【JIMTOF】過去10年の変遷
- 投稿日時
- 2022/10/24 13:10
- 更新日時
- 2024/08/19 13:17
昨日、今日、そしてミライへ
日本国際工作機械見本市「JIMTOF」の過去10年・5回の内容を振り返り、会場で話題を集めた技術や出展トレンドを改めてクローズアップしてみた。昨今の技術は「非連続の進化」などといわれ、一足飛びに進化発展した新技術が、否応無く古い技術を駆逐するケースも見られる。しかし、それでもよく目を凝らすと、連続的な進化が今日を、そして明日を生んでいる側面が多くあることに気づくだろう。
JIMTOFで過去から発表されてきた話題の技術、またトレンドの変遷がどう未来につながっていくのか。明日を想像しながら読んでいただければ幸いである(本紙編集部)。
2012年:匠の技と先端技術の融合
キサゲ職人の手をモチーフにしだポスターデザインが印象的だった。JIMTOF初開催からちょうど50年目の節目の開催となったJIMTOF2012は、統一テーマとして「匠の技と先端技術の融合」を掲げた。人の技術は今も大事ではあるが、このJIMTOF2012を境に、匠の技よりも次世代技術を指向するようになったと今になって分かる。「融合」は時代を超えたキーワードだが、今は匠の技と先端技術の融合ということより、技術とデジタルの融合、リアルとヴァーチャルの融合(デジタルツイン)に軸足が置かれ、DXによるモノづくり改革、AIを絡めた高度自動化などへと歩みを進めている。
この年のJIMTOFについて主催(一社)日本工作機械工業会は「最近の約10年のトレンドである多軸・複合化における技術の進化がひとつの見どころ」としていた。
5軸加工機で避けられない幾何誤差の計測補正技術がオークマから披露されたほか、多軸化による累積誤差をミニマム化する技術が多く見られた。また5軸MCにレーザー加工機能を付加したタイプが登場したのもJIMTOF2012の頃。DMG森精機のブースでは5軸切削+レーザー加工の実演に人垣ができていた。
他方、比較的安価なアジア向け戦略機種がこのJIMTOF2012で多く出展された。中国・アジア市場の開拓をめぐるワールドワイドな競争の激化が背景にあった。
工作機械はデザイン面でも本格的に強化されだした。著名な工業デザイナーを起用し「カッコよさとワークへの接近性など作業性のよさを同時に追求した」(ヤマザキマザック)という、ニューデザインのマシンが会場に彩りを与えた。ツーリングなど周辺機器のデザインも洗練されてきた感があった。
この年のJIMTOFについて、工作機械に詳しい工学系の某教授は「やや革新性欠けるが、新機能や見どころが多く発展の余地を感じさせた」とコメントしていた。
2014年:ものづくりDNAを 未来へ、世界へ
「日本の技術を世界に伝えよう」という開会式の挨拶どおり、世界市場を意識した出品物が増えた。外国からの来場者がはじめて1万人を突破したのも今展だった。前回展でもみられた「アジア戦略機」は自動盤から40番のマシニングなどまで数多く出品。また30番機やデスクトップ型の超小型MC、超小型研削盤、小型サーボプレス機など、ダウンサイジングを大胆にはかったマシンも多く見られたが、ここにも「アジア市場意識」がチラついた。
新規性の強い技術が数多く揃ったのもJIMTOF2014だった。
三菱電機が10年ぶりの大リニューアルというCNC装置を発表したほか、工作機械大手はこぞって新CNCやオペレーションシステムをブースの目立つ位置に展示した。スマホ感覚の操作性をアピールするメーカーも今JIMTOFの頃から増えた。要するにソフト系の進化が目についた。
いやソフトだけでなく、ハード技術も含め見どころは多彩にあった。ファナックが展示した協働ロボットをはじめ、ロボットと工作機械の動作を同期化した自動化システムなどが多数出展。モノづくりの見える化やフロントローディングを引き寄せる「知能化技術」も前述の新型CNCなどに絡んで出展テーマになった。
第3の加工といわれたAM(付加製造)関連の出品物も、先行した松浦機械製作所に続き、今展でグッと増え、なかにはMC+旋削+AMを実現したマシンもあった。またスカイビング加工や非接触測定における大幅なスピードアップ、自動監視装置、遠隔でのメンテナンスや故障診断などで新提案があった。切削工具では超硬、チタン、そしてCFRPと難削材に対応した工具が多く展示された。
2016年:ここから未来が動き出す
開催前の記者会見で「エポックメーキングなJIMTOFになりそう」(日工会専務理事)とのコメントがあった。竣工したばかりの東京ビッグサイト東新展示棟を加えて展示スペースを過去最大にし、出展者数も当時として過去最高の969を数えた。
展示内容も、前回展で注目された「知能化技術」の一段の進化が披露され、IoTやAMに関する展示物などスマートファクトリー実現に向けた取り組みが多く見られた。確かにエポックメーキングである。
特にドイツ発のインダストリー4.0(第4次産業革命)が世界で注目されるなか、今JIMTOFにおいてもIoTを活用したモノづくり変革が多様に提案された。オープンプラットフォームに注目が集まり「つながる機能、つながる工場」に関心が向かった。
展示機械では「AM、焼入れ、研削、スカイビング」を1台でこなし、オープンネットワークともつながって工程改革に資するマシン(オークマ)が見られた。このように複合化の流れは一層高度な成果を生んだが、「プロダクトアウト的で現実のニーズに沿うのかどうか」の声も上がっていた。またAIの活用も(AIのレベルはまちまちとの評があったが)進んだ。ディープラーニング機能により、不具合を自動で診断するといった試みなどがそうだ。
面粗さでシングルナノ(Ra)を目指す微細加工機にも注目が集まった。最新の温度調整・温度補正機能、機上計測システムなどで精度を追い込んでいくが、なにより機械精度(ハード)の進化の可能性を具現化したことに期待と賞賛が集まった。
2018年:未来へつなぐ技術の大樹
2018年といえば、工作機械の年間総受注額で最高(暦年1兆8157億円)を記録した年。この年11月1日から開催のJIMTOF2018も史上最大規模となり、来場者も15・3万人と過去最高を更新した。
「ものづくりと情報の融合が一段とかつ急速に進展している」―開会に当ってそう述べたのは日工会の飯村幸生会長(当時)。
IoTプラットフォーム上の「つながり」を介し、時代に即した見える化システムのソリューションが多彩に提案された。政府が提唱する「コネクテッドインダストリーズ」を具現化する方向で技術の競演が見られた。
また知能化やAIに絡んでは「AIが加工条件を分析」「完全自律型の自動加工へ」などと一歩進んだ提案がなされた。
AMは大型化や薄膜化が進み、守備範囲をぐんと拡げた感。高速肉盛りなど、いますぐ使えそうなAM提案も数多くあった。
他方、切削工具では低抵抗を実現した多刃カッター、多刃ドリルなどが目についた。高送り・低負荷で切削効率を大幅に高めたものが多く、「送り量は従来条件の約6倍」としたメーカーもあった。
2020年:初のオンライン開催、DXや5Gに関心
コロナ感染症の影響で初のWEB開催に。AIや5G、量子コンピュータなどをテーマにした識者によるオンラインセミナーを連日用意したほか、学生とのオンライン交流会なども実施。
出展者数は前回1085社から395社へぐんと減ったが、DX、自動化、5軸複合加工に関する提案は盛んだったよう。
とりわけDX(デジタルトランスフォーメーション)については、18年に経済産業省がそのガイドラインをまとめるなど旗振り役となって以降、急速に関心を広げており、JIMTOFオンライン開催前後には「顧客のDX化がもの凄いスピードで進んでいる」(大手工作機械首脳)などのコメントが多く聞かれた。
またDXや5Gに絡んで、生産財メーカーが異業種大手とコラボを組む例も目立った。
NTTコミュニケーションズや日立製作所といった通信・電機メーカーの名はJIMTOFオンラインでも目についた。
他方、動画配信ではロボットと工作機械の親和性を強調したものが多かったのではないか。「ティーチングに不慣れな方でもロボットを使った長時間自動加工をコントロールできます」といったものがそう。
同様、熟練ワザを再現させるためのAI活用等も多く提唱された。段取りをはじめプログラム作成が、AIやソフトの支援により誰でも出来る作業に変わるという。
(2022年10月25日号掲載)