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成熟社会のビジュアル差別化戦略

投稿日時
2025/02/07 10:05
更新日時
2025/02/07 10:25
長谷川工業、タフシリーズ

―― カッコよさが職人不足解消も ――

社会が成熟するにつれ製品性能や内包される技術力のみでは、明確な差がつきにくくなっている。低成長が続くわが国では特にその傾向が強い。 そこで改めて注目されているのがデザインの力だ。いちはやくその重要性に着目し、同業他社に比べて大きな成功を収めている企業も少なくない。 また、最近ではBtoC向けに限らずBtoB向け製品でも意匠を高めた製品が数多くリリースされる。こうしたデザイン力の高い製品をリリースする企業では、プロダクトデザイナーや世界的なファッションデザイナーを起用するなどして訴求力を高める。こうして創られた「かっこいい」「かわいい」道具やファッションでセルフプロデュースした職人に憧れ、その世界に入る若い人も。デザイン性から、職人不足を解決しようとする気概を持ったモノづくり企業も多くある。 世界的デザイナーのコシノジュンコ氏が初めてワークウエアをデザインした際、当紙の取材に答え「学校の制服に憧れて、入学するということがある。かっこいいワークウエアを着れば責任とプライドを持って仕事が出来る。そういう姿を見れば、『あの仕事がしたい』と思ってもらえるようになる」とし、デザインが、人手不足の解消にもつながる力を持つと示唆した。 各企業のデザインへの取り組みや情熱、機能との両立の難しさなどを探った。


長谷川工業、礎を築いたはしご「UPSLIDER」をリブランド

品質訴求の「乗ればわかる、頼もしさ。」戦略の一翼に


長谷川工業が2009年にリリースした踏み台「lucano(ルカーノ)」は機能性と意匠性が高く評価され、世界各国のプロダクトデザイン賞を受賞。17年には、ルイ・ヴィトンが直営店全店舗に採用、18年には人気アパレルブランド・シュプリームとのコラボレーションを果たすなど大ヒット。また「BLACK LABEL」などで差別化が難しいはしご脚立業界で唯一無二のブランドを確立。デザイン性を取り入れた経営戦略で成長軌道を描いている、そんな同社が今年注力するのが「UPSLIDER」のリブランドだ。1960年代、日本の高度成長期にテレビの普及、アンテナ工事の増加に伴い同社が成長する基盤となったはしごのネーミングに再注力する背景を探った。

同社の礎を築いた同はしご。「職人の皆様にUPSLIDERという名前を認知いただき、はしごの総称として呼んでいただいていました。この度改めてロープ操作式のはしごの総称としてUPSLIDERの名前を復刻させた背景は、市場にはしごは数多くあるものの、ハセガワが自信を持ってお勧めする、使いやすさ、乗りやすさにこだわったはしごを、ユーザーの皆様に識別していただきたいとの思いからです。安心の証としてネーミングを復刻させたという次第です」(マーケティング本部 広報・広告宣伝課 津田康平氏、以下同氏)と話す。ロゴデザインは過去のUPSLIDERのデザインを踏襲しつつ、現代風にアレンジした。

しかし、ただネーミングだけでは職人に選ばれない。そのクオリティーにも自信を見せる。「UPSLIDERの製品は、ハセガワならではの乗り心地があります」とし同製品は開発過程で設計者が試作に何度も乗り比べることで、設計上の数字だけでは表れない、わずかな感覚や違和感などを修正。それにより乗った時の安心感や乗り心地を生み出している、という。また、ロープ操作をリニューアル。滑車形状を改良しロープの上げ下げを最大約25%軽量化した。現在同社は「乗ればわかる、頼もしさ。」をキーワードに「使う方が安心して作業いただけるような高品質な製品の製造、開発」に取り組んでおり、同時にその訴求に努めている。こうした企業戦略の一翼を担うのが同製品となる。

■売上20%増目指す

ラインアップは3種類。「タフシリーズ」は130㌔の対荷重(一部例外あり)があり、ハードな現場での使用を想定。「プロシリーズ」は業務で使用を想定したシリーズで、幅広いラインナップがある。中でも屋根への乗り移りがしやすいラクノリシリーズや脚部がスタビライザー式になっているLH(ハチ型)は安全性が求められる現代、高い人気があるという。「スタンダードシリーズ」は一般的な家庭や事務作業など軽作業を想定し、持ち運びしやすい軽量タイプとなっている。

「現在の売り上げの120%を販売目標として営業、販促を実施していきたい」と意気込む。






ナカノ、景観になじむ横スライド式ゴミステーション 

デザインで機能性・臭気問題・収納性解決


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ステンレス製のスライド式ゴミステーションダスポン

製缶・板金加工をはじめとする金属製品加工を手掛けるナカノ(富山県黒部市)は、技術と蓄えてきた知見を注ぎ、横スライド式ゴミステーション「ダスポン」を開発、着実に売上を伸ばしている。

持ち前の技術力だけでなく、徹底的な現場のヒアリングで作り上げた公共用ごみステーションダスポンの特長は、開閉扉の前面と上面を一体構造にしていること。横にスライドし開口部を大きく開けられる。「腰板がないため中腰にならずにゴミの出し入れができ、場合によっては中まで人が入ってゴミを出せます。持ち上げ式の扉は重い扉を持ち上げなければならず、ガスダンパーなどの部品が壊れることも。スライド式ならそれもなく、2㌔ほどの力ですっと開けられます」(中野隆志社長・以下同)

オールステンレスボディで錆に強く、耐久性もメンテナンス性も高い。ステンレスの他、高耐食めっき鋼板「黒ZAM」もラインナップ。「独自性もあり意匠性も高い素材を採用した」と素材にもモノづくり企業らしくこだわる。

ダスポン誕生の始まりは古く、30年前にはカラスや錆対策できる町内のゴミ集積庫として本社を置く富山を中心に好評を得ていた。先代からひき継いだ現・中野社長が、2015年に今の時代に必要にされるゴミステーションにすべく本格的に着手した。

「ゴミ回収業者の社長にお願いして1週間ほど働かせてもらい、約600カ所のゴミステーションを調査しデータ化。課題を取り入れながら3年かけて100以上の改善を重ねて出来上がったのが今のダスポンの原型です。発売したその年にグッドデザイン賞を受賞し、方向性に確信を持ちました」。

「構造にこだわり、追求していく中でできたデザイン」と語り、「横スライド式なら高さを出せるため収納性をより高められる」とゴミ集積庫に求められる容積でもメリットが出せる上、スタイリッシュなフォルムがあらゆる景観に調和する。また、臭いが外に漏れにくい構造のため「臭いが原因で設置を嫌がられることがなくなった」。

■家庭用も好調

外出自粛などライフスタイルに変化があったコロナ禍。「テイクアウトの空き容器や段ボールなど自宅のゴミの量が増えた時、ダスポンをコンパクトにして家庭用にできないかとひらめいた。玄関横やテラスで一時的なゴミ置き場として使える」として、家庭向けのホームスライドダスポンを開発したところ、ホームセンター企業やインフルエンサーの目に留まり、話題になった。また、宅配ボックスとしても使えると違う視点からの需要も掘り起こされた。

「今年はダスポン1号から30年、現在のダスポン開発から10年という節目で、防水仕様など大きなリニューアルや新製品を予定中。今までにないものを出すので期待してほしい」と語る。






山本金属製作所、教育ツール「ARTizerno」

工業製品のイメージを一新目指す


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機械加工やFSWのデータ化に貢献する「MULTI INTELLIGENCE」や、クーラントの状態をモニタリングする「COOL-i」などで知られる山本金属製作所もデザインにこだわりを持つ一社だ。「工業製品のイメージを一新することを目標に、機能性と魅力的なデザインの両立を目指しています。一般的に工業向け製品は機能性に特化したシンプルなデザインが多い中、差別化を行い、ブランドイメージの向上や販売促進につなげることが狙い」(担当者、以下同)とする。そのため美大出身の学生の採用や、デザイン能力の高い社員の育成に週力。「製品本体のデザインに加え、パンフレットや外箱にもこだわり、細部にまで美意識を追求」していると話す。

同社が最もデザインにこだわった製品が次世代のエンジニア教育ツール「ARTizerno」(=写真)だ。卓上サイズで場所を選ばずに設置できるよう、様々な環境に馴染むモノトーンなカラーとシンプルな四角いフォルムを採用した。

機能面では、安全性を考慮したアクリルカバーや、作業後に便利な切粉廃棄用の引き出し機構を設けるなど、使い勝手にも配慮されている。

■デザインと機能の両立に難しさ

とはいえ、機能とデザインの両立は難しいという。「工業製品の設計・デザインにおいては、技術的な制約やコスト、素材の制約などが挙げられますが、特に、コンピュータの画面上では素材の質感や光沢、色の深みなどを完全に表現することができず、実際に出来上がった製品を見ると、イメージと異なる場合があり、そのすり合わせが難しいという点が大きな課題です。特に、金属の質感や塗装の表現は、実物との乖離が大きくなりやすいです」とする。

(日本物流新聞2025年2月10日号掲載)