変わる住まいの価値
- 投稿日時
- 2025/10/01 09:45
- 更新日時
- 2025/10/01 09:59

選ばれるリフォーム提案
住宅リフォーム需要の今と課題
矢野経済研究所の調査によると、2024年の日本の住宅リフォーム市場規模は、約7兆3470億円と推計された。前年比では0.5%減と微減であるものの、25年においても同水準の約7兆3000億円が予測されており、市場は横ばいながら、依然として大きな市場規模を維持するのは間違いない。
分野別に見ると、「増改築工事」のうち10平方㍍を超える工事では前年比約3.5%減少した一方で、「設備修繕・維持関連」の需要は微増(0.4%増)となっている。家具・インテリア費用の分野は5.6%の減少。今のリフォーム市場は、装飾やデザイン重視ではなく、維持管理や機能性、安全性の確保といった「インフラとしての住宅」にシフトしていることをうかがわせる。
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今後のリフォーム需要に大きな影響を与える価格上昇。建築資材や人件費のコスト高騰が避けられず、工事原価の上昇が1件あたりの単価を押し上げている。顧客のリフォーム意欲は慎重になり、工事件数の回復に時間がかかる見込みだ。
人材確保や技能者の高齢化といった労働力の問題も深刻である。中小のリフォーム業者は後継者不在が顕著で、M&Aを促す要因となっている。経営体力のある企業による事業統合やエリア拡大による規模の拡大の動きが活発化している。
また、政府の補助制度や省エネ・GX住宅に関する政策がリフォーム内容の拡充を後押し。断熱性能向上、設備の省エネ化(給湯・空調・照明など)、バリアフリー化といった施工がリフォームの中でも重要なセグメントとなってきている。
質の提案が肝に
市場規模が横ばいと予測される中、リフォーム業界は量より質での競争がこれまで以上に重要になる。施工単価を上げるため、施工技術・デザイン力・素材選定・アフターケアなどで差別化がカギを握る。
特に、設備修繕・維持関連の需要が微増していることに注意を向けたい。顧客はコストパフォーマンスと長期耐久性に対して高い感度をもち、「長く使える」設備を選ぶ傾向が強まっている。国による住宅ストックの維持管理や省エネ住宅への改修支援は今後も拡充する見通しで、それらを活かす製品・サービスを揃えた企業が市場でのプレゼンスを高めていく。
工事件数の減少という逆風の中でも、単価上昇と住宅に求められる機能性・快適性の変化によって、リフォーム市場は規模を保つ。キッチンの入れ替えや断熱材の追加といった工事など、設備修繕・維持、グリーン住宅、省エネ・断熱・バリアフリーなどが今後の成長領域。住まいの価値を再定義し、顧客の期待を超える提案ができるかどうかが、今後の市場で選ばれる要諦となる。
必要とするのは『場所と暮らし』
パワーカップルが変える住まい選び
都市部で働く共働き世帯、収入の余裕ある「パワーカップル」やミドル層が今、住まいに求めるものは何か。関東・関西の都市部でリノベーションマンションを手がけるグローバルベイスが、東京23区に居住する20〜50代の男女1050人(うち400人が世帯年収1400万円以上=パワーカップル、650人がミドル層)を対象に住まい選びの意識を調査した。今や「立地・アクセス・暮らしの質」が、かつての「新築」というステータスを凌ぐ重視対象になってきていることが明らかになった。
調査では、パワーカップルのうち「住宅購入時に重視するポイント」について、第1位が「立地(周辺環境)」、第2位が「駅からの距離」、第3位が「価格」であった。一方で、「新築かどうか」はわずか10.0%にとどまり、14項目中11位という結果である。新築マンションが唯一の選択肢という時代ではないことを示している。
この変化の背景には、都市部を中心とした新築マンションの価格高騰がある。東京23区内では新築マンションの平均価格が1億1181万円と、既に2年連続で1億円を超えており、多くの購入希望者にとって「新築」の選択肢が手の届きにくいものとなっている。
■中古+リノベーションの台頭
その代替として注目されるのが、「オーダーリノベーションマンション」である。パワーカップルの63.0%が「住みたい」と回答し、自分好みに間取りや内装を自由にしつらえられる点が魅力のようだ。自由度を求める志向が強く、「内装にこだわりたい」「間取りをカスタマイズしたい」という希望が、住まい選びで大きなウェイトを占めるようになってきている。
また、「理想の物件を見つけられない」と感じるパワーカップルは58・0%に上り、その主な理由として「価格が高い」「条件に合う物件が少ない」が挙げられている。価格と条件のギャップが、購買意欲を抑制している最大の要因である。
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注目したいのは、購入経験者は住まい選びを振り返って「もっと効率よく選びたい」と感じている人が多く、その共通認識として「希望条件を整理・パートナーと共有すること」が挙げられている点である。パートナーとの合意や要望の明確化が、物件探しのストレスを大きく減らす要因として浮かび上がっている。
また、「マイホームを持ちたい」「住み替えたい」と考えている人は、パワーカップルで56.0%に上る。理想を追う姿勢は高いため、住まい提供者にとっては、単なる場所の提供だけでなくライフスタイルの実現という価値をどのように提案できるかが鍵となる。
このような変化を受け、「立地」「アクセス」「暮らしの自由度」を満たす住まいを提供できるかどうかが、供給側の勝敗を左右すると言える。中でも、新築住宅だけでなく中古マンションのリノベーションを手がけるサービスが注目されており、リノベーション済みマンションやオーダーリノベーションを手がける業者への期待が高まっている。
価格だけでなく、希望条件の整合性、アクセス・駅距離の利便性、自由な間取り/内装の選択肢を含めた住まい提案が、今後の需要を牽引するだろう。
■住まいの価値の再定義
パワーカップルの調査結果から浮かび上がるのは、「住まいの価値」がこれまでとは異なる方向にシフトしているということだ。立地・駅近という立ち位置の優位性、価格の現実性、デザインと自由度への願望、これらの複合が「購入の判断材料」となっている。
住宅販売事業者やリフォーム・リノベーション業者にとって、住まい選びの過程で顧客のニーズを正確に汲み上げ、価格と条件のバランスを取れる物件の確保、そして理想の暮らしを実現する提案力こそが、これからの勝ち筋となるであろう。
新築一強時代が終わりを告げ、「新築かどうか」ではなく、「どこで・どう暮らすか」が問われる時代へ。住まい選びの主役は住む人自身であり、その価値観をどこまで正確に魅力的に提案できるか、「価値」のアップデートに追従していく必要がある。
リフォーム市場に選ばれる設備機器
トクラス、建築構造そのままのリフォーム対応キッチン
袖壁付き造作対面キッチン、アイランド型、L字型など、時代の変化に合わせて住宅トレンドも大きく変化してきた。近年高まりを見せるリフォーム市場に求められるのが、既存の建築構造への対応だ。
トクラスは10月発売するキッチン「Bb+(ビービープラス)」に、1990年代~2000年代の住宅に多い袖壁付きの造作対面キッチンのリフォームに適したプランを用意。建築構造を大きく変えることなくオープンキッチン化できる。
普及価格帯キッチンでありながら、アイランド型キッチンや奥行きサイズ888㍉への展開など、上位グレードで人気のあるレイアウトやプランも選択できるようにした。
「現在リフォーム検討されるのは1990年以降に建てられた物件が多く、今後この割合は増加すると予測される。当時の建築仕様にフィットしながら、多様なレイアウト展開に対応することで、現代の暮らしにも合ったリフォームの実現を可能にする」(同社担当者)
他にも、上位グレードのみ搭載していた業界最大のシンク有効面積を誇る「奥までシンク」や高級感のある表情が特長のシート扉「Zシリーズ」のうち人気の2色(クリームストーン/スムースモルタル)も追加。調理器具を立てて収納できる「スタンドディバイダー&ナベフタホルダー」や、リフォームで付帯率の高いウォールキャビネットをより有効に活用できる「アイレベル昇降キャビネット」や「オートアップラップ」など、理想の空間だけでなく快適な暮らしを実現する機能性の高いアイテムも充実している。
パナソニックHS、30年不動の業界標準に風穴開ける新キッチン
コンパクト化により狭小住宅・マンションへの搬入・施工性も高まり、レイアウトの自由度も拡がる
建築資材や不動産価格の高騰を受けて、日本の住まいは年々コンパクトになり、リフォーム・リノベーション市場は高まりを見せている。こうした状況を受けて、パナソニック ハウジングソリューションズは、業界標準に一石を投じるキッチン「compact-3 plan」(以下、新プラン)を発表した。
目を付けたのはキッチン間口。住まいの環境が大きく変わる中、キッチンプラン形状のうち圧倒的に人気なI型プランの間口は30年以上2550サイズが主流となってきた。同社においてもI型プランを選択したユーザーの6割超が同サイズを選ぶ。新プランはここを見直し、300ミリコンパクトな2250サイズとした。
「当社の調査では、リフォーム・リノベーションの最重視ポイントは『キッチンの広さ』。一方で、住宅面積はこの10年で10平方㍍狭小化している。新プランは従来から間口を10%縮小しながら、調理スペースも機能も犠牲にしていない。むしろ調理スペースは従来比約1・8倍確保している」(同社担当者、以下同)
コンパクト化と機能性を両立したのが、同社が提唱する「キッチン最新三種の神器」だ。IHクッキングヒーターを横に3つ並べた「フラットワイドコンロ」、幅450ミリの「フロントオープン食洗器」、正方形で3方向からアクセス可能な「ラウンドアクセスシンク」、いずれも既に販売済みの製品だが、組み合わせるのは初。「キッチンに3方向からアクセスできるため、コロナ禍以降増えている調理や片付けに複数人で分担する新たな暮らしのスタイルにも向く」という。
クリナップ、マンションリフォームに照準のシステムバス
マンションリフォームに最適なrakuviaの1418サイズ。天井には梁欠きも(9月16日にリニューアルした千葉ショールームより)
「サニタリー・セカンドステージ」を掲げるクリナップは、昨年20年ぶりに全面刷新したシステムバスルーム「SELEVIA」「rakuvia」のマンションリフォーム提案を強化している。
両ブランドには、システムキッチンで展開してきた「『水回り』はもっと自由にリビングに近づくべき」との考えのもと、リビングのように家族が快適に過ごせる空間づくりを反映。リビング空間との接続を感じられる木目や石目模様を施した加飾天井や加飾フロア、くつろぎ時間を満喫できる浴槽マッサージ機能「ぐるもみジェット」など、理想の暮らしを演出するアイテムをそろえる。
一方、同社のシステムバスの導入障壁となっていた独自仕様も改め、プロユーザーの取り込みも狙う。従来、壁パネルを横に施工するのが同社の特徴であったが業界標準の縦仕様に変更、天井や壁にある梁を避ける「梁欠き」にも対応した。サイズラインナップもマンションで採用の多い1418サイズなどを追加した。
「従来品は戸建て住宅を想定した製品であり、施工も当社が請け負うことがほとんどだった。ブランドが刷新以降、キッチン提案だけで終わってしまっていたマンションリフォーム案件も取り込めるようになり、販売台数は間違いなく増えている。更なる拡販に向け、新規の設置業者の開拓にも力を入れている」(同社担当者)
同社 代表取締役社長の竹内宏氏も「初年度はシステムの不具合や生産のトラブルで遅れていたが、今期に入って成果が少しずつ現れてきている。キッチンメーカーから水回りメーカーへと市場の認識を変革していきたい」と意欲的だ。
ノーリツ、自然冷媒R290のハイブリッド給湯機
後付け対応でリフォームにも
「業界で唯一」という自然冷媒R290を採用したハイブリッド給湯機「HPHB R290」
家庭部門のエネルギー消費量で、最も大きな割合を占める給湯。国は給湯の省エネを進めるために高効率給湯機(ヒートポンプ給湯機、ハイブリッド給湯機など)の新規導入や入れ替えに補助金など施策を打ち出している。ノーリツは省エネによるカーボンニュートラル促進や光熱費の削減だけでなく、自然冷媒採用により、さらに環境に大きく貢献する給湯機を市場投入する。
熱を移動させるために使用する「冷媒」。かつてフロンが使われていたがオゾン層を破壊するため現在は国際的に生産が規制されている。オゾン層を破壊しない代替フロンに置き換えられてきたが、地球温暖化への影響は大きく、今は温暖化への影響が小さい二酸化炭素やアンモニアなどのノンフロンが注目されている。ノーリツは環境負荷が低い自然冷媒R290を採用したハイブリッド給湯機「HPHB R290」を11月4日より順次発売する。R290の地球温暖化係数は0.02で、一般的なエアコンに使われているR32の3万8550分の1と極めて低い。くわえて機能面でも大きな進化を加えた。効率的に湯を沸かす「新スマート制御」機能を搭載しており、「業界トップクラス」という省エネ性もかなえる。家庭ごとに異なる湯の使用パターンを季節や曜日、時間ごとに記憶、蓄積。湯の使い方でヒートポンプの出力を可変し、貯湯温度を45~60℃の間を1℃刻みで制御するなど精度の高い予測ときめ細かい制御で地球環境への影響と暮らしの快適さを大きくアップデート。
■リフォームにもレジリエンスにも
給湯器・ヒートポンプユニット・貯湯ユニットの3点セットで、「既設の対象給湯器にヒートポンプユニットと貯湯ユニットを後づけしてハイブリッド化も可能。狭小地や集合住宅でも使える」とリフォームに向く対応力の高さもアピールポイント。共通化設計で様々なレイアウトも適応する。
対象給湯機には、除菌水を生成する「AQUA OZONE(アクアオゾン)」を用いたオゾン水除菌ユニットを搭載した独自の「W除菌」に対応したモデルもラインナップ。「W除菌」は、ふろ配管を除菌する「オゾン水配管クリーン」と、浴槽内のお湯を除菌する「UV除菌」により、翌日の洗濯に使う残り湯まで清潔に保ち、排水溝のニオイの抑制や、清掃の負担軽減をサポートする。
近年増える自然災害にも、このHPHB R290で安心を備えられる。日本気象協会から提供される警報情報と連携し、あらかじめ登録した警報が住んでいる地域で発令されると自動で65℃の高温沸き上げをスタート。災害前に湯を確保する。手洗いの洗い流しやあたたかい濡れタオルを用意できるなど、もしもの時にこそ「欲しい湯」を用意できる。
タカラスタンダード、ホーロー洗面化粧台の主力モデルチェンジ
アウトベイシンスタイルなど多様化ニーズ受け
新たにラインアップされる「ベッセルボウルカウンター」を生かした、インテリアに馴染む造作スタイルプラン
タカラスタンダードは、洗面化粧台の主力製品であるホーロー洗面化粧台「ファミーユ」をモデルチェンジし8月25日に発売した。カウンターのバリエーションを充実させることで使い勝手と意匠性を向上させ、設置場所など、多様化する洗面スタイルのニーズに対応している。また、触れずにごみが捨てられる排水栓など、新たな機能商品も標準装備された。
近年、洗面化粧台にはよりデザイン性の高さが求められており、ボウル、収納、ミラーなどのパーツを自由に選んで組み合わせる造作の洗面化粧台の需要が増加している。また、設置場所も、玄関や寝室、二階の廊下など多様化。脱衣所とは別に洗面化粧台を設置する「アウトベイシンスタイル」が広がっている。
同社がリフォーム経験者に行ったウェブ調査では、洗面化粧台の購入の決め手となったことへの回答の第一位に「サイズがぴったり(隙間なく)納まること」が選ばれており、設置場所が多様化することで、空間への納まりが重要視されるようになっていることが分かる。
新しい「ファミーユ」は、ホーローの清掃性や耐久性の高さといった特長に加えて、高いデザイン性も兼ね備えた洗面化粧台と同社。「中級価格帯のお求めやすい価格ながら、丸型ミラーや片寄せボウルなど、インテリアテイストやお好みに合わせて、幅広い仕様からお選びいただけます」(同社)とし、さらに新たにマット調の扉や、大理石柄やモザイク柄のミラーパネルをラインアップしており、それぞれを組み合わせることで、造作スタイルの洗面化粧台が実現できる。
(日本物流新聞2025年9月25日号掲載)