インタビュー
深圳学泰科技(X TEC Technology)総経理(ゼネラルマネージャー)裴 在明 氏
- 投稿日時
- 2025/08/07 13:20
- 更新日時
- 2025/08/07 13:25
ヒューマノイドよりAIが製造現場を変える
深圳学泰科技(X TEC Technology)は2012年設立。柔軟自動化対応ロボットワークステーション「X Worker」や、現場制御・IoTゲートウェイ「X PLUTO」など、自社開発ソフトを強みに成長してきた。多品種少量生産の自動化ソリューションに特化し、ロボットSIerとして深圳の製造業に深く関わる。同社の総経理(ゼネラルマネージャー)、裴在明氏に、変貌する中国製造業とSIerの将来像を聞いた。

裴在明ゼネラルマネージャー
――貴社の事業概要は。
機械加工分野の自動化をコア事業とし、多品種少量部品加工のシステム構築を得意とします。10年前は大量生産が市場の主流で、金型加工が中心でした。現在はEV部品、精密機器、半導体製造などに広がり、金型以外が売上の7割を占めます。大量生産ならPLCで固定プログラムを組み部品を流せばよいのですが、多品種少量では頻繁なレイアウト変更や工程切り替えが必要です。そこで開発を進めていたのがPCベースで簡単にプログラムを組むことが出来るソフトウェアとなります。ロボットや周辺機器とパッケージ化して提案しています。
日本の商社の中国現法と協力して自動化システムを構築することも
――中国の製造業構造はどう変わったか。
かつての「世界の工場」は、大量生産型工場が大半を占めていました。しかし世界市場の製品サイクル短縮や需要多様化に伴い、多品種少量への転換が進みました。特に深圳では、量産型工場から、柔軟対応できる工場へのシフトが顕著です。5~6年前には中小企業もこぞって設備投資を行っていましたが、景気減退や過当競争で勢いは鈍化。大量生産で安さを売りにするビジネスモデルは立ち行かなくなり、特に金型中心の企業は苦戦。今は半導体やロボット分野など変化に対応できる企業だけが生き残っています。自動化や効率化を通じて付加価値を生み出すことは、中国でも世界共通の生存条件です。
――SIerの競争環境は。
小資本SIerが乱立し、顧客の要求レベルは年々上昇。優秀なエンジニア採用は極めて困難です。中国企業はジョブ型採用が中心で、長期育成の発想が薄い。そこで当社は初級エンジニアでも組める“マザーシステム”開発に注力しました。資本を投じ、優秀なエンジニアを集めて開発を完了。マザーシステムさえあれば、簡単に工程設計やロボット制御を短期間で構築できます。中国ではジョブホッピングが一般的で、優秀な人材も短期間で入れ替わります。だからこそ、属人的なスキルに依存せず、標準化と汎用化で組織を回すのが合理的です。
――深圳ではヒューマノイドの話題が先行していますが、現場では。
当社案件でヒューマノイドを採用した例はまだありません。一部の企業が試験導入していますが、作業は限定的。コスト、効率、安定性を総合的に考えれば、産業利用は時期尚早です。むしろ生活サービスや接客、軽作業など非製造分野での普及が先でしょう。中国メディアが連日報じる派手な事例と、実際の工場現場には大きなギャップがあります。
■事業の根幹は日本から学んだ
――日中の自動化思想の違いは。
中国は「仕事があれば即自動化、属人性排除」が基本方針。低価格から高付加価値までロボットメーカーもSIerも層が厚く、資金力の乏しい企業でもある程度の自動化は可能です。一方、日本は優秀な職人を活かす文化が根強く、図面電子化やAI活用による設計・プログラム自動生成など、人間の知的作業自動化は遅れがちです。日本はハード面の優秀さがかえってソフト面の遅れを招いている側面もあるのではないでしょうか。
――ロボットメーカー乱立の影響は。
EVメーカー同様、ロボットメーカーもAGV・AMR分野を含めて乱立し、淘汰を経て収束していくでしょう。これが中国のやり方ですね。ただ、メーカーの消滅は顧客・SIer双方のリスクです。その点、安定した性能と事業継続性を備える日本製ロボットや工作機械は、高付加価値志向の顧客に評価されています。価格の高さも品質への投資と理解され、むしろ信頼につながります。
――日本企業から学んだことは。
信頼を守る姿勢や緻密な計画性です。私は日系ロボットメーカーの勤務経験を基に創業しましたが、同社の思想はいまも根幹にあります。逆に日本も、中国流の「走りながら考え、失敗を前提に改善」する柔軟性を取り入れれば、より革新的になれるのではないでしょうか。
――今後の成長戦略は。
ハードは限界が見えつつありますが、AI進化でソフト面は飛躍的な成長が見込まれます。当社はSIer事業にとどまらず、初級者でも構築可能なマザーソフトを核にノウハウを汎用化し、“自動化プラットフォーマー”を目指します。将来的には世界各地で当社流の自動化を再現可能にし、中国発のソフト戦略で世界市場に挑みたい。メイドインジャパンが優秀なハードを足掛かりに世界へ広がったように、我々はソフトを軸にグローバル展開を進めます。
(日本物流新聞2025年8月10日号掲載)