ロボットの敷居が少し低い未来へ
- 投稿日時
- 2022/01/12 13:00
- 更新日時
- 2022/01/12 13:15
モーターの動作をアプリで自在に操作
Keigan(京都府相楽郡精華町)
「自分の手でロボットを作りたい」。そう思う人は多いだろうが、複雑なプログラミングなどの要素が壁となり、その思いが実行に移されることは稀だろう。しかし動作の要となるモーターの動きを、アプリで直感的かつ自由に設定できるならば話は別。「これなら自分にもできる」と感じる人は多いのではないか。
ロボット製作を誰でも・素早く・簡単に――京都府相楽郡精華町に本社を置くKeiganは、モーターモジュール「KeiganMotor(ケイガンモーター)」を通じて、そんな未来の創造を目指すスタートアップ企業だ。大手電機メーカーでコピー機のハード設計をしていた徳田貴司社長が起業を決意したのは2011年。13年には電機メーカーを退職し、専門外だったプログラミングを独学で研究。防災アプリなどのソフト開発を経て、15年にはケイガンモーターの原型となるプロトタイプを完成させた。
KeiganMotor
「モーターはこれまで、『機能が決まっているもの』と認識されてきました」と徳田社長は言う。「しかしケイガンモーターの場合、例えば『モーターAは右車輪・モーターBは左車輪』というように、アプリで動作を割り当てることでその機能を担えるようになります。従来のモーターとは一線を画すレベルで簡単に動作のプログラミングができるんです」。
同製品の中身はエンコーダーを内蔵したブラシレスモーターだ。ここまでは一般的な産業用モーターと同じだが、面白いのは専用アプリを入れたスマホやタブレット端末から、ケイガンモーターに対して動作のコマンドを送れるという点。コマンドは誰でも直感的に操作できる簡単な仕様になっており、こうして設定した細かな動作をアプリに保存して任意の順番で呼び出し、モーターに動きを組み込むことが可能だ。
アプリを使わずケイガンモーターを手で動かし、動作をティーチングすることもできる。複数台のケイガンモーターの動きを無線で同期させることもでき、使い方はまさに無限大だ。
使用電圧5Vとスマホのバッテリー程度で駆動できる手軽さも受けが良く、ラピットプロトタイピングが求められる開発現場など様々な業界へ裾野を拡大。最近では自動車メーカーの生産工場などでの導入も増え、「現場で使うコンベヤやAGV、多軸ロボなどを自作されるユーザーが多い」とFA用途も開拓している。こうした需要に応える形で、ケイガンモーターを用いて簡単に搬送システムを構築できる「AGVキット」や「搬送ローラーキット」など、用途別の自動化キットの提供も開始する予定という。
■AMRで攻勢
そんな同社は21年7月、『台数限定』で自動搬送ロボット「KeiganALI(ケイガンアリ)」を発売して注目を集めた。上述のケイガンモーターを用いたAGVキットがビニルテープなどの上を走るライントレース式なのに対し、ケイガンアリは作成した地図情報をもとに自律走行可能なAMR(Autonomous Mobile Robot)。徳田社長は「ケイガンモーターはロボットを素早く『つくる』ことにフォーカスした製品ですが、ケイガンアリはロボットを素早く『つかう』ことを重視した製品です」とその狙いを語る。
箱から出してすぐに使える手軽さが売りのKeiganALI
本体は450㍉×450㍉×300㍉と小型。最大30㌔グラムまで搬送でき、運動エネルギーは最大20J程度と他社製AMRに比べ安全性が高い。地図作成と位置測位を同時に行うことで自律走行する「SLAM方式」とライントレース方式を用途に応じて使い分けでき、ユーザーによる比較検証の結果、他社製のAMRと比べ自己位置をロストしにくい仕様となっているのが特長だ。
AMRを使う上で課題となる地図作製も簡単で、徳田社長は「毎日やっても苦にならない」と太鼓判を押す。取材時にもケイガンアリを使った地図作成を行ってもらったが、50平方㍍程度のスペースに対し作業時間はわずか2分程度。「例えばレイアウト変更の際、その都度SIerを呼ぶのではなく現場で対応できるシステムを目指しました。そうすることではじめて本当の意味での省人化が果たせると考えています」という徳田社長の言葉を体現した使いやすいAMRに仕上がっている。
AGVやAMRは中国や欧州など海外メーカーが先行する市場。開拓は容易ではないが、徳田社長は「品質やカスタムのしやすさが差別化の糸口になるのでは」と展望する。「業界を見渡しても、ドキュメントやソースの公開などの要素も含めシステム構築の難易度が高いものが多い。ケイガンアリはその点を整備し、使いやすさと『作りやすさ』の両立を目指します」と話す。
気になる価格も制御込みで100万円台前半からと競争力があるケイガンアリ。「22年からは本格的な販売をスタートする」といい、国産AMRの巻き返しに期待がかかる。
株式会社Keigan
2016年設立、社員7人
大手電機メーカーで機械設計を手掛けていた徳田貴司社長が2016年に設立。徳田社長は2014年に総務省主催の「異能vation」に認定されており、助成を受ける中でモーターモジュール「KeiganMotor」の原型を開発した。社名の由来は「慧眼」から。アプリで後天的に機能を付与できるKeiganMotorの製造販売を手掛けるほか、21年にはAMR「KeiganALI」も発売。研究開発やFAなど様々な分野に向け事業を展開する。