機械工業見本市:MEX金沢2023レビュー
- 投稿日時
- 2023/06/09 15:03
- 更新日時
- 2024/08/19 13:19
原点回帰、新規事業など旗幟鮮明
馳浩・石川県知事(左から4人目)も駆けつけた初日の開会式
「MEX金沢2023(第59回機械工業見本市金沢)」(主催:一般社団法人石川県鉄工機電協会)が5月18日から20日の3日間、石川県産業展示館で開催され3万5638人を動員した。あいにくの雨にもかかわらず昨年の3万2243人を上回った。建設機械市場が好調な半面、都市部への若者の流出、人手不足が重くのしかかる。自動化、省人化へのソリューションが多くみられるのは、各所の展示会と共通するが、地元有力企業からは「原点回帰」「新規事業」「オールマイティー化」など今後の方向性を示唆するような展示が多く見られた。
板金事業者への原点回帰を打ち出したのは澁谷工業だ。2次元ファイバーレーザー加工機 「FALCON-S Model SPF4112」を同展初出品した。板金事業者に広く使われている炭酸レーザー加工機の同WTS4112を更新しやすいよう改良した。リーマンショック後、ファイバーレーザーでの新市場開拓が求められ微細精密分野へ注力していた同社だが、改めて板金事業者に新機種の普及を目指す。
「ハイエンドになりがちなファイバーレーザー加工機だが、町の板金屋さんで使ってもらえる機械を出そう」(担当者・以下同)と開発した。こだわったのは2500㍉角に収まるコンパクト性と経済性。出力2kWのファイバーレーザー発振器を搭載し、軟鋼は板厚12㍉、ステンレスは同6㍉までの切断が可能。炭酸レーザー加工機では切断が難しいアルミは同6㍉、銅は同4㍉までカバーする。
板金事業者は厚いワークを切ることが少ないと考え、レーザーの切幅100ミクロンとし、一定の薄物微細加工を可能とした。
「WTS4112に比べ2割弱価格はあがるが、これまで切れるものは切れる。加えてアルミや銅も切れ、微細の仕事にもチャレンジできる。入替の提案が可能な機種」とした。
澁谷工業の2次元ファイバーレーザー加工機「FALCON-S Model SPF4112」で加工されたワーク
小型旋盤の市場激戦化を受け、有望な新規事業へ自社の技術力を活用するのが高松機械工業だ。自動化技術を活用した「資源ゴミAI自動選別機」を参考出展した。
既存コンベヤの改修なしに設置でき、実証実験値では99.6%の高い認識精度がある。自動学習機能を搭載しAIエンジンがアップデートされる。試作段階だが同展示会で初披露となった。工作機械以外の新規事業として収益の柱に育てたい考え。
特に飲用ビンは、色ごとに分別しなければ資源化しにくく、人手に頼っているところに目を付けた。ごみ処理施設だけでなくテーマパークやコンビニなどをターゲットにする。
「石川県のPFUのスキャン技術と当社の工作機械で培ったローダーやロボットなどの自動化ノウハウを用いて資源とゴミに分別する。課題はあるが1分間に80本選別できる」とした。発売は来年以降になりそうだ。
高松機械工業が自社の自動化技術を駆使した「資源ゴミAI自動選別機」。新規事業としての伸長を目指す。
中村留精密工業はギア加工も可能な「オールマイティー」性を持つ、高剛性ATC型複合加工機「JX-200」や複合精密CNC旋盤「SC-200Ⅱ」をアピールする。
「JX-200」はクランプ部品の形状変更と組み合わせ方を工夫し世界最小クラスを実現した工具主軸「NT Smart Cube」を搭載し、加工エリアを無駄なく広く使うことが可能だ。
担当者は「ATC型複合加工機は特に中部地区でニーズが増えている。リーマンショックやコロナなど変動要因を経験し大規模なラインを最初から設備することに慎重になっている。多少サイクルタイムがかかってもオールマイティーに削れる複合機が求められる。JX-200はギア加工も可能なのでEVの試作などでも活用できる」と話す。
「SC-200Ⅱ」は振りや加工径アップを実現し、8インチクラスサイズで10インチクラスの加工を可能にした。旧機種と併売中だが、入れ替えが済めば大きな出荷が見込める。
中村留精密工業「SC-200Ⅱ」の説明をする中村匠吾社長。人だかりができていた。
北陸市場へ狙いを定め
北陸市場の強化や魚津工場(富山県魚津市、超硬エンドミルインサートを生産)をもち、北陸と縁があることで同展に初めて出展したMOLDINOは、側面切削用エンドミル「ER5HS-PN」(今年1月発売、刃径6〜20㍉の12アイテム)を紹介。5枚刃の不等分割形状で、ヘリカルで加工対象物に切込んだ後、実に効率のよい側面切削ができる。「トロコイド加工に近い。従来の等高線のパスと大きく異なり刃をいっぱいに使って荒加工ができ、穴加工もできる。似た工具はあるがおそらく唯一の製品」と言う。
MOLDINOの側面切削用エンドミル「ER5HS-PN」(右)1本で荒加工したS50C
コンパクトな自動化の設備が求められる建設機械市場に狙いを定めたのがオークマだ。ベストセラー機「LB3000」に、次世代ロボットシステム「ARMROID(アームロイド)」を装備して展示。同ロボットは加工室内に、多関節ロボットを干渉無くビルトインしたもの。「コンパクトに自動化できるのはもちろん、数がないものや単品の場合だと同ロボットを横にずらして手付の装置としても使える。超量産には向かないが、1000個以下など比較的数が少ないものには優位性があり、北陸地方の建機関連の事業者にアピールしたい」と意気込む。
牽引車「ひっぱるぞう」の、繊維産業への普及を目指すのが京町産業車輛だ。「1.5㌧以下の牽引車両は激戦区だが、オプション対応などで差別化をしている。安全面を考慮してパトランプを装備したり、タイヤの材質をユーザーに合わせて変えるなど柔軟な対応が可能だ。東京や大阪でのデモの機会は多いが、北陸のユーザーに見ていただく貴重な機会と捉えている。北陸の繊維業界などに導入していきたい」と話した。
自動化、省人化は百花繚乱
ヤマザキマザックはCNC旋盤「QTE-100 SG」に安全柵が必要ない協働ロボット「EZ LOADER 10」を組み合わせた自動化ソリューションを実演。ロボットと工作機械との接続はケーブルをつなぐだけ。位置補正はビジョンセンサーが自動で行うためすぐに設置できるのが強みだ。「どちらも当社が作っているので、何かトラブルがあった時、工作機械側かロボット側かどっちが原因かわからず対処に時間がかかるようなことが防げる」とアピールする。「北陸の市場では、CNC旋盤を使っていたユーザーが人手不足の深刻化で協働ロボットなどによる自動化、省人化を検討し始めている印象だ」としてニーズの掘り起こしを目指す。
ヤマザキマザックCNC旋盤「QTE-100 SG」に協働ロボット「EZ LOADER 10」を組み合わせた自動化ソリューションを展開
鉄鋼商社の「KINTA」は、各種加工の請負事業を訴求すべく「そうや、金太に聞いてみよ!!」とのキャッチ—なフレーズでアピール。ほかにも好調な県内の建機需要と深刻化する人手不足に対応するため工作機械、工具、ロボット、VRシステムなどのメーカーを集め、ユーザーに提案していた。
THKは製造業向けIoTサービス「OMNIedge(オムニエッジ)」とそのプライベートクラウド対応を紹介した。現場で稼働している装置の機械要素部品にセンサーを後付けして部品の状態を数値化し、予兆検知するサービス。対応部品はLMガイド、ボールねじ、アクチュエータなどの直動部品をはじめ、モーター、ポンプなどの回転部品。「LMガイドは耐久性があるが、無数の金属ボールが常に接触するため20年、30年使うと摩耗する。摩耗により生じる振動や音をセンサーが感知する」と言う。現在の利用者はOMNIedge全体で約500ユーザーに広がった。同社ウェブサイトからユーザー名(一部)が確認できる。
サンドビックは「サイレントツールプラス」をアピール。防振工具内部にセンサーを内蔵し加工中の工具のビビリの有無などをタブレットでリアルタイムにモニタリングする。
「研削用のボーリングバーで、筒状の加工をするとき刃先がワークに当たるとビビリが発生する。当社では錘が刃先の動きと逆位相に動いて制振するサイレントツールというロングセラーがある。それにセンサーを内蔵して『見える化』した。目視できない面粗度を想定できるので、ぎりぎりまで加工速度をあげられる」とした。航空機産業などで導入が進む。
ZOLLER Japanは継続的に提案しているツールプリセッタ—を深耕していた。「最初の設定さえすれば自動測定が可能で、誰でも精度よく測定できる。手作業では熟練度などで差が出てしまう」とした。自動測定でも差が生じることがあるが同社はエンジニアがユーザーを定期的に訪問し専用のゲージなどで校正作業をすることで「誰がいつ何回やっても同じ、という精度保証をする」と力を込めた。建機や農機具なども以前より精度が求められてきており同展示会で北陸市場への訴求を狙う。
その他の有力ブースにも、注目が集まっていた。ニデックマシンツールとニデックオーケーケーは並んで出展。「2社の住み分けができているのでユーザーに合わせて提案できるのでメリットがある」とした。
ニデックマシンツールは高能率ホブ盤「GE25HS」を訴求した。「最大の特徴は従来機に比べ倍近い高トルクのモーターを積んでおり、能率よく加工できる。主軸のスピードも標準機より早いので切削力をあげることができる」と話す。デフリングをはじめとした自動車用歯車の量産加工に適する。ニデックオーケーケーは立形マシニングセンタ「VM53RⅡ」を訴求。前機種より主軸の距離が近く、コラムが太くなり剛性が上がった。「ゴリゴリ削れるイメージが先行するが、それだけではなく早く薄く削ったり仕上げもできることを実演をしている」とした。
タケダ機械は形鋼の全自動プレスマシンのコンセプトモデル「UWF-150ⅢW」を参考出展。発売は来年秋ごろになりそうだ。
特にこだわったのはデザイン性。「一昔前、デザイン性は二の次だったか今は差別化ポイント」としフラットですっきりした外観にブルーとホワイトのカラーリングを施した。従来モデルでは加工機の側面などに露出していた油圧ホースや電気配線を新たに追加したカバー内に収める。意匠性だけでなく作業者の接触や足をとられての転倒などを防ぎ、安全性が向上する。
タケダ機械の形鋼全自動プレスマシンコンセプトモデル「UWF-150ⅢW」はデザイン性にこだわった
白山機工はさまざまな種類のチップコンベヤの特徴をミニチュア模型でわかりやすく展示していた。同社は、多くの加工や切りくずに対応できるラインアップと、ユーザーの事情に合わせてカスタマイズできる受注生産体制を特徴とする。「環境意識が高まる中、単に切削油と切りくずを運んで捨てるだけではなく、切りくずも油の処理も同時に行えるドラムフィルター内蔵型への注目が高まっている」としたほか、「出てくる切りくずも時代ごとにちがう。最近は、より細かくなり、また油に浮くアルミなども増えており、そういったニーズにも対応する」と話した。
コマツNTCはワークを「宙づり」状態で加工できる5軸横形マシニングセンタ「ComPlex 5400」(2021年発売)を映像で紹介していた。片持ちのテーブル(A、B軸)だが、ぐるっと180度旋回させて切粉が真下に落ちる格好で削れる。売行きは「ぼちぼち」だそうで、標準で2面のAPCを10面に拡張してフレキシブルな生産システムを構築できるという。
宙づり状態で加工するコマツNTCの5軸横形マシニングセンタ「ComPlex 5400」
受託加工のHILLTOPはブラザー工業のU500Xd1と松浦機械製作所のMAM72-35Vを新規に自社工場に導入。102パレット分のキャパシティが増えたことにより「当社は1個、2個の多品種単品生産を特徴にしているが、今回の設備増強で50個程度の量産も可能となった。既存のお客さまでも量産の希望があり、新規の獲得と既存の深耕営業を行っていく」とした。
オーエスジーは各種切削工具類「Aブランドシリーズ」を展示。「フラッグシップでありタップ、ドリル、エンドミルなどを揃え汎用的にユーザーに使っていただいている。母材から、加工、コーティングまでグループ会社を含めた一貫生産をしており、それぞれに最も適した母材やコーティング、加工方法などをチョイスできる強みがある」とした。
ソディックはリニア4軸のエントリーモデルのワイヤ放電加工機「VN400Q」と3Dプリンター「LPM325S」を出品。LPM325Sはスピンドルをもたず仕上げ加工まではできないが、「昨年は月間で前のモデル『LPM325』の2倍以上売れた」。粉末材料をカートリッジ式にした「325S」はアルミやステンレスなど多様な材料を1台のマシンで扱えるようにしたほか、レーザー発振器を2台搭載して制御を改良したことで造形速度を従来の2倍以上にしたことが人気の要因という。
MEX金沢/MINIインタビュー Vol.1
エンシュウ 常務執行役員 営業本部長 加藤 猛 氏
5万回転仕様などオプション多い15番MC
毎分5万回転主軸を搭載して出品した立形「SV130」を紹介する加藤猛常務執行役員
――今回ご出展の最大の狙いは。
「MEX金沢には2016年より出展し続けています。北陸地方は、鋳物の1点ものの加工あるいは少量多種生産をされているお客様が多い地域ですが、アルミ、銅、プラスチックなどの軽切削をされるお客様、高い加工精度を求められる方が一定数いらっしゃいます。そこで主軸15番のマシニングセンタ(MC)を展示しました」
――昨秋のJIMTOFでも紹介されたこちらの立形MCですね。特長は。
「エネルギー・コスト・スペースを抑えた、当社のSaving Centerシリーズに位置づける『SV130』です。小さい(幅1140×奥行き2000×高さ1980㍉)わりにストロークは広い。標準は3軸制御仕様ですが、同時5軸仕様にもなります。ほかにも15番機には珍しいオプションを多く用意しており、スケールによる位置決めでボールねじの熱膨張の影響の抑制、小径加工・微細加工に適した毎分5万回転主軸(標準は2万回転)、2APC仕様、といった具合です」
――30番MCが高機能化していますが、15番も同様ですね。
「30番ではオーバースペックだというお客様もいらっしゃいますから、そこがターゲットになります」
――売れ行きは。
「15番に馴染みのないお客様が多く、まだまだこれからです。ただ、こうやって展示会でお見せすると興味をもって見ていただけます。本機は当社ショールームに設置し、30番機で扱うワークが15番でできるのかをテストできますから、ぜひお越しいただきたいです」
2枚刃ロングネックラジアスエンドミルを使ってSV130で削り出した銅合金
MEX金沢/MINIインタビュー Vol.2
アルプスツール 取締役 管理部長兼営業部長 福沢 清隆 氏
5種類の高精度コレットを提案
福沢清隆・管理部長兼営業部長
「機械関連では北陸で最大規模の展示会であり、当社主力のお客様である北陸の旋盤メーカー様、複合加工機メーカー様との情報交換の場にもなっています。従いまして、MEX金沢には毎年参加しています。以前は1小間での出展ということもありましたが、昨年、今年は2小間に拡大しました」
「ツーリングをメインに展示させていただいていますが(バーフィーダーは映像で紹介)、30年近く前に製品化した高精度の『ARコレット』の拡販を進めています。高付加価値製品をつくっていただくのに適し、刃物をくわえたときの触れ精度が3ミクロン以下の『対応等級AAA級』も用意しています」
「高精度はもちろんですが、バリエーションが多いのも特長です。『標準型』のほか、クーラント液をオイルホール対応のドリルの先端から供給する『OH型』、ドリルの脇からクーラント液を射出する『C型』など計5種類を用意しています」
「リピート客が中心でコンスタントに注文をいただいており、今は特需のあったピーク時の7〜8割の水準でしょうか。課題は新規開拓。クーラントが漏れて初めて当社に相談に来られるお客様もいらっしゃいます。バーフィーダーのお客様にもARコレットを提案できるよう、分かれていた営業部を3年ほど前に1つに統合しました。バーフィーダーとツールを一体的にお薦めできるような営業活動に取り組んでいきます」
5種類で計31アイテムで構成するARコレット
MEX金沢/MINIインタビュー Vol.3
石川県鉄工機電協会 稲葉 良二 専務理事
人手不足による二極化懸念
石川県鉄工機電協会の稲葉良二専務理事に話を伺うと、建設機材の市場好調を受け、ますます人手不足が深刻化しているという。同協会は二極化解消にあの手この手を打ち、一定の成果を出している。
――新型コロナが5類感染症に移行しての開催だが。
稲葉 昨年は3年ぶりの開催となり、手ごたえがあった。通常ベースに戻して11月に募集をかけたところ2日間でコマが埋まった。3年前から、県に要望し新たな産業展示館が建設される。1〜3号館を解体して大きな展示場を建設し稼動間仕切りを設け便利なものを作る。年末までに概要が決まるだろう。
――建設機械など市場環境は。
稲葉 現在非常に好調だ。すそ野まで、エネルギー価格高騰などのコスト増も取引価格に比較的転嫁できている。自動車産業ほどの量産化設備は必要ないが、コンパクトなラインへの投資が活発だ。
――今回の展示会の狙いは。
稲葉 人手不足対策を強化した。石川県の有効求人倍率は1・6倍以上で特に製造業は人が集まらない。製造業では同2倍を超えている。通常の当展示会は3、4号館のみだが今回は1号館を使って管理部門のデジタル化、ロボット導入への提案などを行う展示会を併催した。少しでも人手不足対策になってほしい。県も補助金などでロボット化、DX化を支援している。
――会員企業へのロボットなどの導入状況は。
稲葉 残念ながら二極化している。夜中も無人で動いているような工場もある一方、なかなか自動化などに踏み切れない企業もある。二極化を緩和していかないといけない。上級、中級、初級などに分け商談会を行い相談や導入のハードルを下げるなど工夫している。徐々に効果は出てきている。
――人材不足は。
稲葉 特に高校生が来てくれない。資金力があるところは地元のテレビにCMを打って企業イメージをアップさせ人も集まっているがそういうところばかりではない。そこで当展示会で、学生特別企画として特別企画参加企業ブースへの訪問で、2社で500円、4社で2000円のお食事券をプレゼントしている。関東、関西に行った人を呼び戻すのは難しい。今は富山県でのPRに力を入れている。今時、油まみれ煤まみれの工場などまずないが、親御さんは昔の3Kのイメージを持っている。展示会に来てもらうだけでもずいぶんイメージが変わる。
(2023年6月10日号掲載)