インタビュー
Shippio 本部長 井上 裕史 氏
伝言ゲームを終わらせる貿易DX
- 投稿日時
- 2025/12/25 09:00
- 更新日時
- 2025/12/25 09:06
可視化から始まるグローバルSC最適化
島国である日本にとって貿易は切っても切り離せない。しかし、その現場業務は今なお電話やFAX、紙、Excelを前提とし、担当者が様々な関係者と進捗確認や日程調整を重ねる、いわゆる「伝言ゲーム」が常態化している。こうした業界慣行にデジタルの力でメスを入れるのが、創業10年目を迎えたShippio(東京都港区)だ。国際物流に関わる業務やコミュニケーションを一元管理できる「Shippio Platform」を提供し、業界標準の働き方の転換を迫っている。取り組みの狙いについて同社・事業本部 本部長の井上裕史氏に聞いた。

Shippio 事業本部 本部長 井上 裕史 氏
――Shippio Platformの利用者数が急増しているようですね。改めて提供するサービスについて教えてください。
「当社は2018年に貨物利用運送事業の許可を得て以降、デジタルフォワーダーとして主に海上貨物の輸送手配を提供する物流サービス『Shippio Forwarding』を提供してきました。当初から『貿易のDX』への挑戦を掲げ、一貫して貿易業務にデジタル技術を適用してきたのが特徴です。23年には荷主様向けの貿易管理クラウドソフト『Shippio Cargo』、24年にフォワーダー様向けの貿易管理クラウドソフト『Shippio Works』、今年に入ってAI通関クラウドソフト『Shippio Clear』を展開し、当社内で培ったデジタルフォワーディングのノウハウをソフトウェアプラットフォームとして提供しています。この3年で利用者数は約8倍の1500を超えました」
――導入企業が急増している背景は。
「関税問題や国際情勢の悪化など、国際物流を取り巻く環境は不確実性が増しています。船舶が予定通りに着かないことも増え、手配の変更が常態化しています。人材も限られる中、現場の実務は数十年前からほぼ変わらず、紙をベースとした書類のやり取り、電話やメールによるコミュニケーションによって、業務が担当者間で閉じてしまっている。そのため、適切な判断ができず、最終的に緊急輸送や在庫の積み増しなど余計なコストがかかっているケースが散見されます。これまでの伝言ゲーム的なアナログな対応は、現場担当者の努力で何とか成り立ってきましたが、より高い機動力が求められる今、限界を感じている企業も増えてきています」
――Shippioのサービスを使うと、具体的に何が変わるのでしょうか。
「Shippio Platformが提供している価値は大きく3点。リアルタイムでの情報の『可視化』、紙ベースの確認業務の『自動化』、溜まった『データの活用』です。これらをプラットフォーム上で案件やコンテナごとに一元的に管理・活用できます。これまで現場担当者がハブとなって、社内外の関係者とメールや電話によるコミュニケーションで回していた業務が、Shippioの画面だけで完結するようになる。コミュニケーションの距離がぐっと縮まり、業務工数が大幅に削減できます」

「また、社内外の関係者にアクセス権を付与すればリアルタイムでの情報共有も可能で、よくある担当者しか最新情報を把握できていないといった状況を防ぐことができます。そうすると、わざわざ伝言ゲームをせずとも案件が遅れそうとわかった時点で、例えば営業の方がお客様に交渉できる。担当者がいなくても『業務が自走する』段階まで上手く活用いただいているケースも出てきています」
■データ活用でSC最適化
――見える化サービスは各社提案されているように思いますが、なぜShippioが選ばれる。
「貿易業務はステークホルダーが多く複雑で、属人性が高いこともあり可視化・デジタル化が困難です。こうした参入障壁の高さもあり現状国内にはあまりプレーヤーがいません。加えて、当社はフォワーディング業からスタートし、22年には老舗通関会社をM&Aするなど、実務を自ら抱えています。そこから見えてくる現場課題やどうやったらデジタル技術をより活用して課題を解消していけるかを日々模索し、ソフトウェアの開発まで一気通貫で行っています。ここが当社の最大の強みであり、ユニークなポイントで、ユーザー様から支持いただく理由でもあると思います」
――今後の展開について教えてください。
「クラウドソフト提供から約3年、可視化・自動化による業務改善には一定の価値を提供できていると考えています。今後は、蓄積したデータの活用にも力を入れていきたい。既に自動車部品のアイシン様には、30年までに物流コスト半減という目標に向けた施策の一つとして、Shippioから得たデータを活用いただいています。Shippioから得られる船の動静データと、社内の在庫データを組み合わせることで製品単位での可視化が進み、これまで見えなかった計画実績の可視化を自社で実現できるようになりました。他の製造業大手でもShippioで得られるデータを活用することで、これまで担当者の勘や経験に頼っていた発注や出荷の意思決定をデータに基づき柔軟に行い、緊急輸送などの無駄なコストの削減やサプライチェーン全体での安全在庫の引き下げなどを目指すケースが出てきています」
――現場業務の改善だけにはとどまらない。
「そうですね。将来的には見積もりや発注、支払いなども全てがShippio上で完結する世界観を作っていきたいと考えています。政府も23年頃から貿易のDXに力を入れており、2024年問題の次の施策として、現在0・1%以下である貿易DX化率を令和10年度までに10%まで引き上げるという目標を25年の「骨太の方針」で打ち出しています。当社は当初から貿易DXをリードするプラットフォーマーとして政府と連携しています。この波をしっかりと捉え、この10年やってきたことを次の10年でどんどん加速・拡張し、業界全体の高度化に寄与していきたいと思います」
AI活用も
同社は12月15日、優れた生成AI活用事例を表彰する「生成AI大賞2025」(主催:Generative AI Japan、日経ビジネス)の特別賞を受賞した。貿易書類を自動で読み取り転記する「AI-OCR機能」や発注内容とインボイス内容を照合し一致・不一致を検出する「AIインボイス照合」など、貿易業務へのAI活用にも力を入れる。
(日本物流新聞2025年12月25日号掲載)