造船ニッポン復活の狼煙 再生ロードマップ始動、建造量倍増と次世代船舶に挑む
- 投稿日時
- 2026/03/11 14:47
- 更新日時
- 2026/03/11 14:56
「日本の船は日本で造る」国策造船の針路
高市政権が「国策」として乗り出す造船業の抜本的強化。公表された「再生ロードマップ」に沿って、官民による1兆円規模の投資を原動力に2035年の年間建造量を足元の2倍となる1800万総㌧へ引き上げる計画だ。次世代燃料船の開発を加速し世界をリードする構想も描く。中韓勢とのシェア争いや深刻な人手不足、自動化の難しさといった構造的課題が山積するなか、建造量を高めるには従来技術の延長に留まらない真新しい技術の活用が強く期待される。オールジャパンで造船再興への針路を描けるか。
造船業界が『国策』の大きな期待を背に活気づいている。高市政権が昨年11月に立ち上げた肝いりの「日本成長戦略本部」は、危機管理投資・成長投資による強い経済の実現に向けて17の重点戦略分野を定めた。重点分野の①に掲げられたのは「AI・半導体」である。次いで、2番目に掲げられた分野が「造船」だった。
必ずしも優先度の高い順に番号が振られたわけではないだろう。ただ輸出入のほぼすべてを海運に頼らざるを得ない島国・日本で造船の火が消えれば、単に主力産業の1つを失う以上の意味を持つ。東アジアの地政学的リスクが高まる中で、自国で商船をつくり自力で修繕する力を維持することは、経済安全保障の生命線に近い。政府はこの脅威を重く見て、造船業の抜本的強化へと大きく舵を切った。
外航船を中心とした国際造船市場は、世界単一市場である。日中韓で世界市場の9割を占めてきたが近年の日本の立ち位置は厳しい。2019年頃まで日本のシェアは20%前後で推移。だがその後に下落した。統合で巨大化した中韓勢と比べ造船所の規模が小さく、ロットでの発注を受けにくく、人件費も不利で、資材高騰で船価を下げられないことから激しいコスト競争に晒されてきた。
24年のシェアは8%に落ち、この間に鉄鋼資源の豊富な中国企業が市場の過半を掌握。中国とは2割の価格差が開き、日本船主も中国造船所へ3~4割を発注する状況が続いていた。政府はこの状況を打破すべく“日本の船は日本で造る”姿勢を鮮明にする。年末にはそのための道筋である「造船業再生ロードマップ」を公表した。
そもそも中・韓とも造船を国を挙げて強化してきた経緯がある。水は開いたが、ここに至って日本も『国策には国策を』ぶつけるべく急ピッチで針路を決めた形だ。
ロードマップの目玉は建造量の倍増だ。約900万総㌧の水準にある年間の建造量を、35年に1800万総㌧に高めるというかなり野心的な目標を掲げる。1800万総㌧、というのは日本船主の潜在的な船舶建造需要をすべて国内で賄う計算である。目標を絵空事にしないために、さっそく官民で1兆円規模の投資枠組みが動きだした。
国土交通省は船舶を構成する「船体」を、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資に新たに指定。政府が設立する10年間で3800億円規模の「造船業再生基金」を財源として、船体の生産能力拡大に必要な設備投資の最大2分の1を補助する。対象となるのは自動面取り機や自動溶接ロボット、メガブロック対応クレーン、全天候型ドックなど生産性を左右する設備だ。助成には当然ながら要件があるが、特に長らく投資を抑制せざるを得なかった地方造船所にとってこの支援は好機だろう。様々な投資が今後、活発化していくことになる。
■勝ち筋は次世代燃料船
とはいえ造船業界が直面してきたのは構造的な課題であり、単に規模を追うだけでは依然として熾烈なコスト争いからは抜け出せない。ロードマップは業界の水平・垂直連携による設計の共通化やロット発注への対応を打ち出すが、狙いは日本造船の弱みの規模を補うだけに留まらない。むしろ日本の造船業の『強み』にリソースを投じて伸ばし、世界市場でイニシアチブを握ることに『再生』のキモがあると見るべきだ。
日本の造船の強みは何だろうか。先に触れた日本成長戦略会議のもとで2月20日に開かれた初回の「造船ワーキンググループ」では、「高い生産性」や「建造船の信頼性」「燃費性能等の技術水準の高さ」が我が国造船の強みとされた。
実際にEU公開データに基づき現存する日中韓建造の船舶の燃費を比べたところ、日本船は最も評価が高かったとする調査結果がある。折しも30年に向けて中国で過去に大量生産された船舶がまとまって寿命を迎え、その後も世界全体の経済成長に伴い船舶需要は増えていく見込みだ。さらにこの10年で2050年カーボンニュートラルに向けたアンモニアや水素、メタノールといった次世代燃料船への転換が加速する。この転換期を捉えて次世代船舶の開発で先行し、国際ルール策定を主導して高付加価値船で市場の地位を固める——というのがロードマップが描く日本の『勝ち筋』だ。

水素混焼エンジンタグボート「天歐」の全体像(広島県福山市、常石工場内にて)
実際に世界初のアンモニア燃料タグボート「魁」や、常石造船が手掛けたメタノール二元燃料船など、次世代燃料船における日本勢の先行事例は相次いでいる。常石グループは昨年、国内初の水素混焼エンジンタグボート「天歐」も竣工させた。常石グループとベルギー・CMB社の合弁会社ジャパンハイドロは洋上水素ステーションの開発も進めており、今後の水素燃料船の普及を見据えた供給拠点をセットで開発している点で意義深い。
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とはいえロードマップが描く構想、特に建造量の倍増はかなり野心的な目標だ。実現を目指すうえで、深刻な業界の人手不足も直視すべきだろう。
造船業は過去の不況時に人員を縮小させてきた経緯がある。就労者の減少は22年に底を打ち上昇に転じたものの、現場を支えるのは外国人労働者だ。建造量を倍にするために必要な作業員をすぐさま確保するのはまったく現実的でないし、仮にそれが叶っても建屋や大型クレーンが足りず、これらの増強には数年がかりの大型投資が必要になる。
人手に頼らずドラスティックな自動化を進められるかと言えば、造船特有の事情からこれも難しいだろう。船舶は設計や生産が複雑で仕様も一品一様が多い。船を“輪切り”にした船体ブロックは巨大なうえに溶接に熟練技術が必要で、広大な敷地で巨大な構造物を組み上げる作業は、自動車のようなライン生産とは根本的に異なる。さらに船台に載せてからの外業工程は天候の影響をダイレクトに受け、船台も斜めに傾いているためロボット化のハードルが極めて高い。大分県の臼杵造船所はこうした背景のなか、3D設計の推進などデジタル面での効率化に力を入れている。
「35年建造量倍増」という目標は、今の日本の造船キャパシティを踏まえれば背伸びどころか跳躍に近い数字だ。自動車の投資が冴えない中で生産財メーカーは造船分野の投資に熱い視線を送っているが、建造量倍はいま世の中にある設備を老朽更新で入れ替えただけで到底追いつく量ではない。中韓ではヒューマノイドや四足歩行ロボット活用が模索されている。建造量倍という高いハードルをクリアするには、従来設備の“地続きではない”技術の果敢な導入も必須だろう。政府もAIやロボットを活用した新技術の開発に補助金を用意して歓迎している。
造船業再生ロードマップは動き出したばかりだ。今夏には、より具体的な投資対象を絞り込んだ「官民投資ロードマップ」の策定も控える。
いずれの取組みも緒についたばかりだが、官民がここまで足並みを揃えて造船業の強化を掲げる機会は日本では久しくなかった。またとない機運が高まっていることは確かだ。山積する課題を超えて主力産業としての輝きを取り戻すために、造船各社の努力だけでは限界がある。ロボットや溶接、工作機械、工具などの生産財メーカーによる技術開発の加速——海事クラスターが一体となったオールジャパンの真価が試される。
京セラインダストリアルツールズ
造船現場を変革する次世代電動工具
ハイパワーと共に脱炭素や省力化も

「リンクコントロールシリーズ」を手にする開発事業部マーケティング部マーケティング課責任者 小寺利英氏
「『粘りのある削り』ができる」。ハイパワーが求められる造船や鉄鋼現場で多く使われている高周波工具に引けを取らない電動工具「リンクコントロールシリーズ(Lシリーズ)」の使い心地を、同社の開発事業部マーケティング部マーケティング課責任者の小寺利英氏(以下同)はそう表現する。
造船業界では建造需要の拡大が見込まれているが、受注から完成までの製造スパンが長く、大幅な増産には設備投資と時間が必要となる。また人の手が依然と残る造船現場で、生産性向上と省エネルギー化をもたらすLシリーズに注目が集まっている。
Lシリーズは、ブラシレスモーター(工具)から制御回路を分離し、専用ケーブルで繋いだユニークな次世代電動工具。金属加工現場向けに高出力のブラシレスモーターを採用し、フィードバック制御により負荷をかけても回転数の落ち込みが小さく、効率よく作業できる。また100Vで使える点も、現場の作業性を高められるポイントだ。
反動の少ないソフトスタートを採用したLシリーズは回転数がスタート時から徐々に上がっていく。そのため「スイッチをオンにしたときの回転数の低さでパワー不足を懸念されるが、実際に使っていただくとワークに強く押し当てても回転数が落ち込まずに削れるので驚かれる」。結果として体感する振動も少ないという声もあり、負担軽減効果も見込めそうだ。
これまでにない使用感をためしてもらうため、積極的に現場に赴きデモ機を体験してもらい「電動工具=パワーが劣る」というイメージを払拭する。「造船現場での試用意欲は強い」と、生産性向上に繋がるツールの関心は高い。
電動化と高効率なブラシレスモーター採用により、約70%の電力削減とCO2排出量の大幅削減にも繋がる。「脱炭素化など経営者にとっての課題にも寄与する」と訴求する。
昨年夏から職場環境の熱中症対策が強化されたこともLシリーズの追い風になりそうだ。「エアーを使用する冷却器(通称:クーレット〈重松製作所〉)は現場の必須アイテムとなり導入が進んでいるが、夏場はエアツールとの併用によるコンプレッサーの圧力低下が現場の悩みでもある。電動化メリットは大きい」。
■安全性と耐久性も対策
作業効率だけでなく、安全面にも配慮する。感電リスクを低減する構造や誤作動を防ぐ「再起動防止機能」。スイッチをオフにすると2~5秒程度で回転がすばやく停止する「ブレーキ機能」を備える。「床に置いて回転を止める現場もあるが、ブレーキ機能で急なトラブルでも安全」。起動時の反動を抑えるソフトスタート機能やキックバック低減機能も搭載する。
耐久性にも独自の工夫を凝らした。粉塵の多い現場でも長く使えるよう、アルミケースに包みこんだ密閉のブラシレスモーターを「国内で唯一」採用し、モーター内部に粉塵が入り込まない設計。モーター内の熱は、モーター内部に詰めた熱伝導素材とファンの風により、効率的に放熱を促すしくみ。一定以上の温度上昇を感知したら止まるセンサーも搭載、モーターの焼け付きを防ぐ。粉塵が舞う過酷な現場での故障リスクを徹底的に抑える。
Lシリーズのラインナップは砥石外径100ミリと180ミリのディスクグラインダー、10ミリ幅のベルトサンダー、ストレートグラインダー、パッド径123ミリのダブルアクションサンダー。板材加工から溶接後の仕上げまで、造船現場の幅広い削り工程に使える。
今後はストレートグラインダーの高トルクタイプや、125ミリのグラインダーなどラインナップの強化予定。「アプリでアップデートできるコントローラーも進化と改良を加え、さらなる利便性向上を図っていく」と展望する。

コンパクトで軽量なため、造船現場の上向き作業にも使いやすい
(日本物流新聞2026年3月10日号掲載)