建設現場と鉄骨加工の最重要課題

施工できない、引き渡しできない、スケジュール通り進まない、施工ミスが重なる……。巷間ではとかく「物流2024年問題」が取り沙汰されているが、建設業界・鉄骨加工業界にも2024年問題は大きくのしかかっている。

【画像1】タイトルイメージ
【画像2】デンヨー・フジ産業
【画像3】3Mジャパン
【画像4】育良精機・イーグルクランプ
【画像5】スーパーツール

建設投資額はピーク時の平成4(1992)年度の約84兆円から平成22年度には約42兆円まで落ち込んだが、その後増加に転じ、令和4(2022)年度は約67兆円と、ピーク時から約20%減となった。一方で令和4年の建設業就業者数は479万人で、ピーク時(平成9(1997)年の619万人)から約30%も減っている。すなわち、投資額の減少を上回るペースで建設就業者数が減っており、慢性的な人手不足に陥っているのが現状だ。

年齢階層別の建設技能者数

その就業者数の内訳をみてみると、問題はさらに深刻だ。建設業就業者は55歳以上が35.9%、29歳以下はわずか11.7%と高齢化が急速に進行している。さらに60歳以上の技能者は全体の約4分の1(25.7%)を占めており、10年後にはその大半が引退することが見込まれる。

これからの建設業を支える若者の確保・育成や担い手の処遇改善、働き方改革、生産性向上は喫緊の課題と言えよう。

加えて資材価格の高騰も深刻な影を落としている。2021年1月に1トン6万円台だった異形棒鋼、H形鋼の価格は高騰を続け、現在は倍近い12万円台で推移している。電気料金の値上げや物流コスト増などから、今後も上昇の一途を辿る公算が高い。

前述の人材難は、雇用コストの上昇にも直結している。人材・素材の両面でコスト高のダブルパンチを喰らっているのが現状であり、それが解消する見通しはほぼ無い。この先の浮沈のカギを握っているのは、やはり的確な設備投資と人材育成に尽きるだろう。

■鋼材加工機へ自動化需要

建設業と密接なかかわりを持つ鉄骨ファブリケーターや、鉄筋加工業者も高齢化に伴う技能者、技術者の減少、高齢化への対応などが待ったなしの状態。人手不足から廃業せざるを得ない加工業者も増加しており、現状は「捌ける現場」に仕事が集中しつつある。

この「捌ける現場」の多くが、自動化や省力・省人化に注力している。人材難を見越し、より手離れが良く生産性の良い機器の導入を積極的に導入している。それを裏付けるように、鋼材加工機メーカー各社はすこぶる好調だ。

長尺加工機のパイオニア、フジ産業はコストパフォーマンスの高さと現場に合わせたカスタマイズがユーザーに支持され、これまでボール盤や手作業で加工を行っていたような現場が続々と同社加工機を導入している。

大東精機はドリルマシンとバンドソーをタンデムに並べた形鋼用全自動ライン「DASP」が好調な売れ行きを示している。オペレータ1人でCAD/CAMのデータに基づき、素材の供給から加工、払い出しまでを完全自動で行える点が市場に受けている。

同様にタケダ機械の形鋼加工機や、イワシタの長尺NCアルミ加工機にも昨今は「自動化オプションの採用が相次いでいる」という。

また高騰する資材を「早く、無駄なく、人手をかけずに」運搬・加工できるソリューションを各社が打ち出している。本特集では建設・鉄骨加工現場で導入効果の高い機器・製品を取り上げる。

デンヨー株式会社
世界が注目! リュック型溶接機「WELZACK」

国際ウエルディングショーにおいて、ひときわ注目を集めていたのがデンヨーの背負い式バッテリー溶接機「WELZACK(ウエルザック)」だ。動画を当社インスタグラムで公開すると、瞬く間に拡散。2024年6月5日時点で300万回再生を突破するなど、バズりにバズっている。そんな注目度の高い製品の詳細を同社研究開発部に聞いた。

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デンヨー「WELZACK」

●「背負える」タイプの溶接機を開発した狙いについて
「昨今、可搬性の高いポータブル式の溶接機がいろいろと出ていますが、持ち運ぶとなると力の強い方でも大変な作業です。それが狭小部分や階段など段差がある場所では、作業者の負担はさらに増します。また、どうしても手で持ち運ばなければならないので、移動時の自由度が下がりますし、バランスを崩して思わぬ事故に繋がってしまうリスクもあります。そこで、移動しながらの溶接作業が楽になるリュック型の製品開発を進めました。」

●コンパクトにまとまったデザイン
「女性や高齢の方でも背負える重さに、ということで本体重量を10kgにまとめました。また、移動時に接触したり引っかかったりしないよう、スイッチ類をサイド部分に配置し誤作動を起こさないようにしています。また従来の当社の溶接機は青を基調にしたものが多かったのですが、こちらは白をベースにシンプルなデザインにしています。」

●溶接能力について
「基本的にはHiKOKIさんの電動工具用18/36マルチボルトバッテリーを3個使用しており、こちらの溶接能力が最大溶接電流120アンペア。径3.2mmの溶接棒なら約4本、径2.6mmは8本、径2.0mmなら14本の溶接が可能です。またバッテリーは取り外し可能ですので、充電済みのバッテリーさえあれば、数の多い溶接にも対応できます。」

●SNSでは安全性を心配するコメントも散見
「本体の背負いベルトには破断による脱落リスクを考慮し、高強度のものを採用しました。筐体には熱対策を施しており、背中が熱くなったり火傷するようなことはありません。また溶接中に、溶接棒が固着した場合も赤熱することなく簡単に取り外せます。無人状態で短絡しても赤熱による事故や溶接機の過熱を極力防ぎます。電撃防止機能もついており、高所や湿度の高い場所でも作業者を電撃事故から守ります。」

●どういった現場への導入を見込んでいるか
「インフラ補修など、現場を移動しながらの作業や、従来の溶接機の搬入が困難な場所に最適だと考えています。展示会では船舶関連や大型構造物の建築作業への引き合いも頂きました。また、これまで以上に手軽に溶接が出来るようになる、溶接がDIY感覚になるというお声も頂いていますので、幅広い現場での活用を見込んでいます。」

●価格と購入先について
「小売価格は80万円(税抜き)を予定しており、デンヨー製品取扱店で購入可能です。遅くとも11月には皆様のお手元にお届けできるよう、生産を急いでいます。」

フジ産業株式会社
職人不足を解消する「即戦力」の長尺加工機

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FZ6000×2000-16ATC

オーダーメイド長尺加工機のパイオニアであるフジ産業。建材のまちとして知られる静岡県を拠点にする同社は、およそ半世紀に渡り「現場目線」のNC長尺加工機を手掛けてきた。

今春上市した「FZ6000×2000-16ATC」は6000mm×2000mmのワークに対応。アルミや鉄の板モノ加工、幅広の鋼板など大型サイズの鋼材加工に向く。

「当社はユーザーに合わせた機械作りをしているのでATC本数を増やしたり、高トルクタイプやノコ付きパネルタイプ、3面加工タイプ、ノコ付きガントリータイプなど、加工ワークに合わせたカスタマイズにも対応する。また、必要な機能にフォーカスし不要な機能は削いでいるので、コストパフォーマンスにも優れる。機械の納入後も当社サービス部門が迅速に対応し、現場を止めない運用ができるようバックアップしている」(同社)

好評を博している同社オリジナルの操作盤も標準搭載。機械言語を使用しない簡単対話メニューや丁寧な使い方研修・マニュアルなどにより、経験の少ない働き手でもすぐに使いこなせる。

さらにユーザー自身がメンテナンスをかんたんに行えるよう、メンテナンス手順動画を公開。切削油の調整法からツールチェンジャー・タレット位置の補正方法まで分かりやすく詳細に解説している。

同社は2023年には京都営業所を開所。関西以西のユーザーへのバックアップ、サービス体制も拡充させている。

3Mジャパン株式会社
日々の作業効率を上げる切断&研磨アイテム

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「キュービトロン3」製品群

鋼材加工の現場においては自動化が進む一方で、依然として人手に頼らざるを得ない作業も少なくない。鋼材の切断や、溶接ビードや黒皮の除去、焼け取りといった作業がそれだ。

これらの現場において「作業性向上」と「安全対策」、さらに高いコストパフォーマンスを実現するアイテムが3Mジャパンのグラインダー用砥石だ。

「3M史上最高の性能」と同社が本年上市したのが、新ブランド「キュービトロン3」製品群。世界初の精密成型セラミック砥粒を工業用研磨材に採用した「キュービトロン2」をさらに進化させ、三角形形状のセラミック砥粒を最適化。切断砥石、オフセット砥石、研磨ベルトに採用した。

「キュービトロン3 切断砥石91868」は鉄やステンレスの切断に特化したグラインダー用切断砥石。一般的な切断砥石に比べ、その切断スピードはおよそ2?3倍。その切れ味の違いを確かめるべく、記者も実際にステンレス角棒を切断してみたが、切断スピードもさることながら、作業時の安定性に目を見張るものがあった。

一般的な切断砥石では、素材に刃先を当てる際、跳ね返るような感覚があり、余分に力をかける必要があるが、91868は刃先が素材に「スッ」と入っていくような感覚でスパっと切れる。現場における繰り返しの作業となれば、作業効率の向上や疲労感の低減をさらに実感できるだろう。

「キュービトロン3 ファイバーディスク1182C」による溶接ビードの除去も実際に行ってみたが、研磨スピードが段違いに早く、ビードにグラインダーを押し当てる力も一般的な切断砥石よりはるかに軽いタッチで行える。研磨後の仕上がり面の焼けも皆無だ。加えて、火花や粉じんの飛び散りも少なく静穏性も高い。グラインダー作業における安全性や健康被害リスクへの対策も実感できた。

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ファイバーディスクによる溶接ビード除去。左がキュービトロン3による仕上がり面。右の一般的な砥石に比べ圧倒的に綺麗に仕上がる

この従来品を圧倒する性能を実現しているのが、新開発のセラミック砥粒だ。

「従来品より先端が鋭利になるよう三角形の砥粒を再設計しています。この砥粒は切断・研磨時において微細に欠けていき、常にシャープなエッジがワークに当たるようになっています。この砥粒を最大限に生かすために、結合剤の改良を行い、砥石の長寿命を実現しています」(3M研磨材製品事業部)

生産性、作業性に加え安全性も高めた同社キュービトロン3製品。だが、砥石1枚の価格は一般的な市販品より高額だ。しかし、導入済のユーザーからは「製品寿命が長く、切断コストの低減につながっている」という声も挙がっている。

限られた時間内での作業が求められる中、「タイパ」と「コスパ」を両立する砥石と言えよう。

育良精機株式会社
IoT搭載バッテリー溶接機で盗難対策、作業の可視化を実現

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育良精機のIoT搭載型バッテリー溶接機「NEO」

転売のターゲットとして狙われている作業工具・電動工具。工場への侵入や作業車の車上荒らしなど、全国各地で被害が続出している。特に、高額ながら持ち運びしやすいポータブル溶接機は窃盗団にとって恰好の獲物だ。

育良精機のIoT搭載型バッテリー溶接機「NEO」シリーズは盗難防止を主眼に置いた新製品。溶接機専用アプリを開発し、スマートフォンと連動。アプリが溶接機の「鍵替わり」となり、作業開始時はアプリに暗証番号を入れなければ起動しない仕組みとなっている。

「今後は万が一、盗難に遭った場合に追跡できるよう、機能やアプリをバージョンアップしていく予定」(同社)

アプリは盗難対策だけではなく、溶接中の機械内部の状態を可視化するモードや、事前に溶接条件を設定するモードもあり、より効率の良い作業を実現する。加えて、溶接時のデータを通じてフィードバックし、データ管理することも可能だ。

「将来的には当社とユーザー様を繋ぎ、予防保全や故障した際のメンテナンス対応を拡充するようなシステムも組み込んでいきたい」(同)

イーグルクランプ株式会社
重量物搬送を支える究極のバックアップ体制

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徹底した製品管理と手厚いユーザーサポートで安全性を高めている

鋼材加工や建築現場での搬送において欠かせない「吊り具」。国内でいち早く吊りクランプを開発したパイオニアメーカー、イーグルクランプのこだわりは「安全」にある。

重量物を吊り下げて運ぶクランプは、老朽化や誤った使い方が原因で思わぬ重大事故に繋がるリスクがある。こうした事故を未然に防ぐために、同社では自社製品ユーザーに対して十重二十重のバックアップ体制を構築している。

同社の吊りクランプは、プルーフロード(引っ張り荷重)試験など多岐に渡る製品検査に合格したもののみを出荷。製品を個別の番号で管理するトレーサビリティも徹底されている。

販売された吊りクランプは、ユーザー毎に管理する「ユーザー管理システム」に登録され、同社のテクニカルエンジニアが定期的にユーザーを訪問しクランプを点検、部品交換などの整備を行う巡回点検制度を行っている。さらに現場における安全・安心を最重点とする講習会も行っており、自社吊り具の正しい使い方を啓蒙している。

同社はテクニカルエンジニアがより良いサポートを行うための「営業支援システム」の構築も行っている。これはユーザーが使用している吊り具の種類や使用年数、使用頻度、交換履歴などの情報をデジタル化しビッグデータとして蓄積。それを活用し、ユーザーに対しより安全な製品の提案と、円滑な運用を目指している。

株式会社スーパーツール
吊クランプ点検・管理をデジタル領域に
?作業効率と安全性アップを次世代システムで

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吊クランプに埋め込まれたRFIDチップを読み取りシステム登録する

建設現場に欠かせない吊クランプ。しかし吊クランプの管理や点検状況の把握に悩むユーザーは実は多いのではないだろうか。鋼材用吊クランプから産業機器、作業工具まで幅広くてがけるスーパーツールは、事業の柱の一つである吊クランプに、デジタル技術を掛け合わせた「国内初」の管理サービスを生み出した。

同社が4月にローンチした吊クランプ管理システム「S・M・A・Я・T(スマート)」。吊クランプに埋め込まれたRFIDチップを読み込んでシステム登録し、クランプの資産管理や点検整備状況を1台ずつ管理できる。RFIDチップは、様々な環境で使う吊クランプに見合う耐久性を確保している。

対応機種は「SDC-NRF」と「SDC-SRF」の2シリーズだが、今後順次同社の吊クランプすべてに拡張していく(RFIDチップ未搭載の製品は製造番号などで登録可能)。

重量物を取り扱う吊クランプは少しの不備が大きな事故に繋がりかねない。適切な使い方・容量を守ることと毎回の点検整備・記録が非常に重要だ。S・M・A・Я・Tは使用前の点検や定期点検、メーカー点検を、スマホやタブレットからシステム上に入力・確認、管理できる。画面の指示に従い製品自体の割れや欠け、カム部分の摩耗の有無をチェック。交換が必要な部品はシステムから見積りを自動作成でき、品番や部品名称の確認が不要。スムーズに依頼をかけられ利便性が向上した。

また、RFIDチップ読み取りにより取扱説明書やカタログ、寸法図等を確認できる。開発を担当した技術開発部の林輝樹次長は「どの様に吊れるか、吊り荷の条件など現場ですぐ確認できる。現場のニーズとメンテナンス作業者目線を組み合わせ、実用的な機能を盛り込んだ」とし「GPS機能で直近に点検実施した場所が履歴に残るので、紛失時にも役立つ。また、部署ごとにクランプの保有台数や種類を登録でき、状況に応じて他部署から調達したり、クランプの適正数管理としても使える」とメリットを説明。

■システム利用は無料、クランプ価格も据え置き

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部署ごとの保有台数や点検状況、次回定期点検日が一覧で把握できる

S・M・A・Я・Tについて、平野量夫社長は「構想は約10年前からあった」と話す。当時RFIDリーダーが非常に高価でソフトウェア開発の壁もあったが「RFIDの普及により手が届く価格になった」と長年温めてきたアイデアをいよいよ上市。「中期経営計画の販売戦略の切り札となるシステム」と平野社長は力を込める。

S・M・A・Я・Tの利用は無料で、WindowsやiOS、Androidに対応。またRFID搭載の吊クランプは従来価格と変更なし。読み取りには専用リーダーを使うが、NFC(近距離無線通信)対応のスマホでも読み取り可能と、ユーザーは大掛かりな設備投資はほぼなしで、気軽に導入できる。

その狙いを楠東一郎取締役執行役員は「安全に使える吊クランプの設計やスペック設定はもちろん、安全安心の礎になる点検や修理をシステムでサポートする」と語り、「当社の強みであるアナログ製品にデジタル技術を応用することで、問題解決を提案する新たなビジネスモデルを作る」と意気込みを語った。

(日本物流新聞 2024年6月10日号掲載)

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