EMO2025を徹底レポートで振り返る
- 投稿日時
- 2025/10/24 10:21
- 更新日時
- 2025/10/24 10:46
取材で見た工作機械のトレンドと欧州の景気動向
世界最先端の金属加工見本市「EMOショー」が9月22日から5日間ドイツ・ハノーバーで開催された。50周年の今展には世界45カ国から1622社がブースを構え、約8万人の来場者を前に工作機械産業の最新技術が火花を散らした。欧州、とりわけドイツは景気低迷の最中にありEMOもその余波を受けている。今展では何が展示されたのか。変化の最中にある業界のトレンドを探る。
秋晴れのハノーバーに世界各国の金属加工業界関係者が集った。今展で50周年を迎えたEMOは世界三大工作機械見本市の中でもとりわけ国際色の強い展示会として知られ、これまでもインダストリー4.0やumatiなど製造業の世界的なメガトレンドを発信する場として機能してきた。今展でも金属加工分野におけるAI活用に特化したブースが設けられるなど先進的なトレンドを提示する役割は健在だったが、全体的に見れば焦点や展示内容がバラけた、ある日系工作機械メーカー幹部の言葉を借りれば「的の絞りづらい」展示会だったように思う。

EMO 2025屋外エリア、入口へ向かう人々(撮影Rainer Jensen氏、VDW提供)
欧州製造業はドイツ、とりわけ自動車業界を筆頭にここ数年は景気低迷に苦しんでいる。前回のハノーバー開催時(2023年)はそれでもEVという明確な産業のけん引役(と目された分野)があったが、EVは中国の台頭とハイブリッド車への揺り戻しでドライバーとしての期待を失った。それに代わる産業はまだ見つけられずにいる。本来は自動車が主力のメーカーがジョブショップ向けの提案を拡充させた例が多かったのも象徴的だった。結果的に展示の方向性はバラけ、展示会の原点に戻って各社が工程集約や自動化など、実利に直結する領域で自社の最新技術を出し比べたのがEMO2025だったのではないか。
会場で30社ほどにヒアリングした限り、明確に景気が良いのは穏やかでないが防衛産業ほぼ一択だった。ここには豊富な予算が割かれ、銃やミサイルのサンプルワークを前面に出す欧州メーカーの姿も。航空宇宙(おそらく防衛含む)や医療、新エネルギーに活路を見出す声は多いが、防衛ほどは盛り上がっていない模様。イギリスはF1などモータースポーツの需要が活況との声が複数あったが、入り込めているメーカーは一部に限られる。

EMAG社のブースに並ぶ銃のサンプルワーク
総じてミクロでホットな分野はあるが局所的に留まっている印象だ。津田駒工業の大河哲史取締役は「トルコ、フィンランドなども含む全欧の代理店と意見交換をしたが、彼らいわくドイツの市況はまだ土砂降り」と話す。THKの欧州各現法で社長を務める松田稔貴氏(THK常務執行役員)は「自動車メーカーの元気がない。特に欧州工作機械メーカーは苦しんでいる」と語る。会場では「このままではドイツの自動車産業が壊滅してしまう」と悲痛な声も漏れた。
■研ぎ澄まされた自動化
的が絞りにくい状況ではあるが、今展の目玉を1つに絞るなら自動化だった。ヤマザキマザックは出展機20台のうち13台、オークマは13台のうち6台を自動化仕様に。独・GROB社や松浦機械製作所はパレットチェンジャーの搭載パレット数を拡大しより長期の無人運転を見据える。GROBはまだ欧州限定だがパレットチェンジャーにAMRとの連携用シャッターを設けた。将来的にはスタンドアローンの加工機を複数用意し、離れた場所の段取りステーションとAMRで接続(工具も自動交換)して長時間の完全無人運転を可能にする構想だ。
工具交換をAMRで自動化するコンセプトはホール2を貸し切ったDMG森精機も見せた。同社はパレット搬送とワークの直接搬送を1台で可能にする自動化システム「MATRIS WPH」も披露。独・ハームレ社もパレットとワークの直接搬送を1台で可能にするシステム「RS2 GEN2」を見せた。同システムはワークの高さと幅をセンサーで自動測定、大小様々なワークを1つの装置に高いスペース効率で保管できる。ソディックは独・Fruitcore社と共同開発した多関節ロボを用いたシステムで、ワイヤ放電加工機のワーク交換と形彫放電加工機の電極交換を自動化した。

ソディックは独・Fruitcore社のロボで放電加工機のワークや電極を交換
オークマは自動化の敵、切粉対策に注目しテーブルが横向きの横形MCにガントリーを搭載したユニークな自動化を披露。自動化だけでなく工程集約もより進化を遂げており、ヤマザキマザックは旋削・歯切り・研削を集約した新型複合加工機を初展示。シチズンマシナリーはB軸を追加した自動旋盤で「複雑形状のワークも取り込める」とアピールした。

オークマの横形MC「MS-320H」はテーブルが横付きで切粉はけが良い
人件費が高騰する欧州は人手不足が従前より深刻化。特にスイス・オランダは「出荷機のほぼ100%が自動化されている」(ハームレ社)という。欧州の自動化・工程集約ニーズの強さは今に始まったことではないが、景気悪化や人手不足へ直面したことで特効薬となり得る自動化や工程集約の価値がより高まった感がある。この領域におけるメーカー各社の提案は間違いなくより研ぎ澄まされていた。
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EMOを終えて気になるのは来場者数だ。景気後退もあり近年は縮小傾向にあるとされ、前回は1839社を数えた出展社数も今展は1622社(うちアジアからは中国328社、台湾125社、日本54社、韓国46社)に。来場者数は前回の約9万2000人から約8万人に減少。ヒアリングした企業のうち3分の2程度はコロナの影響が残る前回(23年)よりも来場者は減ったと体感を語る。ただ変わらない、盛況だったとする企業も一定あり、特に元から欧州のプレゼンスが高いメーカーはその傾向が強い。中村留精密工業は「来場者の質が高かった」と振り返る。オークマヨーロッパのマネージングダイレクター・Norbert Teeuwen氏は「展示会は大成功。多くの販売実績に加えてブースで直接、展示機3台を販売できた」とする(VDWプレスリリースより)。
村田機械の村田洋介副社長は「駐車場が埋まらないのが気がかり。車で来れる範囲の来場者が減っているのでは」と鋭い指摘をする。自動車に強い工作機械メーカーの幹部も「毎回来てくれる自動車メーカーから今回は経費削減で行けないと回答が」と漏らす。自動車産業が集積するシュトゥットガルト方面からの来場者が少ないとの声は会場でも相次ぎ、また最終日は人入りもかなりスローだった。イタリアの工作機械メーカーPorta Solutions社のExport Manager Giuliano Scalvi氏は「水曜(3日目)は最高だった。火曜も良かった。今日は…」と、人がまばらな最終日の会場を見渡して薄く笑った。
展示会の在り方が変わっている側面はあるだろう。EMOも変化への対応を迫られており、次回のドイツ開催時はハノーバーではなくデュッセルドルフへ場所を移す案も検討されている(最終判断は今後)。
ただ世界中の来場者が集う国際的ショーという点に異議を挟む向きは今展も皆無だった。7月のEMOプレビューでVDWのエグゼクティブダイレクター、マルクス・ヘーリング氏は「世界中からこれほど多くの人々が集うショーは他にない。EMOは国際的なイベントで、それこそがEMOの神髄だ」と語ったが、確かにこの点でEMOに代わる展示会はない。多くの日系出展社が全欧の代理店関係者とのコミュニケーションの場と位置付けており、閉館の18時を回っても賑やかに談笑する声が聞こえた。製造業の発展著しいインドからの来場者を多く見かけたのも印象的だった(インドからの出展社は44社)。
EMOは最新技術を見せる場でもあり、各所でこの日のために温めた製品が披露される。ある日系メーカーから「面白いのでぜひ」と勧められて訪れたスウェーデンのMODIG社のブースでは、主軸が下、円テーブルが上という独自構造のMCが加工デモの真っ最中だった。こうしたユニークな提案、気付きがあるのはEMOならではとの声は会場でも根強い。
単独では初出展というトーヨーエイテックの担当者は「機械メーカーとして長年の夢だった。EMOはやはり特別」と語る。次回ドイツ開催時の形はまだ見通せない。だがどうあれ、EMOが工作機械産業において依然として重要な場であるのは間違いない。
ニデックマシンツール/ニデックオーケーケー 常務執行役員 川田 拓也 氏
ワン・ニデック鮮明に

EMO会場でも緑のコーポレートカラーが躍った。PAMA含む4社で3つの大型ブースを構えたニデックグループ。ニデックマシンツール、ニデックオーケーケーで常務執行役員を務める川田拓也氏は「ワン・ニデックでグローバルにやる」と意気込みを語った。
――欧州の位置づけは。
「(マシンツール、オーケーケーでは)売上の2割弱。主力だった自動車は今、投資が少ない。よって部品加工がターゲットだ。欧州に限らずタービンや風車などエネルギー関係の大型部品加工の需要がある。新製品の横形5軸MCは横形を好む欧州向けにサイズ、スピード、コストのバランスを取りドイツの競合を強く意識した機械。フランスの代理店から航空機へ販売を強化したいと声もあり出展を決めた。欧州製の機械は高額。ややこしいことをするなら尖った機械が必要かもしれないが『そうでない5軸』は日本製を選ぶユーザーも多い」
――内歯車研削盤も出展。欧州はギヤ加工のメッカだがどう戦う。
「創成タイプの内歯車研削盤は我々の特許でオンリーワン。ドイツの大学と共同開発しており制御もシーメンスだ。10年以上前の開発当初は内歯車は研削レスが自動車業界の常識で誰も見向きしなかった。だがEVの登場で静粛性が求められ、内歯車も焼入れ後の研削が必要に。減速機も多段式から遊星歯車機構に変わると内歯車の研削が要る。遅咲きだがこの1、2年で中国で爆発的に売れ始めた。欧州はEVが冴えないためこれからだが、競合との価格差を考えれば量産では我々に分がある」
――TAKISAWAも大型ブースを構えた。
「旋盤ベースの複合加工機を出展した。近年は複合旋盤で歯車加工を行う提案が増えたが、歯車は専門性がある。プログラム作成にニデックマシンツールのノウハウを丸ごと投入しており、ユーザーからすれば安心材料になるだろう」
――グループ全体で欧州でどうシェアを高める。
「ワン・ニデックでグローバルにやる。会場でもニデックのロゴを多用したがニデック=工作機械の総合メーカーというPRのためだ。徹底して知ってもらわねばならない。グループ間の技術交流、融和も進んでおりPAMAとも開発シーンで互いの意見を酌み交わす。今回の出展機を軸にニデックのファンを増やしたい」
ブース訪問
ANCA、工具の完全無人生産が現実に
自動化提案が多く見られた今回のEMOの中でも、工具研削盤のリーディングメーカー・オーストラリアのANCAは先進的な自動化ソリューションを訴求した。複数の工具研削盤や測定機をデータ連携させながらARMで接続し、工具の加工を完全無人化するコンセプトだ。微細工具向けの工具研削盤などその他の出展機とともに内容を振り返る。

EPXプロダクトマネージャーのDuncan Thompson氏
ANCAが提案する「AIMS」は高精度な工具製造を自動化するシステムだ。何をどう接続するかはユーザーの現場次第だが、例えば同社の複数台の工具研削盤や円筒研削盤、測定機、レーザーマーカーなどをAMRで結び、データをサーバーでリアルタイムに同期させる。研削を終えた工具は自動で測定機へ運ばれ、測定データをフィードバックすることで必要に応じた補正加工まで自動で行われる。すべての機械からの情報はサーバーに集約され、測定データをどの加工機に戻すかもシステム側が管理。高品質の工具を完全無人で生産可能にするシステムだ。5カ国で導入済みで、広報担当者は「次は日本かも」と構築中の案件があることを教えてくれた。
同社の事業の核は工具研削盤だが、徐々に円筒研削盤やレーザーマーカーなどの周辺領域もラインナップに取り込んできた。そして今展では新たなホーニング盤「EPX-SF」を披露。コーティング前、あるいはコーティング後の工具を専用研磨材の中で回転させることで工具の面粗度が大幅に高まり、工具寿命も向上するという。EPXプロダクトマネージャーのDuncan Thompson氏はこう続けた。「お客さんはホーニングも必要としている。だから次はAIMSにホーニング盤も接続するのがANCAのビジョンだ」
極小径工具に向けた最新の工具研削盤「MicroX ULTRA」も見せた。㌨メートル台の制御が可能で、直径0.03㍉のマイクロ工具を量産できる。精度は「業界最高」といい、広報担当者は医療、半導体、携帯電話に向けた微細工具の需要の高まりを開発背景に挙げた。
ANCA Female Machinst of the Year受賞
OSG GmgH(オーエスジー・ドイツ) Nayeli Martínez さん
この分野でも女性は輝ける

授賞式でのNayeli Martínezさん。メキシコ出身で、オーエスジー・メキシコで3年勤務したのち2020年からオーエスジー・ドイツに。受賞の瞬間を「ちょっと緊張したけど、とても嬉しかったです」と振り返る
ANCAは世界中から優れた切削工具を表彰する「Tool of the Year」と、精密工具業界の優れた女性エンジニアを表彰する「Female Machinst of the Year」を毎年開催する。EMO会場で表彰式が行われ、オーエスジー・ドイツで工具設計を行うNayeli MartínezさんがFemale Machinst of the Yearに輝いた。
――受賞の背景と仕事の内容は。
「この賞は私の経歴と精密工具研削分野における経験が評価されたものです。私はオーエスジー・ドイツで設計部門のリーダーを務めており、製造図面の作成と工具の設計を担当しています。オーエスジーはタップやPCD工具も販売していますが、ドイツで製造するのはドリル、エンドミル、スレッドミル。形状のパラメーターを決めるのにANCAのソフトを使います。シミュレーションで形状を確認し、最適な形を決めて切削工具を製造します」
――工具の設計で面白い点は。
「お客様と一緒に仕事ができること。工程を見せてもらい、目標も共有した上で最適なソリューションを選ぶのですがこれがいちばん面白い点です。考えながら作業を進めるんです。『この角度、長さ、この螺旋形状だとちょっと…』と。この時間は本当に楽しい。自分が設計したツールが実際に使えるのかどうか、目で見て確認できた時が面白いと感じます」
――今後の目標と抱負は。
「働き続けて、この仕事を通じ女性たちにもこの分野で働ける力があることを示したい。設計でも、例えば機械加工の分野でも私たちは良い仕事ができます。ですから今よりもっと多くの女性に恐れず入社してもらいたいです。そして私はこれからもお客様をサポートしたい。そのために向上を続け、学び続けます」
EMOで見たユニークな機械
Modig(スウェーデン)、主軸が下でテーブルが上の逆転5軸

日系メーカーに「面白い機械がある」と聞きスウェーデンのModig社のブースを訪ねると、主軸が真下から生え、円テーブルが上に付いた倒立型の5軸MC「IM-8」がバリバリ切粉を出して加工していた。同社の特許だというがなぜこの構造なのか。「重力で切粉が真下に落ちるうえ、主軸の重量が非常に軽いため機械の重心が低く、高い加速と速度を実現できる」と担当者は言う。主軸も最大150kWと強力で大量生産に向くようだ。なおATCを使う際は機械後方に主軸が退避。切粉が主軸に降りかかることによる悪影響はない模様。
CHIRON(ドイツ)、極めて小型の縦長5軸

冷蔵庫のようなサイズ感の小型で縦長な5軸「Micro5 XL」を見せたCHIRON社。1.7m²の設置面積ながら120mm角のワークを最大毎分5万回転の主軸で削り、ブロック材から時計のベースや人工骨のプレートをゴリゴリ削り出す。12枚のパレットを搭載できる自動化装置とも接続。さらに会場ではより小型で50mm角が加工できる「Micro5」も隣に置いた。同機は航空宇宙向けコネクタ等の生産に使われるそうだ。小型で華奢に見えるが「非常にロバストだ」と担当者は自信を見せる。
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(日本物流新聞2025年10月10日号掲載)