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価値生むデザイン戦略

投稿日時
2026/02/09 10:35
更新日時
2026/02/09 10:41

使う体験が、デザインを決める

日本の製造業は長年にわたり、高品質と技術力を強みに世界市場で存在感を示してきた。その一方で、競争環境の大きな変化の下で性能や価格だけでは差別化が難しくなり、製品がもたらす価値や「どのように使われ・体験されるのか」が問われる時代に移り変わってきている。こうした中、プロダクトデザインの役割は従来の意匠設計を超え、価値創造の中核にまで拡張している。


製造業におけるプロダクトデザインは、かつては主に「形と色」で製品イメージを伝える、外観上での表現として捉えられてきた。しかし近年は、機能性・体験価値・使用環境・市場競争を内包する戦略的領域として新たに認識されつつある。見た目の良さだけではなく、ユーザーの体験、企業競争力、そして持続可能性をもたらす価値がデザインにあると期待されている。

現在のプロダクトデザインが重要視しているのは「ユーザーが製品とどのように関わるか」という体験そのもの。目的やニーズに対する深い理解から設計がスタートする流れが、今回紹介している長谷川工業、東日製作所、京セラインダストリアルツールズなど、各業界で長い歴史を持つ高シェア企業から見られていることは興味深い。製品の使い勝手の改善はもちろん、直感的でストレスのない(安全な)操作体験、道具へのわずかな違和感の払拭などにも視野を広げることで、機能提供を越えたユーザーとの関係性構築まで見据えたモノづくりを可能にしている。

■市場・技術トレンドがデザインを変える

世界の産業トレンドがデザインに与える影響も、ここ数年で大きく変化してきている。AIや機械学習を用いた設計サポートや、データ活用によりユーザーへの理解が進み、効率的かつ的確な設計が可能になってきている。なかでも設計した条件に基づいた形状を生み出すジェネレーティブデザインは必要な材料を削減しつつ、物体の強度を保持できるなど、モノづくりそのものを変革する力を持ち得る。

また、環境配慮型素材やライフサイクル全体を考えた設計が求められる中、循環型社会に呼応したデザインを組み込む流れも加速している。「使い終わった後も資源として再利用できる構造や仕組み」を組み込んだサーキュラーデザインでは、それぞれの製品やサービスだけでなく、サプライチェーン全体での循環設計にも目が向けられている。企業単体を越えて、業界を横断する連携を通じてよりサーキュラーデザインの実効性を高めようとする動きもある。サーキュラーデザインの一つとして部品交換可能なモジュール設計や、あるいは多様なニーズに応えるためのカスタマイズ要素の付与などもユーザー体験を変える重要なデザイン戦略の一つだ。

◇――◇

昨年に経済産業省がエンタメ産業に関する産業政策の指針を定めたエンタメ・クリエイティブ産業政策研究会では、世界における日本のデザインの位置づけを示した。世界三大デザイン賞の一つとされる独・「iFデザインアワード」の2020~24年の「企業部門」受賞ランキングについて1位は中国(34社)で、日本は2位(17社)として家電や家具、化粧品などの企業がラインクインしたものの、差は実に2倍。さらに同賞の「インハウスデザインチーム部門」においても中国が1位で36社、日本が2位で17社と、いずれにしても中国企業の台頭は圧倒的だ。

そのような中、工芸・工業・空間デザインにおいて「漫画、アニメーション、ゲーム等のコンテンツと密接に関係し、クロスオーバーする例が見られ」るとし、日本のデザイン力強化の源泉としてさらなる発展に期待をかける。本年からは、エンタメ・コンテンツとデザインのクロスオーバーの事例を積極的に後押しするアクションプランを実施する。

今や国も戦略的資産として見ているプロダクトデザイン。国際的な競争環境や技術の潮流を踏まえながら、デザインを経営戦略と連動させる取り組みの強化が必須と言えそうだ。


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(日本物流新聞2026年2月10日号掲載)