インタビュー
TOYOイノベックス 取締役 技術本部長 兼 製造調達本部長 中村 孝夫 氏
- 投稿日時
- 2025/09/12 09:00
- 更新日時
- 2025/09/17 14:30
成形条件導く「AI成形機」に挑む
企業ビジョンに「成形をモット簡単に!」を掲げたTOYOイノベックス。成形は材料や金型などの環境要素が複雑に絡むため適切な条件設定に熟練者の経験を要していたが、AIで諸条件を調整することで「ボタン1つで良品を成形できるAI成形機」を目指す。本社工場では新棟稼働と前後して納期短縮と生産効率の向上に挑んでおり、中村孝夫取締役は効率を従来比130%に高める考えを示した。

――企業ビジョン「成形をモット簡単に!」を掲げました。
「我々が扱う中・小型の成形機は精密な成形が求められます。ダイカスト鋳造・射出成形ともに条件設定に知見が必要ですが、熟練技能者は減少中。彼らが育ったのは手探りで成形条件を探ってきた時代でしたが、近年はある程度決まった条件が確立された環境で技能者が育ちます。イレギュラー時の対処が難しくなり、我々の技術スクールにも多くの依頼が届くことから、成形をもっと簡単にというニーズが強いと考えました」
――成形を簡単にする方法は。
「例えば射出成形機のオプションとして開発した『SAGスクリュー』はガスの発生抑制と脱気に特化したシステム。スクリューは回転しながらペレットを前に送り、その過程でフライト(ペレットが入るスクリューの溝)の容積を少しずつ縮めて樹脂を圧縮することで溶かします。ただ強く圧縮するとガスが発生、逆に圧縮を抑えると樹脂が溶けにくいトレードオフの関係でした。SAGスクリューは圧縮を抑えてガスを抑制しつつ樹脂がよく溶ける。さらにガスをうまく脱気する構造です」
――成形不良が減る。
「大きく減ります。とはいえ不向きな材料もあり、より汎用性を高めた『S-HINスクリュー』を開発。2023年発売の射出成形機『Si-7シリーズ』に標準搭載しました。標準モデルのスクリュー更新は30年ぶり。成形不良の大幅低減を期しており、従来は成形に問題があると問い合わせが必ず届いていましたがS-HINスクリュー実装後はゼロを維持しています」
――ゼロは効果が大きい。一方でAI成形機も開発中です。AIをどう使う。
「成形の条件設定は可塑化(樹脂の溶融)と射出に大別されます。多くの成形機メーカーは射出に注目しますが我々は可塑化にも着目。経験値で設定している可塑化のパラメーターをAIによる理論値に置き換えようとしています。というのも可塑化が不安定だといくら射出を調整しても良品にならない。この条件設定をAI化し、我々の機械を使えばほぼ同じ条件にできるようになるのが目標です」
――成形材料も種類が多い。
「まずは代表的な樹脂から対応します。すでに開発を進めており、10月のKショー(独で開かれる世界最大の樹脂・ゴム展)では、まず射出条件を、流動シミュレーション技術を用いて最適化し、成形機と連携して条件設定する技術を披露する予定。金型製作では流動解析で成形をシミュレーションしますが、計算結果と実機の成形結果の乖離が課題でした。これは解析が材料メーカーの理想的な粘度データを元にしており、成形機ごとに条件やスクリューの形状も違うのが要因の一つ。そこで流動解析メーカーと連携し、我々の成形機が計測した粘度データを元に解析することで精度を高めるものです」
――理想の成形機が近づく。
「ボタン1つですべての成形条件が出るのが究極の目標。まだ先ですが少しずつ歩みを進めます」
■納期を大幅短縮
――景況は。
「ダイカストマシンは中国やインドが動き出しました。近年はe︱Axleのケース等を成形する型締力1000㌧前後の機械の需要が高かったのですが、ここにきて350㌧級が復調傾向に。ヒートシンクや自動車に搭載するセンサーの基盤に使うアルミ製ベースなど放熱部品のボリュームが増えています。これが続くかは注視が必要ですが、いずれにしてもインドは期待が持てる。まずは現地の在庫を強化し、将来的にはオプションを付加できる生産拠点への発展も考えます」
――本社工場に新棟「G17」が稼働しました。
「中大型の射出成形機を生産します。生産能力は成形機450㌧換算で月間35台高まる。柔軟な生産が叶い短納期にもつながります。短納期、という観点で新たな倉庫も確保し、戦略的に部品を在庫することで納期を従来の2分の1まで短縮することが可能となりました。さらにSi-7GSシリーズは加工も終えた完成に近い状態で標準機を在庫し、最短1カ月の出荷体制です」
――かなり筋肉質な体制に。
「その自負はありますがまだ途上。デジタル化をより発展させ、部品やユニットの位置と状態を可視化しスムーズな工程管理を実現したい。これにより生産効率を120%まで高める狙いです。同時に自動化も推進し、(生産効率を)最終的に130%に持っていきたい。まだ目標ですが必ずやっていきますよ。海外の成形機メーカーを見学し、私もある種の衝撃を受けました。我々も生産性をより高める必要があります」

G17棟では中・大型射出成形機の生産が始まっていた
ダイカストも不良低減へ
成形条件のAI化は射出成形機が先行するが、ダイカストマシンの不良を減らす技術も開発している。同社のダイカストマシンは射出機構にサーボモーターを用いることで、成形中に圧力を可変する「増圧多段」という独自機能を備える。この技術でバリの生じない程度の圧力で部品の外周を固めたあと、一気に圧力を高めて鋳巣を潰す「圧縮ダイカスト法」を開発。24年度の日本機械学会奨励賞(技術)を受賞した。
(日本物流新聞2025年9月10日号掲載)