インタビュー
Youibot Robotics 共同創業者 海外事業部部長 日本代表取締役会長 斉 芸芝 氏
- 投稿日時
- 2025/08/07 13:25
- 更新日時
- 2025/08/07 13:29
深圳発、半導体向けNo.1AMRメーカー
日本基準の品質要求に応える体制築く
急成長を遂げる中国・深圳発の移動ロボット(AMR)ベンチャー「Youibot(ユーアイボット)」が、今年2月に日本法人を開設した。半導体業界でシェアナンバーワンを誇るAMRを軸に、日本国内の半導体工場やFA(ファクトリー・オートメーション)現場への提案を進める。共同創業者で海外事業の責任者を務める斉芸芝氏に、東京オフィス開設の背景や日本市場の展望を聞いた。

――貴社は深圳に本社があります。斉さんにとって、深圳とはどんな街ですか。
「若さとスピード感に満ちた都市です。中国中から起業家やエンジニアが集まり、技術革新を支える文化とインフラが整っています。例えば、世界最大の電気屋街『華強北(ホアチャンベイ)』では、世界中のありとあらゆる電子部品が集まっていると言われています。ハードウェアベンチャーにとって、スピード感のある開発を支える理想的な環境です」
――その深圳から見て、日本市場にはどんな魅力があるとお考えですか。
「実は日本への関心は創業初期から持っていました。日本は製造現場の品質要求が非常に高く、それに応えられる技術力と体制が整って初めて信頼を得られるチャレンジングな市場です。また、日系企業にはグローバルで影響力を持つ企業も多いです。現地の声を聞きながら事業を進める必要性を強く感じ、3年ほどかけて準備を進めてきました」
――2月に本格稼働した日本法人の役割は。
「当社は30以上の国と地域に製品展開をしていますが、Headquarter(本社機能)を持つのは、深圳や上海など中国国内に限られていました。そのため、国外拠点は日本が初。製品開発やサポート体制など時間をかけて強化してきました。今後も、日本の高い要求に応えるため、研究開発や技術サービスに3年で10億円以上を投資する予定です。東京オフィスには当社製品や自動化ノウハウを持つ技術スタッフが常駐し、訓練施設やショールーム、サービスパーツ倉庫機能を備えています。既に数多くのSIer様や販売代理店様に活用いただいております」
■27年本格導入に向けPoC強化
――日本市場で特に注力される領域は。
「半導体とFA領域です。特に半導体工場向けでは、ウェハ搬送や工程間物流の自動化ニーズがグローバルで立ち上がってきています。天井の低い既存工場ではそもそもOHT(天井搬送システム)が入らず、AMRの活用に積極的です。一方で、OHT(天井搬送システム)が入る既設・新設工場も、スペースや柔軟性、コスト面からAMRが入り込む余地は多々あります。実際、世界最大のファウンドリであるT社の中国工場には、当社製品が導入され、現在28台が稼働中です。搬送と保管機能を合わせ持ち、手作業よりも4倍近い効率を実現しています」
12インチFOUP(密閉型ウェハ搬送・保管用キャリア)を自動で搬入出できるモバイル協働ロボット(MOS)「OW12」。国内のロボットメーカーの製品にも対応。「AMRと協働ロボットを同一のシステムで管理できるのが他社と大きく異なる」
――業界全体で人手不足が深刻ですね。
「もちろん人手不足も一つ大きな要因です。しかし、半導体工場では少し理由が異なります。つまり、人で運ぶと作業の安定性が保証できないから極力ロボットなど自動化装置に置き換えたいというものです。当社の製品なら一般的なタイプで振動レベルが0・5G。お客様の要望応じて0・3Gのタイプも用意できる。半導体製造工程において歩留まりは最重ポイントの一つですから、間違いが起こらない、起こっても原因を特定し改善できるシステムに置き換えたいニーズを捉えています」
――日本の工場は設備投資に慎重な傾向もありますが、導入のハードルはどう見ていますか。
「確かに、半導体工場は一度稼働を始めると変更を嫌う傾向があり、既存工場での導入はハードルが高いです。ただ、日本政府の後押しもあり、再び国内に製造機能を取り戻そうとする『日本回帰』の動きが活発です。2027年、28年頃を見据えて、今は1台、1台パートナー様と協力しながら、試験導入やPoC(実証実験)を行っている最中です」
――拡充してきたサポート体制が光る部分ですね。
「そうですね。日本には半導体業界向けのAMR活用に対応できるSIerはまだまだ多くない。ですので、中国国内とは違い、我々メーカー側がカスタムを含めて対応する必要のある部分が出てくると思います。これからPoCが上手くいき、本格的に導入となったら、人員拡大やさらにサポート体制をさらに充実させていきたいと思います」
――日本法人設立から半年。実際の反応はいかがですか。
「標準型式を中心に提案しつつ、現場からの声も拾い始めています。日本はスペース制約が厳しいので、コンパクトなモデルのニーズが多いと感じます。中国市場で培った製品をベースに、日本市場向けに仕様変更する動きも進めています。今は『学びの時期』と捉えています」
――大阪市と深圳市は今年、友好都市提携15周年を迎えました。大阪を含めた日本戦略について一言お願いします。
「大阪を含めた西日本地域は、当社にとって非常に重要な地域です。広島や九州には半導体工場が集積していますし、FA分野のユーザー様も多くいらっしゃいます。当社としても重視している地域の一つです。まずは信頼されるAMRブランドになること。そしてSIer様や販売代理店様と連携し、単なる搬送機器でなくソリューションとして顧客課題解消に貢献できる存在を目指します。日本を起点にグローバルに展開を進めていくためにも、日本で『共に考える』ことを大切にしたいと思います」