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中国発ロボット・AIイノベーションの震源「深圳」の今を徹底解剖

投稿日時
2025/08/07 13:39
更新日時
2025/08/07 13:50

大阪市は2010730日、中国・深圳市(広東省)と環境分野等での交流などに関する協定書・覚書を締結。今年で15周年を迎える。大阪・関西万博の中国パビリオンでは「深圳ウィーク」が開催されるなど、友好的な交流の更なる深化に機運が高まる。EVAI、ヒューマノイド、ドローンなど最新のイノベーションの発信地として存在感を高める深圳の最新事情をキーパーソンへのインタビューで探った。


万博で深圳ウィーク開催

深圳市駐日経済貿易代表事務所


——深圳のビジネス概要について教えてください

「中国の改革開放の窓口都市として、深圳は常に世界の投資家が注目するホットスポットです。1980年に経済特区として設立されて以来、40年以上にわたる急速な発展を経て、深圳は辺境の小さな漁村から活力・革新力・国際影響力を備えた現代大都市へと成長を遂げました。2024年には地域総生産(GDP)が3兆6800億元に達し、前年比5・8%の成長が記録されました。企業数は440万社を超え、企業密度は9年連続で全国1位となっています。輸出入総額は4.5兆元に達し、31年連続で中国本土都市の中で首位となっています」

「深圳は、法治化・国際化・利便性の高い一流のビジネス環境を構築しており、外資系企業も現地企業と同様の政策優遇を受けることができます。近年、深圳の製造業における実際利用外資額は2倍に増加し、年間で新たに9738社の外資企業が設立されました。日本は深圳の対外開放に最も早く参加した国の一つであり、両地の経済貿易の協力は一貫して緊密です。深圳は中国で最も開放的かつ活力に満ちた都市の一つとして、日本との投資協力において常に最前線に立っています。2024年末時点で、深圳における日系企業は1153社に達し、累計の実際利用外資額は38億ドルを超えました。業種別では、卸売・小売業が全体の約38%、製造業が約26%を占めています。2025年第1四半期には、新たに7社の日系企業が深圳に進出し、実行外資額は582万ドルに達するなど、協力基盤がさらに強化されています」

「外資誘致だけでなく、海外展開にも力を入れている深圳は、日本への進出も積極的に進めています。深圳市は現地企業による海外進出を積極的に奨励しており、BYD、DJI、テンセントなどの企業が日本に支社や共同研究開発拠点を設立することで、技術統合を促進し、両地間の市場信頼を深めています。2024年末時点で、深圳企業は日本に136社の企業・機関を設立し、累計契約投資額は4億3000万ドル、中国側の実際投資額は7566.9万ドルに達しています」

「今後、深圳は引き続き対外開放の高水準を堅持し、日本を含む国際ビジネスパートナーとの協力の場を拡大し、制度革新と産業の相乗効果に基づき、世界の投資家にとって質の高い発展の理想的な温床を創出していきます。

■テンセント、BYD、Honorなど出展

ーー大阪・関西万博で「深圳ウィーク」が開催されましたね

「大阪・関西万博で深圳市は中国館において唯一の地級市代表として、5月12日から14日にかけて『深圳ウィーク』を開催し、『開かれた深圳、未来を共に創る』をテーマに、都市イメージ、産業成果、国際協力のビジョンを全面的に発信しました。深圳ウィークでは、都市プロモーション・企業展示・産業マッチングの『三位一体』の構成で、万博という国際的なプラットフォームを最大限に活用しました。テンセント、BYD、Honor(栄耀)、Unilumin(洲明科技)、UBTECH Robotics(優必選)など、深圳を代表する60社以上の重点企業が集中的に出展し、2・5万人を超える来場者を引きつけました」

「また、深圳ウィーク期間中に『深圳-大阪イノベーション連携フォーラム』が開催され、日中双方の政府機関、研究機関、業界団体、企業など約200人が一堂に会し、グリーンエネルギー、スマート製造、バイオ医薬、人工知能などの分野において、深い交流とマッチングが行われました。洲明科技、優必選など10社がその場で契約を締結し、パナソニック、伊藤忠商事など多くの日系企業が今後の協力強化への意欲を明確にしました」

「深圳ウィークは、科学技術と文化のショーケースであるだけでなく、中日企業が実効的な協力を展開するための有効なプラットフォームともなり、双方が常態化したマッチングメカニズムの構築に向けた確かな土台を築きました」

——深圳市と大阪市の友好関係について

「深圳と大阪の友好関係は2000年代にさかのぼります。2010年7月には、大阪市の当時の市長・平松邦夫氏と大阪商工会議所の当時の会頭・佐藤茂雄氏が代表団を率いて深圳を訪問し、双方は『友好協力・交流に関する覚書』に署名しました。これにより、両市の公式な交流の基礎を築きまし、その後も環境保護や都市開発などの分野で継続的な協力が行われてきました。今年は両市が友好交流都市関係を締結してから15周年の節目にあたり、大阪・関西万博の開催期間中、深圳は中国館において『深圳ウィーク』も実施し、両市間の友好交流の雰囲気は一層高まっています」

「改革開放の最前線として、深圳は活発なイノベーション・エコシステムと効率的なビジネス環境により、世界から注目を集め続けています。一方、大阪は日本西部の経済中枢であり、先端製造業の拠点として、強固な産業基盤と国際的な視野を有しています。グローバルな産業チェーンの再構築と地域経済の一体化が加速する中、深圳と大阪の経済貿易協力はこれまでにない新たな機会を迎えています」

「産業構造の観点から見ると、深圳は『20+8』の戦略的な新興産業および未来産業クラスターの構築に注力しており、新世代情報技術、人工知能、新エネルギー、スマート製造などに強みがあります。一方の大阪は、精密機械製造、バイオ医薬、医療・ヘルスケア、ロボット技術、環境工学といった分野で先進的な技術を有しています。両市の産業は高度に補完し合っており、国境を越えたイノベーション協働において理想的な条件が整っています」

「さらに、両市は都市統治の概念においても多くの共通点を持っており、スマートシティ建設、グリーン発展、持続可能な転換を重視しています。大阪は万博のテーマである『グリーンな未来社会』を軸に都市づくりを進めており、深圳もデジタル行政や低炭素型産業団地などの分野で豊富な経験を積み重ねており、都市の現代化ガバナンスにおいても協力を深めることが可能です」

「深圳と大阪は、技術革新と双方向投資を軸に、日中地方協力の新しいモデルを築き、経済交流の原動力を高めることが期待されます。今後は、企業の共同研究開発や越境投資、人材交流などを積極的に支援し、双方の交流メカニズムを常態化させることが求められます」

——深圳と大阪に共通点はありますか。

「経済・貿易協力にとどまらず、深圳と大阪は文化やライフスタイルにおいてもそれぞれ独自の魅力を発揮し、交差の中で共鳴を生み出しています。深圳は平均年齢32歳という若い移民都市であり、開放性、革新性、包摂性にあふれ、勤勉さと多様性が共存する都市文化を形成しています。一方、大阪は歴史が深く、情熱的、親しみやすい市民性で知られており、誠実さと効率を重んじる商人文化が人々の暮らしに根付いています」

「食文化においても、両都市はそれぞれの個性を持っています。深圳は多様な人口の融合により、広東料理を基盤としながら多文化が交わる食の構造を築き、AIによる注文やスマート調理などの新技術を積極的に取り入れ、中国の飲食イノベーションの先端地域となっています。大阪は『天下の台所』と称され、たこ焼き、すき焼き、串カツなどの庶民的なグルメが街の人情味とともに息づいており、親しみやすい食文化の風景を形づくっています。近年、深圳では大阪の食文化への親しみと関心が高まり、多くの日本食レストランがオープンしています。一方、深圳企業も『広東式朝茶』や『スマート中華』などの概念を日本市場に紹介し始めています」

「文化・観光の分野では、深圳はテクノロジーと伝統的な文化を融合させた新たな観光体験を創出しており、舞台劇『詠春』、AI囲碁体験、『香雲紗』ファッションショーなどのプロジェクトが大阪万博期間中に高い評価を受け、現代中国のテクノロジー文化の魅力を示しました。大阪は、豊かな歴史遺産や地域祭り、現代都市の風景を有し、多くの中国人観光客を引きつけており、日中文化交流の重要な架け橋となっています」

「今後、深圳と大阪は、グルメ、芸術、観光プロモーションなどの分野でさらに連携を強化し、人文交流の常態的なメカニズムを築くことで、都市間の関係を経済にとどまらず、心と心のつながりへと広げていくことが期待されます」

——「来たらもう深圳人」について教えてください

「深圳には広く人々の心に浸透しているスローガン、そして文化的象徴があります。それが『来たらもう深圳人(来了就是深圳人)』という言葉です。このフレーズは2008年に生まれ、簡潔でありながら深い意味を持ち、深圳という都市の包容性と開放性、そしてすべての人が平等であるという核心的な価値観を体現しています。それは単なる歓迎の言葉にとどまらず、深センの革新と卓越性の追求への勇気の精神的な象徴でもあります。改革開放の先鋒都市として、深圳はあらゆる地域からの人材や起業家を寛容に受け入れ、公平で公正なビジネス環境を構築してきました。夢と能力のある人なら誰もがこの都市でチャンスを見出し、自らの価値を実現できる——それこが『来たらもう深圳人』精神の強力な原動力なのです」

「このような包容力と機会平等の理念は、対日交流の中でも広く認識されつつあります。特に大阪のような友好都市にとっても、『来たらもう深圳人』という精神は、深圳が世界中のパートナーを歓迎し、共にチャンスを分かち合い、未来を共創したいという重要なメッセージを伝えています」

「未来を見据えると、『来たらもう深圳人』は深圳が世界に向けて発するオープンな招待状であります。今後、両都市の協力が深まるにつれ、深圳は大阪と包摂的ガバナンス、人材流動性、文化多様性、持続可能な発展といった問題について議論し、共に『都市の包摂性』の世界的な探求を推進していくことを望んでいます」




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(日本物流新聞2025年8月10日号掲載)