インタビュー
アイコム 中岡 洋詞 社長
世界の「つながる」無線で支える
- 投稿日時
- 2026/03/30 15:39
- 更新日時
- 2026/03/30 15:49
アイコムは、業務用無線機やアマチュア無線、海上・航空無線など幅広い通信機器を展開する総合無線機器メーカー。高い信頼性と技術力を強みに、世界中の現場やコミュニティの通信を支えてきた。近年ではIP無線機(携帯電話回線を使う無線機)と従来の無線機を集約したハイブリッド機や、多言語を同時通訳し文字起こしも可能なインカムアプリなど新しい通信方式であらゆる現場を繋ぐ。災害対応やインフラ、製造現場、レジャーまで多様なシーンで「つながる安心」を支えている。

アイコム 代表取締役社長 中岡 洋詞 氏
――グローバルに展開されていますが、最近の業況は。
「前の3期が連続して過去最高の売上を更新しましたが、今期は少し苦労していますね。マーケットが悪いわけではなく、トランプ関税への慎重な姿勢から設備投資が抑えられている影響です。またコロナ禍に、部材不足でも無線機が不足しないよう供給を促進した余剰在庫が残っており、解消に時間がかかっている状況で、一時的なものと見ています」
「警備や、レストランなどホスピタリティ分野は変わらず好調ですね。最近だとイベント関係の引き合いが増えてきています。今年、愛知で開かれるアジア競技大会や、2月に米シアトルで開催されたスーパーボウル関連のパレードや会場周辺のレストランなど、大規模に人が集まる場所では携帯電話の通信が不安定になるため、当社のハイブリッド無線機が入っています」
――IP無線と従来の無線機のハイブリッド機など、高い通信性能と使いやすさを両立した製品で独自の立ち位置におられます。
「普段はLTE通信を使い、非常時にはデジタル簡易無線に切り替えられるハイブリッド無線機は、2つの通信方式を1台に集約。おそらく我々が先駆けで今でも珍しい製品。無線機というのはもう爆発的に売れる市場ではないので、大手にとっては面倒な、小規模の企業にとっては技術的には簡単ではないところが狙いです」

インカムアプリ「ICOM CONNECT」はリアルタイムの通訳機能やテキスト化など23言語に対応。音声メモを自動的に整理・要約も行えるなど日常の報告にも使用可能だ
――無線機と通信できるインカムアプリも出されましたね。
「インカムアプリ『ICOM CONNECT』はスマホやタブレットにダウンロードしていただければ、トランシーバーのように多数同報ができます。AI・ソフトウェアを手がけるボイット社との協業によるもので、現場の『つながる』をさらに高度化します。音声データの文字起こしも可能で、同時通訳機能も備えています。言語が違っても翻訳されたテキストや合成音声の再生で伝達漏れを防げます。そして一番の特長はアイコムのIP無線機と通信できること。これまで導入した無線機をそのまま使っていただけます」
「今後の計画として、位置情報を活かして、タブレットを用いたタクシーや送迎車など車載用への展開を考えています。タクシーは元々無線を使っていますし、文字起こし機能で、日常の報告もハンズフリーで簡単に入力できます」
■安心・安全を届けるための供給責任
――コロナ禍にあえて供給を増やした。
「安全を守るために必要な無線機を、部材が入らないからと納期を遅らせることは選択肢にありませんでした。部材高騰化により多少利益率が下がったとしても出すのが責任だと、その信念で部材を仕入れ、製品の供給を止めませんでした。結果として売上につながりましたが。能登半島地震の時も社員が即座に集まり、従前からの契約ですが総務省から預かっている無線機を当日に被災地に届けました。やはり音声通信はスピード感もあり、安心できる通信手段ですから」
――スペック表に表れにくい部分でのこだわりは。
「音質です。アマチュア無線機、業務機や船舶用で求められる音質はそれぞれ違うんですよ。地域によっても英語みたいに破裂音の多い言語と、日本語のように平坦に話す言語でも好まれる音質が異なります。一概に説明しづらいのでサンプルを細かく用意し実際に聴いていただく。同じ業務機でも工事現場では音量が一番に求められ、病院のナースコールに使う無線機だと違うニーズがある。スピーカーも、振動の幅を変えるため中の部材から変えています」
――次世代無線機の開発も。
「フェーズ1、2と構想していますが、まずはボディカメラ。参考出品ですので予定ですが、録画とWi-Fiストリーミング対応のウェアラブルカメラで、警察機関や警備での用途を考えています」
――今後の目指す姿は。
「無線機単体での販売が中心だった従来のスタイルから、コミュニケーション環境そのものを提供するソリューション企業へと変革していきたい。また、防災関係では自治体のニーズは根強くある一方で予算確保が難しいという現状もある。業界全体で変革していきたい部分です」
MEMO
ハム(アマチュア無線家)の一声
アイコムの始まりはアマチュア無線機。国内外の無線愛好家からも高い評価を得ている。中岡社長は北米赴任時に、米国国防総省との超大口案件を契約した。応札に至るまで多くの高いハードルを越え、ようやく漕ぎ着けた製品説明の場で、ペンタゴンの担当者がアイコムを推した。「その上官はハムで、アイコムの広告が載った雑誌のページを開きながら、品質の確かさと、従来の無線機に比べ5分の1の価格で購入できると紹介してくれたんです」。国防総省としては初となる米メーカー以外での採用という大きな轍に、アイコムの礎が重なった。