インタビュー
YKK AP 専務執行役員 国際事業本部長 小野寺 哲也 氏
- 投稿日時
- 2025/11/12 16:27
- 更新日時
- 2025/11/12 16:31
インド事業4倍に成長
IT都市ベンガルールから車で3時間ほどの丘陵地にYKK APグループ・ボルーカ社のマイスール工場はある。10月、この地で新たなアルミ押出ラインが稼働した。年間生産能力は約17%増の1万4000㌧。手掛ける空港ファサードなどの建築物用の建材や窓製品市場の成長を追い風とし、10年前の事業譲渡から続いた基盤づくりが次なる成長段階を迎えている。

10年の地ならし経て、生産も品質も「次のステージ」へ
――10月、新たなアルミ押出ラインが稼働しました。成長するインド市場をどう見ていますか。
「インドは人口動態を見ても非常にポテンシャルの高い地域です。実際、当社が2013年にボルーカ社を事業譲渡された当時20億円ほどだった事業規模は、現在4倍程度まで成長しています。中間所得層の増加で住宅や商業施設の質的向上が進み、高品質なアルミ建材へのニーズが高まっており、付加価値の高い提案の受容機会が増えています。まだ、プライスリーダーが存在していない市場でもあると考えており、当社が市場をけん引していく余地があると見ています」
――設備投資したマイスール工場ではどのような製品を作っている。
「主力製品は建築向けやその他産業向けのアルミ押出形材です。 いずれも依頼された図面通りに一品一様で加工をするもので、様々な領域に製品を納入しています。今はこのアルミ押出形材事業に加えて、窓のシステム販売事業を展開しています」
――現在の主力は窓ではない。
「そうです。現在の柱はアルミ押出形材事業です。例えば、ベンガルールの空港の新ターミナルにも当社の押出形材が使われていますし、産業向けでは太陽光パネルのフレームやEV用のバッテリーケースなどで採用されています。空港向けはインド各地で投資が活発で、昨年度の業績を大きく押し上げた要因の一つとなっています」
――今年度の市況はいかがですか。
「米国の関税政策の影響が特定の産業製品では見られていますが、当社はかねてから需要地ごとの現地生産を基本としています。マイスール工場もインド国内向けの生産が主で影響は限定的です。むしろインド国内の投資意欲はまだまだ強く、需要の底堅さを感じています。また、関税や米国経済の減速懸念も落ち着きつつあり、持ち直しの兆しも見えてきています」
■意匠性・水密性高い窓に高評価
――窓事業についても教えてください。
「17年にインド向け窓ブランド『IWIN-S(アイウィン-エス)』を開発、市場投入しました。『システム販売』と我々は呼んでいて、マイスール工場で成形した材料の販売を当社が行い、組み立てや施工は現地の会社に任せる方式を取っています。そのため、現地の水準でも性能が担保できる、加工・組立てやすい設計と、そのノウハウのサポートをしています」
――IWIN-Sの特徴は。
「インドで求められる水密性と意匠性を両立しています。まず水密性ですが、モンスーン期の豪雨や強風に耐え、雨水の侵入をどれだけ防げるかが製品選定の大きなポイントになっています。以前は多少雨が入っても気にしない方も多かったようですが、生活水準の向上とともに雨じまいを重視するユーザーが明らかに増えています。IWIN-Sは日本で培った気密・水密技術を応用しており、現地の開口条件でも高い防水性能を発揮しています」
「意匠面では開口を広く取りたいというニーズが強まっています。高さが最大3㍍ほどの大開口対応が求められ、従来現地で主流だった樹脂製の窓では強度確保のためフレームを太くせざるを得ません。IWIN-Sはアルミ製のため、インドで引き合いの多い引き違い窓の召し合わせ部材の幅を細く仕上げられ採用が増えています」

インド向け窓ブランド「IWIN-S」の施工イメージ。大開口を活かせる高い意匠性が評価されている
――市場からの反応は。
「窓製品というのは住んでしばらく経ってから『雨漏りがしない』『開け閉めが軽い』『音が静か』など良さがわかる製品です。そのため、現状は反応を一つひとつ積み重ねている段階です。しかし、採用顧客からのリピートも増えてきており、少しずつ評価が広がっているのを感じます」
――今後の展開について教えてください。
「マイスール工場への設備投資は来年度行う鋳造ライン、粉体塗装ライン投資で一旦完了します。まずは設備投資で上昇した生産能力分を含め、窓のシステム販売の比率も高めていきたい。これは付加価値の高い窓製品の売上比率を高めると共に、YKK APブランドの認知拡大も狙いです」
「また、生産能力が上昇したとは言え、生産量では敵わない現地のアルミ押出形材メーカーもあるので、製品品質や生産効率、サービスなど付加価値をさらに高めていく必要があります。既に製品や製造現場には日本で培ったノウハウを適用しており、極端な例で言えば屑となってリサイクルに回す率が半分程度あったものを5%程度まで抑えられるようになるなど生産性向上も図られています 。納期通りに求められた品質の製品を安定的に提供できる。この基本的な品質の確保がここまでの取り組みで実を結びつつあります。2年前からは現法の社長もインド人が担っています。必要なサポートを日本側でしっかり行いながら、可能な限り早い段階で追加の設備投資ができるようにしていきたいです」
(日本物流新聞2025年11月10日号掲載)