東日本大震災、復興の10年とこれから
- 投稿日時
- 2021/03/09 13:46
- 更新日時
- 2021/03/09 13:54
新たな成長軌道を描く東北のものづくり
東日本大震災が発生してから今年の3月11日で10年の時が経つ。巨大地震と津波に、原子力発電所の事故まで加わった未曽有の複合災害は多くの人命を奪い、東北地方の暮らしと産業に大打撃を与えた。
この10年間、東北の産業は国や自治体の復興支援事業と人のつながりに支えられて復興の歩みを大きく前進させている。深刻な人口減少に立ち向かうデジタル化や自動化、新産業創出を目指す挑戦や災害対策など、日本全体が抱える課題解決を先導する動きも目立ってきた。今回の特集「東日本大震災、復興の10年とこれから」では、大災害を乗り越えて力強く再起した東北ものづくり企業の事例、災害対策、ロボットやバッテリー・水素の新産業創出に向けた取り組みなど、東北地方の産業界に息づき始めた新たな活力を描く。
未曽有の複合災害
2011年3月11日14時46分。宮城県沖で日本の観測史上最大規模となるマグニチュード9・0の地震が発生し、太平洋沿岸部を大津波が襲った。人的被害は、警察庁の調べ(20年12月)によると死者1万5899人、行方不明者2527人。さらに津波によって東京電力福島第一原子力発電所が全電源を喪失し、原発事故に発展したことも加わって避難者は4万2000人に及んだ。この震災での被害総額は内閣府推計で16兆9000億円とみられている。
東北地方は自動車や半導体製造装置などの部品、半導体デバイス、電気・電子などを主要産業としており、首都圏への部品・素材の供給拠点の役割を担う。その東北の産業と物流網が震災で一時機能停止し、原発の風評被害まで重なったことで、国内外のサプライチェーン分断が大きな社会問題となった。1ドル70円台の超円高も逆風となり、2011年は生産・調達の海外シフトが進む転換点にもなったと言えよう。
地域と業種で回復に差
あの未曽有の複合災害から今年で10年。東北の産業界は国・自治体の集中的な復興支援と人の輪に支えられて、着々と復興の道を歩んできた。
東北経済産業局が今年2月に発表したレポートによると、「東北地域(宮城・岩手・福島)の製造品出荷額は概ね震災前の水準まで回復している」(図解参照)。ただ、津波被害や原発事故の影響が深刻だった沿岸部に目を向けると、県や市町村別の状況は様々だ。福島県では手厚い立地補助金やロボット関連産業の誘致が奏功し、相馬市、新地町、南相馬市など浜通り地区の回復が著しい。その一方で、津波被害が深刻で漁業・水産業中心の宮城県女川町や気仙沼市、原発避難からの住民帰還と生活再建がまだ道半ばの福島県双葉郡広野町の回復は低調なままだ。
また、経産省の20年度東日本大震災グループ補助金交付先アンケート調査によると東北4県(青森、岩手、宮城、福島)の調査対象企業の直近決算の総売上高は震災直前を22%上回る4兆6544億円だったが、業種別の回復度合いに差が大きいことも分かった。
「震災前の水準以上に回復している(増加・変化なし)」と回答した企業の割合は、インフラ需要に支えられた建設業(70%)が最も高く、製造業も47%と東北4県全体(44%)を上回った一方で、旅館・ホテル業(30%)、水産・食品加工業(31%)、卸小売・サービス業(33%)の回復の遅れが目立つ。
新産業創出への挑戦
東北では少子高齢化が全国に先駆けて進む中で、首都圏への人口流出が続くなど構造的な問題を抱えている。今後は生産年齢人口の減少による労働力不足や消費の縮小が地域経済に影響を及ぼすことが懸念されており、特に福島県は原発事故や風評被害の影響が深刻だ。福島県の調査によると、震災前の9年に比べ、震災後の9年間の人口減少は2倍(約18万人)に加速した。
「複合災害と人口流出。深刻な課題解決の鍵は、新産業創出への挑戦にある」。福島県の内堀雅雄知事は2月25日に開催した企業立地オンラインセミナーでこう表明した。「福島県では再エネ、医療、ロボット、航空宇宙の4つの関連産業を重点分野と設定している。福島ロボットテストフィールドの取組を通じてメイドイン福島のロボットを世界に送り出し、『ロボット産業革命の地ふくしま』を目指したい」(内堀知事)。
岩手県、宮城県でも先端研究開発を「新しい時代を切り拓くプロジェクト」として重要視する。中でも、世界最先端の巨大加速器「国際リニアコライダー」(ILC)と次世代放射光施設の誘致に期待が大きい。世界中から研究者と技術者が集まる先端技術都市を創出し、あらゆる素材の革新、先端産業の集積による産業活性化を導き出そうとしている。
中小向けERP、福島から全国へ
既存の産業の生産性向上に向けては、会津若松市のデジタル化の取組に注目したい。「スマートシティ会津若松」(終面参照)を主導してきたアクセンチュアとICT専門の会津大学、そして会津産業ネットワークフォーラム73社は3年前から中小企業庁と連携し、中小企業の生産性向上をテーマにした研究を進めてきた。
「個別のシステム開発では資金がかさみ、データがスムーズに連携しない。API(アプリケーションをプログラミングするためのインターフェース)の標準化が何より重要だ」。アクセンチュアイノベーションセンター福島のマネージメントディレクターを務める中村彰二朗氏は強調する。
「中小企業は生産現場にもバックオフィスにもプラットフォームが無く、あってもエクセルなど簡易なデータベース止まり。そこで我々は、大手企業並みのERP(基幹系情報システム)を備えた中小向けシェアードモデル開発を業界最大手のSAPに依頼し、中小が規模に応じた価格で使える仕組みを整えた。テスト導入は3月に始まるが、生産性を25%向上できる見込み。標準化することで、中小がIT投資を個別に行う負担が少なく、地元SIERと連携してオペ―レーションコストも抑えられる」(中村氏)。経産省ともこの春から事業連携を進める予定。福島発のデジタル革新ツールを、全国の中小企業に広げる構えだ。