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フジ矢:創業100周年記念インタビュー

投稿日時
2023/11/09 10:51
更新日時
2024/08/19 13:21

代表取締役社長 野﨑 恭伸 氏

1丁のペンチに価値を込めた初代
受け継いだフジ矢ブランドで新領域へ

職人技術による刃付けと研磨工程が生み出す切れ味。フジ矢はこだわりを追求し、品質の高さとブランド力でユーザーの信頼に応えてきた。業界で先んじてペンチとニッパーの量産体制を確立させながら、高品質にこだわり抜いたフジ矢初代社長の道本佐一郎氏。現社長の野﨑恭伸社長は3代目として、受け継いだフジ矢ブランドを国内外で展開を拡げ、より大きく飛翔させた。国内シェアトップメーカーでありがなら、常に新しい領域に切り込む同社。フジ矢の100年の歴史を、野﨑社長に聞いた。

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フジ矢の前身である道本鉄工所(大阪府生野区)を1923年に創業した、フジ矢初代社長の道本佐一郎氏。ペンチをハンマーで一丁一丁叩いて作っていた当時に、日本で初めてボール盤とミーリング盤を導入した。日産40~50丁ほどの生産量が月産8千丁まで拡大、量産を成功させた。

戦中に大阪ペンチとして再出発した道本氏は、工具業界における品質向上の立役者でもあった。「作った端から売れる高需要の中、『質を問わないから納品してくれ』と言われることもありましたが『富士矢マークのブランドを浸透させる。そのためには自分が納得できるものしか売らない』というこだわりを持っていました」と野﨑社長は、現在にも受け継ぐ品質重視の姿勢を語る。

貫いたこだわりは一つの形として結実する。1952年、同社が作った逓信省規格のペンチ類を基にして、日本工業規格(JIS)が作られた。

道本氏は「世界に通用するペンチ」を目指し、当時の製造技術水準より高いレベルの規格を制定。「同業者から『うちでは作れない』と反発も多く出ましたが、そういう工場には自ら技術を伝え、業界全体の技術レベル向上に尽力しました」

■ベトナムに拠点、FA事業にも

初代が築いた信頼を礎に、3代目の野﨑恭伸社長は事業領域を拡大し発展させた。

野﨑社長が就任したのは、アジアの通貨危機やITバブル崩壊など景気が最も悪い頃だった。「売上も最盛期の半分まで落ち込み、2期連続赤字でした」

逆風の中、流通販路としてホームセンター(HC)に注力、これを生命線とし後々のベトナム拠点確立の視座を得る。

「製造ラインの自動化を進めましたが、まだまだ手作業の工程が多く、海外での製造拠点の必要性を感じていました。そこでまず、2002年にベトナム人実習生を迎え入れました。非常に優秀で、刃付けや研磨など1年かかる仕事を3ヵ月で覚えるほど。帰国後に彼らが身につけた技術を活かす場として、ベトナムにレンタル工場を設立しました」

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精緻な職人技術である刃付け工程

ベトナムに拠点をもつことでHC向けの高・中価格帯の製品にコスト競争力がつき、OEM製品でもシェアを拡げた。徐々に設備を導入し、12年には全工程をベトナムで生産する体制が整い、自社工場を建設した。

今後は「売り上げが伸びている欧米・欧州向け製品をベトナムの第二工場で生産していきたい」と言う。

また、ビクターブランドの花園工具やワイズブランドの若穂囲製作所をM&A、塩ビカッタや六角レンチなど製品群を増やし、製造・営業面のシナジーにより売上げを伸ばした。今年9月にコーキングガンメーカーの山本製作所の株式を取得し、多角的な経営も推し進めていく。

野﨑社長は「良質な刃と、量産を両立できるメーカーは世界的に少ないです」と自社の立ち位置を語る。

「強みは職人技術。ニッパーは二つの刃先ピタッと合うように見えますが、刃がぶつかって欠けないよう微妙にズラしています。熱処理後のひずみを刃付けで精緻に調整するなど、機械加工ではできない絶妙な技術です」

そうして技術と量産体制を兼ね備えた中、「かっこいい工具を作りたかった」とマットな黒地に金のロゴが特徴の「KUROKIN」ブランドを立ち上げた。 今でこそ売れ筋だが「他の工具と比べ価格が高く、当初は『売れへん』と言われることが多かった」と振り返る。価格が高くなる主な理由は黒色のめっき。熱処理後、めっき工程で再び熱を入れることで焼き戻しによる硬度の低下や、めっきの剥落などの不良が起こる。「リベット部分に溝を入れめっきを剥がれにくくするなど、見た目にコストをかけました」

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ユーザーから支持を受けて年々レパートリーを拡充する「KUROKIN」



SNSによる情報発信でユーザーの方から火が着き、売上げも前年比でコンスタントに上がっている。高価=売れないというイメージを払拭し、作業工具に新しい風をもたらした。

創業100周年となる今年は、FA事業にも着手。ベトナムに新拠点を構え、自社での刃付けや研磨の工程以外の自動化ノウハウによりツールやシステムを開発・生産する。

「工具の金属加工で蓄えた知見を活かし、自動化があまり進んでいないバリ取りや溶接作業のスパッタ除去の自動化を提案します。ベトナムでの部品調達でコストを圧縮し、従来より低価格で提供できます」と新たな領域にも意欲を見せる。



(2023年11月10日号掲載)