った溶接の自動化を模索している」と話す。

韓国ではすでに造船最大手のHD現代重工業が造船業に特化した四足歩行ロボやヒューマノイド開発を進めるなど、業界を挙げた造船所のスマート化に余念がない。同国はこうした先端造船所をプラットフォーム化して輸出産業にする計画だとも伝わる。

競合に埋もれないため、日本の造船もこれからの数年で自動化・省力化による抜本的な建造能力の向上が強く期待される。まずは26年がその端緒になるのではないか。

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独・NEURA Roboticsは韓国・HD現代三湖と提携し造船業界向けの四足歩行ロボットとヒューマノイドロボットを共同で開発・試験する


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【インタビュー】宮川工業 取締役 部長 藤井 崇 氏


(日本物流新聞2026年1月10日号掲載)