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ウィズコロナ時代の「アジア供給網」再編  〈下〉

投稿日時
2020/11/26 02:23
更新日時
2024/08/19 13:19
台湾では製造業の国内回帰が進んでいる

台湾〜コロナ禍でもGDP成長

10万人超の雇用を創出

台湾では1991年に中国への投資解禁を契機に、同国企業は中国への生産シフトを進めてきた。言語ギャップが無いことに加え、低い人件費や環境規制への緩さもあいまって、台湾企業の域外生産の9割が中国で行われてきた。

しかし2016年以降、台湾独立志向の民主進歩党・蔡英文政権が発足したことに加え、中国の人件費上昇や環境規制の厳格化、さらには米中貿易摩擦を受けて、企業は台湾への生産回帰に転じており、一時は台湾を上回った中国での生産比率は低下傾向にある。

台湾政府は2019年1月、企業の国内回帰をさらに促進するための投資優遇策「歓迎台商回台投資行動方案」(中国で事業を行う台湾企業の台湾への回帰投資を促進するアクションプログラム)を開始した。中国に投資して2年以上経過している、米中摩擦の影響を受けているなど、一定の条件を満たした企業を対象に、台湾での投資に必要となる土地や人材などの斡旋や低利融資などを行っている。

これに対し、iPhoneの受注生産で知られる鴻海科技集団(ホンハイ)や、世界最大手の自転車メーカー、ジャイアント・マニュファクチャリングなど、名だたる台湾企業が国内回帰を始めた。この動きに拍車をかけたのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。国内回帰に対する投資は想定以上に早く進み、今年の5月には累計1兆台湾元(約3.6兆円)を突破した。これにより台湾で創出される雇用機会は8万人余りと見込まれている。

1兆台湾元のうち、昨年の投資実行額は2000億台湾元(約7110億円)だったが、今年は3253億台湾元(約1.1兆円)に達する見込みだ。これは台湾の国内総生産(GDP)19兆台湾元の1.7%に相当し、経済成長を下支えする大きなファクターとなる。

製造業の回帰により台湾国内での雇用増加も見込まれる

海外からの対台投資も増加

加えて、海外からの資金還流にもテコ入れが行われている。昨年8月に台湾財政部は「境外資金回台方案」を実施。これは海外に進出している台湾企業または個人が、台湾に資金を戻すことに対し税制優遇するもの。台湾に送金した資金に対しては、1年目は8%、2年目は10%の優遇税率の適用を受けられる。また、定められた期間内に投資を完了すれば、税の払い戻しを申請することができ、税率も引き下げられる。

台湾財政部の蘇建栄部長は、「1年目の政府目標額は1333億台湾元(約4800億円)だったが、これを大幅に上回る2100台湾元が海外から台湾に送金された。今年3月から5月にかけては、新型コロナウイルス感染の影響で申請はそれほど増加しなかったが、6月以降に大きく増加した。現在、国際的な経済環境が、これまでになかったほど大きく変化している中で、台湾企業が台湾に帰り、台湾に投資し、台湾を拠点にして世界に展開することを願っている。そして、今がその重要な時間の転換点だ」と語っている。

こうした政策ベースでの内需拡大は様々な方面へ好影響を及ぼしている。台湾企業の回帰に従い、外資の対台湾投資も再び活発になっている。今年の第1四半期、海外からの対台湾投資は実行ベースで726億台湾元(約2580億円)に達し、対前年同期比136%増加となった。台湾政府の税収も増えており、2019年度の歳入は前年比2.6%増と過去最高額に達している。また、コロナ禍の本年も1.67%のGDP成長(=グラフ)を見込んでいる。

【グラフ】

コロナ禍において、同国の主要産業のひとつでもある観光業とサービス業は大きな影響を受けている。その一方で、2020上半期の主要品目別輸出(=表)を見ると得意分野である電子・半導体などといった製造業は経済成長を支える一翼となっているのが分かる。テレワークやオンライン授業の増加により、関連する産業は続伸している。しかも国内回帰投資の大部分を占めているのは、ノートPCや半導体、通信分野などの製造業であり、今後の成長にも期待が持てそうだ。

【表】

日台協業や供給網での協力進む

中華経済研究院台湾ASEAN研究中心の徐遵慈主任は、ジェトロ主催の「日台第三国連携セミナー」にて同国における製造移管について語ってくれた。

「米中対立は常態化しつつあり、今後も長期戦になることは間違いない。関税問題は解決しやすいが、テクノロジーや金融における戦いはまだまだ続くだろう。また新型コロナウイルスの感染拡大によって、サプライチェーンを分散する重要性が明らかになり、台湾でも中国以外への投資が加速されている。中国はコスト面でも既に輸出製造業の拠点としては不向きであることは明白である」

また、台湾企業が近年追加した投資重点国家として東南アジアとインドを挙げている。

「製造業はベトナム、カンボジア、ミャンマー、フィリピン、インド。サービス業はシンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア。特に安価な労働力を持つベトナム、十分な工業基礎を持つタイ、賃金の上昇幅が緩やかなフィリピンは特に注目されている。電子業は昨今、インドをサプライチェーンに組み込むトレンドが生まれてきている」

さらに台湾企業と日本企業による協業も増加している。ベトナムでは台湾中国鉄鋼と日本製鉄等が共同出資し中国鋼鉄住金ベトナム合資会社を設立している。また、台湾プラスチック、中国鉄鋼及びJFEスチールが共同投資をしてフォルモサ・ハティン・スチールを設立、第一期の投資金額は128億米ドルに及んでいる。

「ホンダ二輪車の部品サプライヤーは、台湾三陽を筆頭に、7割は在ベトナム台湾企業によって供給されている。今後はインドネシアやフィリピン、ミャンマーなどの台湾サプライヤーから日系自動車メーカーへの部品供給も行われる見通しだ」

中華経済研究院の徐遵慈主任

待機措置緩和、短期出張可能に

さて、アジア各国にビジネスを展開している企業にとってアタマの痛い問題が、渡航制限である。往来の禁止により、オンラインによるビジネスやサービスが活発になってはいるものの、「海外における製造は、現地の詳細な状況を確認しなければなかなか進まないので、オンラインによるフォローには限界がある」(工作機械メーカー海外営業)といった声も多く聞かれる。

一刻も早い「ウィズコロナ下においての往来の自由」の再開が待たれるところではあるが、外務省は10月30日、11月1日から日本在住の日本人および在留資格保持者が、短期出張(隔離要請期間を除く滞在期間が7日以内)から帰国・再入国する際に、一定の条件を満たす場合は、帰国後14日間の待機を緩和する措置の開始を決定している。

アジア大洋州地域では、韓国、シンガポール、タイ、台湾、中国(香港、マカオを含む)、ブルネイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドについて、感染症危険情報を渡航中止勧告に該当するレベル3から、不要不急の渡航を控えるレベル2に引き下げた。これに伴い、一部アジア大洋州地域への必要な出張が実施しやすくなる。

今回レベルが下がったシンガポール、タイなどの感染症危険情報レベル2以下の国・地域からの帰国・再入国に当たっては、渡航先出国前にPCR検査または抗原定量検査を受け、検査証明を取得する必要がある。または、帰国・再入国後に、企業の責任下で医師によるPCR検査または抗原定量検査を受け、陰性の結果が得られるまでは自宅で待機しなければならない。

この措置に関連して、経済産業省は11月2日から短期出張からの帰国・再入国後に検査を受ける場合にも、海外渡航者新型コロナウイルス検査センター(TeCOT=ビジネス渡航者が渡航先国の要求に応じた新型コロナウイルス感染症の陰性検査が可能な医療機関を検索・予約できるサービス=別図)を利用することが可能となるとしている。

【別図】

(2020年11月25日号掲載)

〈了〉