1. トップページ
  2. 特集記事一覧
  3. 2025年版中小企業白書を読む

2025年版中小企業白書を読む

投稿日時
2025/05/22 15:35
更新日時
2025/05/22 15:42

成長へ −−−「経営力向上」を重視

25年版の中小企業白書・小規模企業白書が4月25日、閣議決定された。大企業と比較し厳しさの目立つ中小・小規模事業者の業況を分析しながら、持続的な成長を可能にするポイントをまとめている。今回の白書は成長へのカギとして特に「経営者の経営力向上」に焦点を当てたことが特徴的だ。


動向

業況は足踏み、広がる大手との格差


中小企業の昨年24年の状況は、全体として足踏み感が強いようだ。「中小企業景況調査」の推移をみると、新型コロナウイルス感染症の影響で20年に大きく落ち込んだ後、景況感は回復し、23年第2四半期時点での景況認識は94年以降最高水準を記録した。しかしその後、景況感は弱い動きに変わっている。

また中小企業の業績は、20年の落ち込み以降、現在まで売上、経常利益ともに回復傾向が続いているが、大企業に比べ回復率は低く、その差が拡大傾向にある。

業況.jpg

こうした現況チェックのなかで白書は、「金利のある時代」になったなかでの、中小企業の借入金依存度の高さを懸念。また有利子資産保有量が大企業の同資産と照らし、企業規模を鑑みても少ないことに触れ「恩恵を(大企業ほど)受けにくい構造になっている」などと言及した。続けて為替の影響、生産・投資コスト増の影響、構造的な人手不足に関し次のような記述を加えた。

まず歴史的な円安・輸入物価高に関しては、従業員300人未満の企業で輸入比率が輸出比率を大きく上回っており、総じて輸入物価高が業績の下押し要因になっているとした。

人手不足問題も立ち塞がる。中小・小規模事業者を対象に行った民間アンケートでは「まだ取り組んでいない最も重視する経営課題」の問いで「人手不足」の回答が最も多く、中小・小規模企業ともに回答の2割以上を占めた。

人手不足は20年以降、年を追って深刻化している。企業規模別では中小、零細よりも中堅企業で不足感が強く、業種別では建設業に特に不足感が強い傾向が続いている。

他方、企業倒産でも物価高や人手不足が絡んでいた。企業倒産数は21年を底に増加傾向に転じ24年の倒産件数は 1万6件。 従業員規模別に見ると、「4人以下」の企業が大半を占め、要因別ではやはり「人手不足」と、「物価高」を要因とした倒産が増加していた。

また賃上げ率や労働生産性の向上で、中小が大企業と比較し劣る状況も記された。

24年の中小賃上げ率(従業員300人未満)は平均4.45%と高水準だったが、大企業を含めた全体の賃上げ率5.10%と比べると0.65ポイント低かった。この相対的な差は、23年の全体との差マイナス0.35ポイントから広がった格好だ。

他方で労働生産性(一人当たり付加価値額)は中規模・小規模企業とも大企業の3分の1程度に過ぎず、かつこの30年、ほぼ横ばいか緩やかな上昇にとどまっている。

白書はこうした結果分析を踏まえ、中小企業へのメッセージとして「営業利益を向上し、業績改善無き賃上げからの脱却が必要」などとした。

一方で、設備投資やデジタル化、DXといった将来に向けての取り組みはどうか。

設備投資の足元(22年以降)の推移を企業規模別にみると、「大企業」で増加傾向、「中規模企業」でおおむね横ばい、「小規模企業」では減少傾向と三者三様クッキリ違いが出ている。

このことを踏まえ「コスト上昇が続く今こそ、積極的な設備投資により業務効率化を図ることが必要」と白書の概要版で明示している。

デジタル化については、23年時点で中小企業全体の約30%を占めた「デジタル化が図られていない状態(紙や口頭の業務が中心)」が24年で約13%と大幅に減っており、デジタル化の進展がうかがえる状況だった。白書は「DX実現に向けても、更なるデジタル化の進展が期待される」とした。

ほかの課題として後継者不足や、増加する休業・廃業の問題などについても調査資料や事例から分析を行っている。


新時代へ

問われる経営者の経営力


中小・小規模企業を取り巻く環境や課題を見据えたうえで、白書は環境の変化や課題を乗り越える中小の取り組みについて詳しく分析し、メッセージを発している。

今回、最も重要視したのが「経営者の経営力」だった。

ここで言う経営力とは「中小企業の成長や持続可能性の向上に寄与し得る、経営戦略の策定力及び経営資源のマネジメント力、経営者の成長的志向、従業員にとって健全な環境や待遇を整備する能力等」(白書)としている。

以下、白書が重視する「経営者の経営力」について、白書に書かれた分析・考察・メッセージを、当紙面で引用・要約したい。

製品商品サービス.jpg

■経営戦略

過去の中小企業白書では、自社の経営資源とターゲット市場の両方を分析することが優れた経営戦略につながっているとの可能性を指摘しており(23年版)、今回の白書も「社内資源・外部(市場)環境」の2つの視点から経営戦略について考察した。

その詳細は割愛するが、社内資源を活用した差別化と、外部環境の双方を意識する中小企業者が、双方とも意識しない企業、あるいは差別化と環境のいずれか一つのみを意識する企業に対し、売上・利益ともに変化率の高い(伸びが高い)ことが調査から浮き彫りになっている。

白書は「経営資源が限られる中小企業にとっては、自社の製品・商品・サービスの特徴やターゲット市場の環境を見極め、自社の競争力や優位性といった価値を的確に認識することが重要。中小企業には自社のリソースと外部環境の分析をベースとした経営戦略の立案が求められる」と結んでいる。

■経営計画の策定・運用

中小企業の経営計画について運用面も含め分析した。調べでは51%の中小事業者が経営計画を策定しており、見据える期間は3年以内が過半数を占めるが、「5年超」の期間で策定する事業者も1割程度あった。その一方、残る約半数の49%が経営計画を策定していなかった。策定されていない背景として「経営人材がいない」との回答が一定程度あった。

経営計画策定の目的は多い順に「業績の向上」、「経営状況の把握」、「自社の強みや弱みの理解」という結果だった。

こうした状況を捉えたうえで白書は続けて「策定した経営計画を適切に運用していくことも重要」とし、運用実態についても考察した。

調査資料を基にしたまとめでは、計画の達成に向けた「行動」に比べ、計画の「進捗管理」や、計画に対する「実績の評価・計画の見直し」で取り組み割合が比較的低くなっている点を強く指摘している。

またこのくだりでは「経営計画の運用は業務負担が重く、運用の役割を分担できる経営人材の存在が重要」とも記した。経営計画策定企業が、策定していない企業に比べ業績や付加価値額で上回っている状況も説明した。

白書は「経営計画の策定と運用に当たっては、経営者と近い視点・視座で経営を考えることができる経営人材の存在も大切な要素。さらに、長期的な視野で投資や人材確保に向けた戦略を検討し、不断に見直していくことも重要。実際に、長期を見据えた経営計画を策定している事業者ほど、業績が向上している傾向にあることも確認されている」と記し、「時間をかけてでも策定・運用に取り組む価値がある」と加えた。

経営計画の策定状況.jpg

■透明性・開放性・ガバナンス…

経営力向上に資する取り組みとして、経営の透明化、財務戦略の重要性、従業員の力を引き出す経営の重要性などについても、各種調査結果や成功事例を下敷きにしてまとめている。

経営の透明性については「従業員への経営理念・ビジョンや業績・財務内容等の共有は、従業員の主体性の醸成につながる」とした。財務戦略・管理に関しては「製品・商品・サービスの原価構成、利益の把握を通じた適切なコスト把握により価格転嫁につなげられている可能性」などと記した。

経営の開放性という点にも着眼し「社外への情報開示に当たり、論理的かつ正確に社内の状況を説明する必要があることから、日頃から経営管理の透明性を高める等の取組みにつながり、それが収益性の改善に取り組むきっかけになっている可能性がある」と記述。

またガバナンス体制の強化に関してや、人材の採用育成、働き方の改善、経営者同士の交流やリスキリングなどについても取り組むべき内容を考察した。事業継承問題にも目を向けている。






スケールアップを図るべき

規模の進化で優位性明らかか


今年の中小企業白書・小規模企業白書は、ページを十分に割いて企業の「スケールアップ」に着眼した章を設けている。

ここでスケールアップとは企業(事業)規模の拡大を指す。過去から経営学とその周辺では「経営・技術の革新において目指すべき本質はスケールである」といった考えがあった。

白書は具体的に「売上高100億円規模」をひとつの基準にしてスケールアップについて考察した。

「スケールが大きくなるほど賃金水準も高い傾向」、「スケールアップ実現により域内経済への貢献度も増す(域内需要創出)」、「輸出による外需獲得に貢献する」といった現実を捉え、実際に売上100億円規模以上の企業でこれら3つの事項とも相対的に実績が高い傾向にあることを示した。

現実を見ると、売上高100億円以上の中小企業者数は、13年度の1594社から22年度に1970社へと376社増加しているが、この間、売上高で現状維持か縮小を余儀なくされた企業の割合も66%と高い。白書は「成長の壁」を乗り越える取り組みを強く求めている。

壁を越える有効な取り組みについて白書はページを割いて細かく分析している。主だったところをざっくり見ると、従業者一人当たり売上高の増加、有形固定資産の活用や設備投資、売上高利益率の向上。―これらの取り組みを通じてスケールアップを図ることの有効性を示唆した。スケールアップに成功した企業について「利益率を継続的に高めるとともに、資本を積み上げながら、設備投資により資本装備率を高め、それらの設備を有効活用し、売上高を高めるという好循環の中で、スケールアップを実現してきたことがうかがえる」とまとめている。



(日本物流新聞2025年5月25日号掲載)