インタビュー
ラピュタロボティクス VP of Product バスデヴァン プラビーンクマル 氏
- 投稿日時
- 2025/11/10 15:44
- 更新日時
- 2025/11/11 16:15
日系板金大手からロボットスタートアップへ
物流業界向けに自動化ソリューションを展開するラピュタロボティクスが急速に従業員数を増やしている。同社の特徴は日本オフィスにおける外国人エンジニア比率が半数を超え、出身国数も30カ国以上に及ぶ点だ。中でもインド出身者は多く、2022年に開設したインドオフィスでは現地の大学と連携しながら新卒エンジニアの育成にも力を入れる。世界中から優秀なエンジニア達が自ら志望する職場について、日系板金大手メーカーでの勤務経歴を持つ、同社VP of Product のバスデヴァン プラビーンクマル氏に聞いた。

バスデヴァン プラビーンクマル氏:インド タミル・ナードゥ州マドゥライ出身。大学卒業後、アマダに就職。ラピュタロボティクスでは認識技術の機能開発チームのリーダー、自動フォークリフトのプロダクトマネジャーを経て、昨年からラピュタロボティクスの製品(自在型自動倉庫「ラピュタASRS」、ピッキングアシストロボット「ラピュタPA-AMR」、自動フォークリフト「ラピュタAFL」)開発部門の統括責任者として120人ほどのエンジニアをまとめる。チームやプロダクトのマネジメントだけでなく、販売や導入側の部門との連携、顧客とのやり取りなども一手に担う。責任者として携わった自動フォークリフト開発は市場でも実績のほぼ無い製品であったため、「顧客との要件定義のすり合わせや安全対策などに苦労した」と振り返る。
チャレンジできる環境を求めて
——日本で働き始めたきっかけを教えてください。
「電気通信工学を専門に学んでいた2008年に日本の板金機械メーカー・アマダのインターンシップに参加したのがきっかけです。神奈川県伊勢原市の工場に約1カ月滞在し、日本のモノづくりに触れ、『ここで働きたい』と思ったのが出発点です」
——卒業後は。
「翌年にアマダへ正式入社し、ラピュタロボティクスに転職するまでの約12年在籍していました。担当は主に機械へ組み込む制御系のソフトウェアの開発を担っていましたが、一部で私自身興味のあったロボットの軌跡生成、溶接ロボットのアルゴリズム開発などにも関わっています」
——ご自身の興味のある分野で活躍もされていた中、なぜ転職された。
「13年から約2年間、会社の支援を受けながらヨーロッパの大学院に留学し、産業ロボット以外のより広いロボティクス関連の研究や取り組みに触れたことがきっかけです。アマダに戻った後はAI関連のスピンオフ企業を立ち上げたりもしましたが、同社にとってロボットは事業の中の一分野。より多様なロボットに関わりたくて転職を決意しました」
——日本国内だけを見てもラピュタ以外にもロボットスタートアップがあります。なぜラピュタだった。
「当社は14年にスイス連邦工科大学チューリッヒ校のスピンオフとして起業しています。実は、ヨーロッパへの留学時から動向は把握し、アマダに戻った後もウォッチしていました。転職に際し何度もラピュタ側の人間と話をし、仕事内容がマッチしていたことに加えて、「Empathy(相手のことを思いやり、ニーズや感情を汲み取る努力を惜しまない)」や「Openness(透明性を徹底し、『みんな』で最高のものを創りたい)」「Fearlessness(失敗しても周囲が支え、再チャレンジできる環境を作る)」などコアバリューが文化としてしっかり根付いていることが決め手となりました。スタートアップなので何も気にせず前進することもできますが、企業として大切にしている言葉があって、自分たちのやっていることがマッチしているか考えながら取り組む姿勢は、長く勤めていく上で重要だと考えています」
■チャレンジできる環境を
——実際に働いてみて、日系大手とは何が違いますか。
「アマダではそれぞれの役割が明確で、日々の仕事はチーム内で完結することが多かったです。一方、ラピュタは横のコミュニケーションを取らないといけないという違いがあります。横のコミュニケーションが取りやすいようオープンソース的な考え方が社内に浸透しているので、ある部署が新たなソフトウェアを開発し使えるとなれば、他の部署にもすぐに共有されます。結果として余分な開発コストや時間をかけずに進んでいけています」
「また、ラピュタはディープテック企業として最新のテクノロジーをいち早くキャッチアップしなければなりません。新しい論文の情報もすぐに共有されます。大企業では研究部門が別にあって、開発部門では最新情報にアクセスしようとする意識があまりなかったように感じます」
——変化が激しい時代です。大変なことも多いのでは。
「ラピュタはスコープが大きく、プロダクト数もプロジェクト数も多いです。新規開発が裏で進んでいたり、同時並行でやらないといけないタスクがたくさんあります。大変な場面も多いですが、こうした環境を楽しめる方はチャレンジできる環境が整っているし、おそらく学ぶことも多く早く成長できると思います」
——インド人エンジニアを採用したい日本企業も増えています。そうした企業にアドバイスがあれば一言お願いします。
「最近のインドの若者は成長意欲が非常に高い方も多いです。私自身そうでしたが、入社したからにはステップアップしたいというグロースマインドの方も多く、日本の伝統的な企業だとキャリアアップに時間がかかると感じ、結果的にキャリアチェンジを選択することも多い。キャリアアップやチャレンジできる環境を社内に適切に用意することが、優秀な人材獲得・には必要になっていると思います」

ラピュタロボティクスの主要3システム(左から自在型自動倉庫「ラピュタASRS」、ピッキングアシストロボット「ラピュタPA-AMR」、自動フォークリフト「ラピュタAFL」)。プラビーンクマル氏は開発責任者として120人ものエンジニアを統括する
インドから見える日本の労働市場
プラビーンクマルさん曰く、日本で働くことを考えるエンジニアは増えているようだ。生活環境が比較的安全であることに加え、欧米と比べるとイミグレーションのポリシーやプロセスが整っており、「(インド人の意識が)仕事だけでなく人生へと向き、家族のためを考えると日本の方がいい」と選択肢に上がりやすい状況となっている。一方、在宅勤務にこだわる人材が増えているなど、会社に求めることは日本の労働者と大差がない。
(日本物流新聞2025年11月10号掲載)