EVや半導体ニーズに応える切削工具
- 投稿日時
- 2022/09/26 14:43
- 更新日時
- 2024/08/19 13:19
四輪に二輪、フォークリフトも電動化
切削工具は最も重要な生産財の1つと言われる。費用対効果が抜群に高いからだ。加工機ほどの大きな投資を必要としないものの、加工対象物に直に触れる刃物の性能は生産効率を大きく左右する。EV(電気自動車)シフトへの対応や直彫り、長時間の高品質加工などを志向した製品をメーカー各社が充実させている。デジタルや環境問題への取組みにも力が入る。
引き算の加工法である切削加工の宿命といえるのが切り屑だ。これが多く排出されればされるほど歩留まりは悪くなり、環境によくない。足し算の加工法であるAM(Additive Manufacturing=積層造形加工)や放電・レーザー加工に一部置き換わる動きもあるが、やはり切削は今後も必要な加工であり続けるだろう。加工精度とスピード、多品種少量生産への対応、ワーク材質への悪影響の少なさといった点で利点があるからだ。
切削工具の生産額は月間350億円強を維持し堅調に推移している。昨年7~12月の半年間の累計額は2125億7500万円で前年同期に比べると38・0%も増えた。今年1~6月の累計額は同11.6%増の2212億5000万円と、さすがに伸び率は鈍化したが2ケタ成長を維持する(日本機械工具工業会の会員統計)。
「微細・精密」に照準
小径・微細・精密やそれに伴う直彫りが切削のキーワードのようだ。本紙が今春、切削工具メーカー10社にヒアリングしたところ、各社のいち押し製品は旋削用材種やリーマ、エンドミルなどに分かれるが、ターゲット分野として「微細・精密」を多くのメーカーが挙げた(オーエスジー、ムラキ、京セラ、MOLDINO、日進工具)。EV・FCV(燃料電池車)化や半導体・電機・医療分野でのニーズに応えるためだ。これに伴い高硬度材(岡﨑精工、京セラ、日進工具はHRC60~70対応製品を推す)、直彫り(オーエスジー)にも照準を合わせる。またEV化に伴う部品軽量化を目的にアルミ合金加工に力を入れるメーカーも少なくない(サンドビック、ワルター)。
環境性能が厳しく問われる自動車は、航続距離を伸ばすため軽量化が欠かせない。大容量バッテリーを載せようとするとバッテリーそのものだけでなく、周辺部品もより小さく軽くする必要がある。
これは四輪車に限った話ではない。二輪車も電動化への動きを加速させている。世界の二輪車販売台数約5千万台のおよそ3割を占め、シェア首位のホンダは9月13日、二輪車の新車販売に占めるEVの割合を2030年に15%に引き上げる方針を明らかにした。ヤマハ発動機は世界で売る二輪車に占める電動車を35年に20%にし、川崎重工業は日欧米などで販売する主要車種をEVかハイブリッド車に切り替えるとしている。
9月16日まで東京で開かれた国際物流総合展では次世代フォークリフトも見られた。豊田自動織機は2時間弱で急速充電できるリチウムイオンバッテリーを積んだフォークリフトを示す一方、燃料電池フォークリフトの第2世代を近く上市する意向を示した。
豊田自動織機が実演した電動フォークリフト。自動運転でトラックからパレットを運び出す(9月14日、国際物流総合展)
PVDコートやセンタークーラント
微細・精密加工領域をターゲット分野とする切削工具メーカー各社の製品を見てみる。京セラにはこの分野で同社第1弾製品として昨秋発売したソリッドボールエンドミル「2KMB」がある。培ったPVDコーティング技術とユニークな形状を組み合わせたもので、「半導体需要の増加や電子部品の小型化、燃料電池車に必要な燃料セパレータなど、これまで以上に精密な金型加工(高硬度材)が必要になってきている」とする。2KMBは調質鋼から70HRCの焼入れ鋼までに対応し、微細加工で長寿命・安定加工の両立を可能にするという。
京セラのソリッドボールエンドミル「2KMB」
ムラキは小径エンドミルによる超高速加工を狙う。自動車や医療分野と決めてかかるわけでなく、装置系部品などあらゆる産業の付加価値の高い細かい加工がターゲットだ。DIXI COOL(クーラント)と小径エンドミル(2枚刃と3枚刃)を組み合わせ、センタースルークーラントにより、切屑の排出能力向上と刃先冷却をともに成り立たせる。ステンレス、チタン合金の壁面加工でap(切込み深さ)=2D、ae(切込み幅)=0・9Dを実現し、溝切削においてもap=2Dを達成(刃径0.8㍉以上で)。「周速100㍍/分以上の加工が可能で、短時間で高い除去量のミーリング加工を実現する。高速主軸、センタースルークーラントを搭載したMCでの生産性向上に大きく貢献する」という自信の逸品だ。
ムラキはDIXI COOL(クーラント)と小径エンドミルを組み合わ組み合わせる(写真は刃先がクーラントに隠れている)
首太の小径ボールエンドミル
オーエスジーはこれまで注力してきた自動車産業、航空機産業に加え、EVや成長が見込まれるエネルギー・医療分野に力を注ぐ。仕上げ用2枚刃ロングネックボールタイプ「AE-LNBD-H」は金型・部品加工で求められる高精度・短納期ニーズに応えるほか、需要の高まる高硬度鋼の直彫りにも応える。ボール中心部を厚くすることでボール先端のつぶれやチッピングを抑制し、「60HRCを超える高硬度鋼加工において工具の長寿命化を実現。安定した加工を可能にする」と言う。
オーエスジーの2枚刃ロングネックボールタイプ「AE-LNBD-H」
日進工具の小径3枚刃ロングネックボールエンドミル「MRBSH330」は60HRC以上の高硬度鋼をメインターゲットとし、高送りはもちろんのこと中心刃形状の最適化により高切込みも可能にした。同社はモビリティにおけるCASE(Connectedつながる、Autonomous自律走行、Shared共有、Electric電動)や通信システムの5G対応が加速していることを受け、「金型は高精度・高硬度・高靭性化などが進んでおり、切削工具においても高精度化や長寿命化の要求が高まっている」と見る。
日進工具の小径3枚刃ロングネックボールエンドミル「MRBSH330」
MOLDINOがラインナップの拡充を図るのは高硬度鋼の切削に適するボールエンドミル「TH3シリーズ」。このシリーズで半導体部品・ライトガイド・コネクターなどの精密金型の加工や文字削り向けの「EPDBEH︱H3ストロングネックタイプ」は、がっしりした首をもち、折損のリスクが低い。「高い工具剛性により安定性・信頼性や加工精度が向上する。特に工具径が小さくなるほど効果的」と訴える。
MOLDINOがラインナップの拡充を図るのは高硬度鋼の切削に適するボールエンドミル「TH3シリーズ」
(2022年9月25日号掲載)