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インタビュー

北川鉄工所 西宮 民和 さん

投稿日時
2022/05/26 14:12
更新日時
2024/08/19 13:22

ジョー再成形を不要にした高精度パワーチャック開発

NC旋盤加工において重要な役割を担うパワーチャックとジョー(生爪)。チャックには高い剛性と把握精度、堅牢性が求められ、ジョーの成形の良否はワークの仕上がりに大きな影響を与える。

受賞した西宮さんとBRチャック

通常、パワーチャックでワークを把握し精度よく加工するためには、ジョーのワーク把握面を事前に成形する必要がある。無論、加工前に加えジョーやワークの脱着時にも再成形を行い、精度を出さなければならない。

これらの旋盤加工における従来の「やって当たり前」の段取りを不要にしたのが、北川鉄工所の「BRチャック」と特殊Tナット「Tnut-Plus」。半世紀以上に渡るNC旋盤加工の常識を覆す「ジョー再成形」を不要にする技術を開発したのが、北川鉄工所技術部開発課の西宮民和次長だ。

「通常、ワークを把握するとチャックの内部には数㌧から十数㌧の荷重がかかります。当社で開発したBRチャックは内部部品の形状を工夫し、弾性変形を抑制することで3つのジョーの位置ずれを極小にして把握精度を向上させ、ワークの浮き上がりを抑制するとともに回転による把握力の損失を低減しました」

これにより従来の一般的なチャックでは10~20ミクロンT.I.R.(振れ精度)程度であった把握精度をBRチャックは0~5ミクロンT.I.R.へと大幅に向上させた(保証値10ミクロン以下)。

BRチャックの精度に加えて、革新的な開発となったのが特殊Tナット「Tnut-Plus」だ。ジョー脱着による把握精度が低下してしまう原因は、チャックのマスタージョー溝とTナット、ジョー溝とTナットに隙間ができ、成形時からジョーの取り付け位置が変化し、ガタが生じてしまうことにあった。

Tnut―Plusの幅はマスタージョー溝、ジョー溝よりわずかに大きくしています。側面に変則的なヌスミを入れ、ジョーを傾けることで両方の溝に挿入できるようにしました。この状態からボルトを締結すると、セレーションが噛み合い強制的に真っ直ぐになります。これによって2つの溝とTnutPlusが互いに干渉して隙間がゼロになり、ガタをなくし把握精度を維持できます」

このBRチャックにTnut-Plusを組み合わせることで、ジョーの再成形を不要にし、段取り替え時間を大幅に短縮するとともに成形に伴う工数や経費の削減にも貢献する。

NC旋盤による加工はすでにさまざまな加工技術が確立された分野。チャックに関しても同社の「B-200」や「BB200」シリーズがロングセラーとして支持されているように、革新的なアイデアや技術がそうそう出るものでもない。

30年に渡りチャック開発に携わり、乾いた雑巾をさらに絞るような開発を進め、従来の常識を打破した西宮次長。受賞に際し、「夢にまでチャックが出てくるなか、今回の『ひらめき』が降りてきたのは、犬の散歩中でした。社内外の皆様の協力あっての今回の受賞ですが、家内からは『犬のおかげじゃない?』と言われています」と笑顔で語ってくれた。

2022425日号掲載)