【2026年ソリューション別展望】脱炭素、スコープ3義務化ついに始動
- 投稿日時
- 2026/01/23 11:00
- 更新日時
- 2026/01/23 11:11
中小も避けられぬ脱炭素、関連ツールは真価問われる
長らく取沙汰されてきたスコープ3の開示義務がいよいよ国内で始まる。金融庁は1月8日に報告書を公表。東証プライム市場の上場企業を対象としたSSBJ基準の適用開始時期を、時価総額3兆円以上の企業は2027年3月期からとした。3兆円未満1兆円以上の企業も28年3月期から開示義務が課される。報告書は時価総額1兆円未満5000億円以上の企業についても同基準の適用開始時期を「29年3月期とすることが適当である」としており、対象企業は年々、増えていく見込みだ。なお開示が義務化されるサステナビリティ情報には、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を指すスコープ3が含まれている。
この施策はどの程度のインパクトを持つのだろうか。まず先立って27年3月期に義務化の対象になる「時価総額3兆円以上の企業」だが、時価総額は随時変動するものの、26年1月時点で国内にだいたい70~80社ほど存在している。その程度かと感じるかもしれないが、特に最終製品を作るメーカーの場合、1社あたりに膨大な数のサプライヤーが連なることになる。最も時価総額が高いトヨタ自動車は、実に3万9344社ものサプライヤーを単独で抱えている(帝国データバンク調べ、25年6月時点)。時価総額3兆円超の企業がサステナ開示義務を課されるだけでも、影響は極めて大きいと評価すべきだろう。今後は中小も含めた広範な企業が、CO2排出量の把握や削減に努めることになる。
スコープ3は15のカテゴリに分類されている。例えばカテゴリ1「購入した製品・サービス」の排出量を算定する場合は、環境省が公表している指針に従い「活動量×排出原単位」の式で計算する。排出原単位にはサプライヤーから提供を受けたデータ(一次データ)と、二次データがあり、二次データを利用した算定では排出原単位に環境省の用意するデータベース等の業界平均値が用いられる。
サステナ開示の義務化が始まった段階では、サプライヤーが十分に一次データを保有していない可能性が高い。現実的には多くのケースで二次データを用いてスコープ3排出量を算出することになるだろう。だが二次データはサプライヤーの実際の排出量を正確に映したものとは言い難く、個々のサプライヤーによる排出削減努力が排出量に反映されない。何より二次データを使う限りは事実上、調達量を減らすことでしか排出量を有効に削減できなくなる。
排出量を減らすために調達量を減らす事態が続いては元も子もない。企業の成長における足枷となるため、中期的にはサプライヤーに直接、排出量データ(一次データ)の提供を求めることが予想される。ひとたびこのサイクルがうまく回りだせば、一次データの活用が広まるほど、排出量の把握と削減に努めるサプライヤーが取引先として選ばれやすくなっていく。このことは大企業以外がCO2排出量の可視化や省エネに取り組むうえで強力なインセンティブになるはずだ。
■実用的なツールが生き残る
こうした背景から脱炭素に関連するツールやサービスの市場は、2050年に向けた中間地点である2030年にかけて拡大していくことが見込まれる。ただ現在市場に存在するすべての関連商材の未来が明るいかといえば、必ずしもそうは言えないのではないか。
脱炭素に向けた橋頭保だったEVは世界的に需要が失速、欧州の自動車産業の苦境を目の当たりにした欧州委員会は、35年にエンジン車の新車販売を禁止する方針を事実上後退させた。第二期トランプ政権は気候変動対策に取り組む多数の国際組織や協定からアメリカを離脱させ、脱炭素に関する取り組みに批判を繰り返している。ESG投資も退潮が指摘され、ネットゼロ達成を目指す銀行の国際組織であるネットゼロ銀行同盟は25年10月に解散を発表した。脱炭素をめぐる世界の時計の針は、この1年間でかなり巻き戻された感がある。あまりに性急な脱炭素はそれ自体が持続可能ではなかったのか、今は勇み足の勢いが余ってたたらを踏んでいるような状況と言える。
国内市場においても数年前までは必ずしも脱炭素に直結しない製品・サービスが「脱炭素ブーム」の中で乱立し、展示会などでもアピール合戦を繰り広げていた。だが企業が実際以上に環境への配慮をアピールする行為は「グリーンウォッシュ」と言われ、世界的に風当たりが強まり批判の的だ。発展途上でまだ実利に乏しいEVの需要が息切れしたように、脱炭素の関連ツール・サービスも遠くない将来、本当にCO2排出量の削減に効果的なものとそうでないものとで明暗が分かれるだろう。
![Gemini_Generated_Image_b0we43b0we43b0we[10089].jpg](https://www.nb-shinbun.co.jp/upfile/e57a1cad3ac8cc3372145df02dc2ab64739a4be9.jpg)
グリーンウォッシュは上辺を取り繕うことを意味する「ホワイトウォッシュ」と「グリーン」を掛け合わせた造語。見せかけの欺瞞的な環境配慮を指し、消費者や投資家を誤解させるとして厳しい目が向けられている(画像は生成AIで作成したイメージ)
設備の消費電力を正確に可視化するセンサーを提供するSIRCの出口智也部長は「国内企業の(脱炭素への)感度は依然として高い。だが『関心を持っている人が誰か』が変わった。つまり経営層から実務層に脱炭素の関心が移った」とする(インタビュー記事は下記のリンクより)。
スコープ3の開示義務化は待ったなしであり、実務層は対外的なアピールより自社のCO2排出削減を少しでも前に進めることを優先するだろう。気候変動は地球規模の重要課題であり、一時的な足踏みはあっても世界的な脱炭素の方向性自体は今後も堅持されるものと見られる。よって26年は脱炭素に関連するツール・サービスも需要の増加が見込まれるが、一方で真価を問われる年にもなるのではないか。
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【インタビュー】SIRC(サーク)部長 出口 智也 氏
(日本物流新聞2026年1月25日号掲載)