インタビュー
TOYOイノベックス 代表取締役社長 田畑 禎章 氏
- 投稿日時
- 2025/07/02 10:52
- 更新日時
- 2025/07/02 10:54
AI成形と新事業で次の100年へ

田畑禎章【たばた・よしあき】。営業畑出身で海外経験が長く、96~04年までは香港に駐在。オーストラリアやニュージーランド、トルコ、イスラエルなど日系製造業が手薄な地域に先駆けて足場を築いた結果、TOYOイノベックスはこれらの市場でも高いシェアを握る
――創業100周年を迎えられました。
「『Customers' Value Up』をキャッチフレーズに、カスタマイズを断らない姿勢で取り組んできました。だから特殊な機械にファンが多いんです。油圧と電動のハイブリッドダイカストマシンも、デンソー様の要望で業界に先駆けて開発したものです」
――社名をかなり大胆に変えましたね。
「実はずっと機をうかがっていました。イノベックスは今まで積み上げた顧客体験(experience)を大切にしつつ、次のinnovationへつなげるという決意を込めた造語。社員の意見で『TOYO』は残しました。今後は『機械』や『金属』にとらわれず、射出成形とダイカストに続く第3の事業を生み出したい。ソフトウェア領域にも注力し、成形技術をAIで進化させたい。元の社名ではそうした分野の人材が当社を選びづらかったと思います。社名変更には次の100年に向け、我々の方針に合致する人材を獲得する狙いがあります」
――第3の事業の中身は。
「まだ開示できませんがいくつか考えています。足踏みはあるにせよ長期的に成長が見込まれるEV分野へ挑戦したい。新事業はマシンに限らず柔軟に…と考えていますが、いずれにしてもメインストリームに切り込み、今までと少し毛色の違う事業で成長を目指します」
――既存事業の成長に向けては、ダイカストの売上比率を35%に高める方針を掲げています。
「米国の関税もあり目標にはまだ追いついていませんが、EV化で大型ダイカストマシンの需要が増えています。車載ECUを筆頭にモーターのハウジング、ケーシング、ステアリングシャフトの成形需要が増しており、我々の主力である型締力500~1250㌧のダイカストマシンはこれらEV製品にピッタリ合う。いずれ販売も上向くでしょう。大型インパネのフレームを成形したいという要望で型締力1300㌧の機種も開発しました。横幅が長く他社が1650㌧でおこなう仕事をダウンサイジングできます」
――本社に新工場も完成しましたね。
「コロナ禍に大型機の需要が増えました。射出成形は大型機の組立を新工場に集約し、ダイカストマシンは既存工場の空いたスペースで大型機を組み立てます。新工場の一部は『成形イノベーションセンター』とし、1000㌧クラスの大型射出成形機を置いてテスト成形や立ち合いの場に。また、当社の歴史を象徴する古い成形機も展示する予定です」
――重視する地域は。
「インドは力を入れますよ。4月にインド開発営業部をその他アジア地域から切り離して発足させました。世界の中でとりわけインドが伸びています。そのうち中国を規模で上回るのではないかと。射出成形機は現地ですでに在庫販売を始めており、その先は現地生産。具体的な計画は年内に始動したい。場所もデリー近郊グルガオンを第一候補、バワルを第二候補としてすでに絞り込んでいます」
■成形を簡単に
――ところで、冒頭の「成形事業のAI活用」が気になっていました。AIをどう成形に活用する。
「中期経営計画で『成形をモット簡単に!』という企業ビジョンを定めました。成形は従来、材料や金型などの環境要素が大きく、条件の合わせ込みに経験が必要です。この諸条件をAIが調整することで、ボタンを押せば綺麗な写真が撮れるカメラのように、誰でもワンタッチで良品が成形できる射出成形機とダイカストマシンを投入します。そうした成形機は世にありませんでした」
――増圧速度を多段で可変できるダイカストマシンを展開されています。例えばこの工程をAIで調整するようなイメージですか。
「それも一例です。『増圧多段』は我々のダイカスト最大の特徴ですが、金型が変われば調整が必要でその調整が熟練のワザでした。昔は少品種であまり変更の必要がありませんでしたが、今は多品種で金型を頻繁に変える。これをAIに置き換えられれば画期的です」
「また材料へのアプローチもおこないます。昨今は環境対応のため様々な天然素材を樹脂に混ぜ込み、材料の50%以上を竹が占める場合も。もちろん成形は非常に難しくカスタマイズ力が求められるものの、対応する成形機を作りました。お客様と一緒に、新たな材料に対応する成形機を今後も開発します」
――100周年ですが、息をつく暇がなさそうですね。
「100年はターゲットではなく通過点。これからの100年を見据え、次とその次の世代への橋渡しをしたいと思っています」