新生活を彩るデザイン
- 投稿日時
- 2025/02/12 13:19
- 更新日時
- 2025/02/12 13:43

ファンを作る最新アイテム
昨年を振り返ると賃上げが順調に進み、日経平均株価の年末の終値はバブル期を上回る3万9千円台を記録。数字だけを見ると好景気のようだが、物価高による実質賃金の低下などを理由に、実感とはかけ離れたものになっている。消費者の財布は硬いままだが、「推し活」に代表される心を捉えた事柄や製品に対する消費は広がりを見せている。ここでは、春を迎え新しい暮らしが始まるこの時期に、製品や暮らし方をデザインし、心を捉える取り組みに焦点を当てる。
夏の異常な暑さと長引く残暑が、白物家電の需要を押し上げている。(一社)日本電機工業会が1月末にまとめた2024年の電気製品国内出荷額は、前年比1.4%増の2兆5801億円と2年ぶりにプラスとなった。酷暑と遅れたものの厳しい寒さの影響でルームエアコンの需要が伸長。昨対比6・5%増と4年ぶりにプラスに転じ、900万台の水準も回復した。
金額ベースでみると増加傾向にある一方で、出荷台数を見ると電気冷蔵庫や電気洗濯機、電子レンジ、ジャー炊飯、IHクッキングヒーターいずれも昨年に比べマイナスとなっている。価格転嫁によって金額が膨れ上がっているが、「実際の需要はもっと厳しい」と見る向きもある。
■ファン化が消費の鍵に?
物価上昇による実質賃金の低下や今後加速すると見られている人口減少によって、国内消費が好転する期待があまり持てない状況が続いている。一方で、こうした厳しい状況の中でも動きが活発なのが「推し活」だ。
推し活に関する調査研究を行う推し活総研(運営:CDG、Oshicoco)が行った2万人超を対象としたインターネット調査によると、回答者の約17%が推し活をしており、15~19歳の女性では半数以上、30~34歳の女性でも30%超が何らかの推し活をしていることがわかった。
同調査は推し活の市場規模が24年時点で3兆円超と試算する。この数字がどこまで正確かはわからないが、矢野経済研究所が2月に公表した「オタク」市場に限定した調査でも、同市場の規模は24年度(予測)に1兆円を超えると見られており、拡大傾向にあるのは間違いない。
生活が厳しい消費者にとって消費活動に対するモチベーションは低い。一方で、「推し活」に対しては優先度が高く設定されている。
こうした動きは、企業における「ファン化」に置き換えてみることもできる。生活者起点のリサーチなどを行うネオマーケティングが21年に行った調査によれば、ファンであるメーカー・ブランドに対しては、「新商品・サービスを定期的にチェックする」(63・1%)、「定期的に購入する」(45・7%)といった行動を行う消費者が多かった。ファンである企業の情報や製品は、他の企業のものより優先度を高くする生活者が多いことがわかる。
山善・家庭機器事業部も消費者の心を掴むため、ブランド力向上や消費者への認知拡大に対する様々な取り組みを行っている。その一つが、テレビドラマへの制作協力だ。1月から各局で始まったテレビドラマ5本に収納ラックやサーキュレーターといった家具・家電製品を貸し出し、ドラマの中で使用されている。映し出される時間は長くはないが、SNSなどを絡めて情報発信することで、ブランド価値向上を目指す。
他にも、応援購入サイト「Makuake」では、スピーカー付きサイドテーブル(=写真)などを出品。同製品は3日で目標金額を達成し、2月5日時点の応援購入総額は目標の5倍以上となっているなど、多角的な取り組みでファンづくりに力を入れる。
同事業部・商品企画2部の山川圭一部長はこうした取り組みに対して、「製品価格は極めて低いが安全性などに疑問のある越境製品が増えている。多数の方が目にするテレビドラマや応援購入サイトで当社の製品を取り上げていただくことで、山善のブランド価値を高めていくとともに、山善の製品なら安心・安全に使用できると知っていただきたい」とコメントする。
ニーズ捉えたハイポジションチェアも出現
接客時も座った姿勢で
ルネセイコウのテンポラリーチェア
人手不足が接客姿勢まで変えつつあるようだ。
スーパーや薬局などでのレジ打ちの仕事において、従業員は立って接客を行うことが一般的だ。一方で、外に目を向け海外映画などを思い返してみると、椅子に座って接客しているシーンに思い当たる。実は、国内でも労働安全衛生規則に則ると継続的に立ち作業に従事する労働者には椅子を用意することが義務付けられているが、心理的なハードルも高く普及は進んでいないのが実情だ。
しかし、ここにきて深刻な人手不足の影響もあり、接客中にも使用できる椅子を導入する企業が増えている。ディスカウントストア「ドン・キホーテ浅草店」(東京都台東区)は、外国人観光客が多いこともあり、外国籍の従業員も多くいる。椅子に座って接客するのが当たり前である国の出身者も多く、そうした人材を確保・定着するためにも、これまで立って行うのが一般的だったレジ業務に椅子の導入を決めた。この他にもスーパー(ダイエー、アオキスーパー)やホテル(ビスタホテルマネジメント)、警備業(セキュリティ庄内)などでも、同様の取り組みが広がりつつある。
■専用チェアも
各種産業界の作業疲労軽減を念頭に様々な製品を製造開発するルネセイコウも、こうしたトレンドを捉え、立ち作業疲労軽減アイテム「テンポラリーチェア」を開発。カウンター越しの接客やレジ打ち業務など、比較的高い位置での作業が求められる仕事の疲労を軽減、効果的にサポートする。椅子を用意しても心理的な抵抗感が強いと普及しないという部分に目を付け、座りながらも来店客と同じ目線で接客できるハイポジションを用意。また、シート部の角度を水平~78度の間で調整可能にし、チョイがけやもたれるだけのスタンディングサポートとしても活用できるようにした。これだけの機能を持ちながらもコンパクトな設計で、レジ内などに設置しても邪魔にもならず移動も容易。3月4日から4日間東京ビッグサイトで行われる「JANPAN SHOP 2025」にも出展する(小間=JS4213)。
山善もこうした動きに注目する。従来から販売しているバーカウンターチェアをリニューアルし「レジチェア」として発売予定だ。容易に高さを変えられる機能や使用頻度が高くなることが予測されることから座部に高密度ウレタンを採用し耐久性を高めた。既にドラッグストアチェーンでの採用が決まっているという。
人手不足を起点に新たなニーズが生まれつつある。
高付加価値シャワーヘッド市場衰え知らず
アラミック、節水・増圧・ナノバブル
三拍子そろったシャワーヘッド
最近注目を集めているというシャワーヘッドとホースのセット「BIRAKUホースセット」
ナノバブル(ファインバブル)を発生させるシャワーヘッド市場の拡大が止まらない。調査会社・富士経済が昨年公表した「美容&健康家電市場・関連サービストレンドデータ2023-2024」によると、2019年頃には20億円ほどであったファインバブルシャワーヘッド市場は、新型肺炎によるおうち時間が増加したことも相まって、20年、21年と倍々で成長した。それ以降も成長率は若干落ち着いたものの、右肩上がりで拡大しており、2025年には190億円規模になると見られている。
新規メーカーの参入も相次いでおり、特に住宅建材メーカーは浴室体験の付加価値を更に高めるため、独自の製品を投入。機能をてんこ盛りにしたモデルも増え、製品価格も上昇傾向にある。
■ホースにも関心増
1998年からシャワーヘッド業界に参入しているアラミックも、様々な種類のナノバブル発生機能付きのシャワーヘッドを揃える。中でもイチ押しなのが「BIRAKU ナノバブルシャワー」だ。22年に登場して以降、比較的手ごろな価格でありながら、本体全体がメッキコーティングされた高級感ある見た目が評価されてきた。
もちろん、独自のステンレス製の精密散水板により、節水効果と美容効果の両立も期待ができる。精密散水板は最大50%の節水をしながら水圧を増幅。極細の水流が肌の汚れを優しく洗い流す。ミストにしなくてもナノバブルを発生させることができるため、冬でも湯温が落ちることなく快適に使用できるのも特長だ。
生活者のシャワーヘッドに対する感度が高まるにつれ、ヘッドだけでなく「BIRAKUホース」や「BIRAKUホースセット」にも注目が集まっている。同社の担当者は「ホースはまだ交換したことがない方も多く、シャワーヘッドとの見た目の統一感をはかるために最近伸びてきている」と言う。まだまだ高付加価値シャワーヘッド市場は伸びていきそうだ。
ファンを掴むアウトドア用品
心満たすワンランク上のデザイン
新富士バーナー「ST―489 Micro Torch Edge」
常に新たな情報にさらされ続ける現代人から、製品やブランドに対する関心を得続けるには、「推し活」に代表されるようなファン化が重要な要素となっている。近年、防災用品としても関心が高まっているアウトドア用品だが、基本的には嗜好性が強い分野であるため、以前からファンを捉える製品づくりに力を入れてきた。新型肺炎流行による特需の影響もあって2020年からの数年間は製品の生産に追われる状況が続いていたが、ここにきて各社、ファンの心を捉え所有欲を満たす製品づくりに再シフトしている。
新富士バーナーが昨年6月に発売した「ST―489 Micro Torch Edge」もその一つ。ベストセラーである同社のマイクロトーチシリーズを、プロダクトデザイナーである浦田孝典氏の監修のもとで一から見直した。外観は従来の握りやすそうな凹凸のある形から、その名の通りエッジの効いたシャープな造形に、素材も樹脂から亜鉛合金によるダイカスト成形品に改めた。重量は従来品よりも約2倍増えたが、逆にその重厚なメタルボディが手に馴染む。今年はさらに専用のホルスターも発売予定。まさに所有欲を満たす製品・シリーズだ。
暖房などの空調機器を手掛けるコロナも、2年ほど前からアウトドア領域を深耕する。「暮らしを『楽』から『楽しい』へ」をコンセプトに掲げる同社のアウトドアブランド「OUTFIELD(アウトフィールド)」は、様々なキャンパーのスタイルにフィットするオリジナルカラー「フィールドベージュ」という特徴を持ち、「製品を出してはすぐに完売してしまう状況が続いている」という。特に23年度のグッドデザイン賞を受賞した対流形石油ストーブ「SZ―F32」が人気。高さ475㍉のコンパクトなサイズ感と最大暖房出力3・19㌔ワットの十分な性能を両立する。室外だけでなく室内で使用してもインテリアの邪魔をしない。また、専用の収納バッグや熱効率をアップさせる反射板など、オプション品も充実しており、収集欲を駆り立てる。
コロナの対流形石油ストーブ「SZ-F32」
アイデアシートで試作業務を改善
山善 家庭機器事業部 商品企画2部 早川 高弘 氏
山善・家庭機器事業部がブランド価値向上に向け、製品デザインに力を入れている。「国内でも台頭している越境ECに価格では勝てない。日本基準の安心・安全な製品をデザインし、山善のブランド力を上げて行く必要がある」と同事業部商品企画2部の山川圭一部長は話す。そうした中、昨年同事業部は初めてプロダクトデザイナーを採用した。1年足らずで百以上の図面を起こすとともに、業務改善にも寄与するプロダクトデザイナーの早川高弘氏に取り組みについて聞いた。
――業務内容について教えて下さい。
商品企画2部のMD(マーチャンダイザー、製品の開発から企画、販売戦略まで一貫して行う担当者)から受け取ったアイデアシートをもとに、スケッチや図面を起こしています。入社から1年ほどで既に約120〜130案件くらい担当していて、その中には依頼されたイメージを基に図面を起こすだけのものもあれば、製品のスケッチや参考写真から一からデザインを起こしたものもあります。
早川氏がほぼ一からデザインを起こしたソファチェア。トレンドを押さえた見た目と、あぐら姿勢でも楽に座れるよう座面の角度なども調整した
20ほどのスケッチからデザインを詰めていった
――早川さんがデザインを担当するようになって業務に変化はありましたか。
私が入社する以前はアイデアシートも無くて、商品開発をする際はMDがほしい商品のイメージをメモなどに描き、それを生産工場に渡して作ってもらっていました。そのため、試作品のやり直しの費用や廃棄費用がかさむとともに、時には思っていたものと全く異なるものが上がって来ることもあったと言います。今は、目的や商品名、コンセプトなどを記載するシートを共通して使うようお願いしているので、それを受け取った私がまずは図面を起こしたり、スケッチを描いたりします。できた図面をMDとすり合わせてから生産工場に送るので、現地法人とのやり取りもスムーズですし、図面や製造工程に間違いがなければ試作の段階からほぼイメージ通りのものができて来ます。従来は複数往復あった試作づくりも、現在はほぼ2往復もあればできており、試作段階の業務を大きく削減できていると聞いています。
■3Dモデリングにも力を入れる
――中途入社とのことですが、以前の職場とは違いますか。
以前は、自動車の内装材の色(Color)、素材(Material)、仕上げ(Finishing)を企画・提案するCMFデザインを担当していました。自動車向けなので、一つの車種に対してターゲットユーザーやコンセプトをしっかりと定めて、そこに向かって何年もかけて製品を作り込んでいました。一方で、家庭機器事業部で年間に出される製品アイデアは私に依頼されたものだけでも百を越えます。なので、アイデアが来てから2~3週間後には試作品ができているものもあります。
――スピード感が大きく違いますね。
たくさんのアイデアをスピード感を持って処理していく必要があります。そうした中で企画に沿った説得力のあるデザインを実現するため、シートに記載欄のある製品コンセプトやターゲットユーザーについては、明確になるまでMDの方にじっくり話を聞くようにしています。家具は基本的に誰でも使えるものです。だからと言って、全消費者を対象にした製品では手に取られません。MDの方が感じ取った消費者ニーズの肝を明確に製品に反映することが重要だと考え取り組んでいます。
――今後力を入れたい取り組みはありますか。
最近は、3Dモデリングの作成にも取り組んでいます。どうしても図面だけではイメージが付きにくいところがあるので、色や風合いも付けた3Dモデルを作成し、製品検証などに使用しています。空間全体を再現できるよう3DCGの勉強もしているので、将来的には現在スタジオなどを借りて撮影している製品写真も3DモデリングやCGで代替できるようにしていきたいと考えています。
(日本物流新聞2025年2月10日号掲載)