インタビュー
京セラ 機械工具事業本部長 柳澤 秀二 氏
デバイス型センシングツール投入、『コト売り』加速
- 投稿日時
- 2026/03/24 14:09
- 更新日時
- 2026/03/24 15:05
デジタル技術を融合させた「コト売り」の展開を加速させる京セラ。昨年にはデバイス型のセンシングツールで加工状態を可視化するサービス「VIMOA(ヴィモア)」を開始。消耗品供給に留まらない高付加領域の提案で更なる成長を狙う。「グループの総合力で開発した」という新機軸のデバイスを武器に、いかにして次代の加工現場を支援するのか。柳澤秀二執行役員機械工具事業本部長に戦略を聞いた。

京セラ 執行役員 機械工具事業本部長 柳澤 秀二 氏
【※取材は2026年2月下旬に行っており、最新の中東情勢を踏まえたものではありません】
――昨年は舵取りの難しい1年でした。切削工具事業の振り返りを。
「主力の自動車産業が伸び悩み、全体にやや軟調でした。一方で航空機や医療は堅調です。我々も特にチタン合金加工向けの新材質・形状開発に注力しています。また半導体製造装置向けも好転しており、グループ内関連事業の動向を見ても、26年の需要増は間違いない。年始の顧客との対話でも『投資が動き出している』との手応えがあり、総じて昨年より良い市況になると見ています」
――地域別では。
「日・中・韓は大幅ではないにせよ伸長しました。北南米も微増。欧州は独の自動車産業が厳しかったものの、緩やかに回復する見込みです。一方でインドは自動車や二輪、3C(PC・家電・通信)分野が堅調。成長を見越して約10年前に現地工場を設けました。アジアでも頭一つ抜けた伸びを見せています」
――不況下の中国で伸長できた背景は。
「現地に日本と同等の生産・販売・サービス網を構築した結果、乱立する超硬工具メーカーに対し、価格以外の強みが活かせつつあります。日本で培った『ソリューション提案』を中国でも徹底しています。特に難しい加工では加工条件も無数。そこでテクニカルセンターでテストカットを引き受け、最適条件と共に最適工具を提案する。この地道な活動が、たとえ価格で及ばずとも京セラ工具の採用に繋がりました。今後は工具に『コト売り』を合わせた提案を日本と同等に展開し、シェア拡大を図ります」
■デバイスで加工可視化
――デバイスを機械に後付けし、振動で加工状態を可視化するサービス「VIMOA(ヴィモア)」はまさにコト売りの象徴に映りますね。開発背景は。
「国内の切削工具で我々はほぼ最後発です。『追いつけ追いつけ』とばかりに先行メーカーを追って商品拡充してきた結果、商品力ではずいぶん比肩したと自負しています。ただ商品展開に頼った差別化は難しくなりますし、市場が広がるわけでもない。そこで工具在庫管理システムを皮切りに、加工プロセス全体を支えるコト売りに踏み出しました。ヴィモアもその一環。メーカーとしてモノには自信を持っています。そこへコトを加えたということです」
――工具メーカーのセンシングツールは「ホルダ内蔵型」が多い中、外付けのデバイス型を選んだ理由は。
「汎用性を第一に考えました。内蔵型だと使用シーンが限られますが、デバイス型なら旋盤・マシニング・研削盤など機種を問わず、さらには他社工具のユーザーも利用できます。汎用性がなければ普及はすぐ頭打ちです。実は開発には8年を要しており、内蔵型も並行開発した上でデバイス型を選びました。この汎用性により研削加工の引き合いを得るなど、新市場へのドアオープナーになっています」
――具現化には苦労もあったのでは。
「油や金属片の飛び交う環境ですから、難しさも伴いました。機械工具事業単独では難しかったでしょう。ただグループの通信・機器事業から知見を補えたのは大きかった。スマートフォン用の小型・大容量のバッテリーで12時間稼働を実現しています。最大の特長は毎秒2万2000ものデータを取得し、無線LANで大量のデータを安定して送り続けられること。データ量が緻密でないと加工中の瞬間的な現象は追えません。まさに総合力で開発した製品です」
――5月にはAIを用いたモニタリングサービスも開始しますね。
「同じデバイスを使い、AI搭載の産業用PCでセンシングデータと加工プログラムを結合して、振動波形を解析・監視します。電流値等による監視サービスに比べてより詳細で、仕上げ工程にも使えます。先行開始したレンタルサービスは主に生技部門が試作や加工条件の確立に使う想定。対してAIサービスは買い切りで、量産ラインのチョコ停や不良改善が主な用途です。これで試作から量産までカバーする体制が揃います」
――ヴィモアは「コト売り」の大きな強化ですね。一方で切削工具の開発方針は。貴社は薄膜技術を先鋭化させていますが。
「コア技術の中でもPVDは業界水準を上回る自負があり、開発を強化しています。材料特性による機能向上は限界に近づいていますが、薄膜技術を磨くことで同じ母材でも面粗度などの切削結果を大きく変えられる。引き続き薄膜技術は強化します」
「またスモールツールも得意領域。長期的にはEV化で微細部品の加工需要が増えると見込まれ、半導体や医療にもスモールツールが使われます。この分野はPVDが切削性を大きく左右することもあり、将来、大きな強みになるでしょう。一段と強化し、新たな需要と戦える体制を構築します」

VIMOA(ヴィモア)のデバイスはマグネット式で工作機械の加工室に後付け可能。充電式で配線も必要ない。工具内蔵型のセンシングツールと比べると切削点と測定ポイントがやや離れるが、「切削抵抗計のデータとセンシングデータに十分な相関があることが検証されている」という。
拡大から戦略的整理へ
昨年に切削工具の商品点数を「29年3月までに3割削減」と報じられた京セラ。だが柳澤事業本部長は「対応領域を縮小する意図ではなく、真意はあくまで前向きだ」と強調する。後発参入で商品拡充を続けてきた結果、ラインナップが煩雑化していた側面もあった。そこで役割が重複する工具を集約し、顧客が商品を選びやすくするのが狙いだ。同社の開発が商品数の「拡大」から、標準品を戦略的に「整理」する新たなフェイズへ移行したことを物語る。