インタビュー
三井精機工業 取締役 清水 剛 氏
アフターサービス強化「機械を止めるな」
- 投稿日時
- 2026/03/11 13:39
- 更新日時
- 2026/03/11 13:42
「売れない人間が売れるように」組織力で挑む機械営業の新時代
工作機械メーカーの営業現場は今、大きな転換期を迎えている。かつては「一匹狼」のエース営業マンが数字を引っ張った時代から、チーム全体で受注を掴む「全員野球」の時代へと変わりつつある。三井精機工業で38年にわたり営業の第一線を歩み、現在は国内営業を統括する清水剛取締役本部長に、営業の極意と市場の現況を聞いた。

三井精機工業 取締役営業本部長 清水 剛 氏
――営業マン時代は社内トップクラスの営業実績を残されました。「機械が売れた時代」を振り返ってください。
「私がかつて担当していた長野県松本地区は、精密加工や金型産業が発達していたので、当時は縦形マシニングセンタの需要が多かったです。1台あたりの単価はさほど高くありませんが、台数は本当によく売れました。商社や地元の販売店さんと毎週金曜日に集まって、翌朝まで酒を酌み交わしながら販売戦略を練る。その積み重ねがそのまま数字に変わる時代でした」
――いまや簡単には「機械が売れない時代に」なっています。
「絶対的なエースが数字を引っ張る組織は一見強く見えますが、そのエースが不調に陥ったり、離脱したりすれば、組織の数字は一気に崩壊します。営業が属人化している限り、メーカーとしての持続的な成長は見込めない。自分が管理職として直面したのは、この『個人の限界』をいかにして『組織の力』に転換するかという課題でした」
――エースからマネージメントする立場に変わり、どういった施策を打ち出したのでしょうか。
「まずは社内の営業推進チームの役割を再定義しました。彼らには常々、『営業マンを支えるサーバント(奉仕者)になれ』と言っています。営業マンが現場で吸い上げてくる声は、お客様の切実な悩みです。それを営業マンが一人で抱えるのではなく、組織全体で受け止める。毎週、全案件の進捗状況を精査し、どこがネックになっているのか、受注のために技術や経営陣がどのような支援をすべきかを全員で共有しています。これにより、以前なら優先度の低い案件も、組織的なフォローで優先度を上げて受注に結びつくようになりました」
――組織で動くことの最大のメリットは。
「『売れない人間が売れるようになる』ことです。個人の能力に依存せず、組織の仕組みで誰でも一定の成果を出せるようになる。私自身、自分一人で売っていた時代よりも、はるかに楽しいと感じています。チームで課題を乗り越え、受注を掴み取った瞬間の喜びは、個人プレーでは決して味わえないものです」
■小型ねじ研削盤が好調
――貴社製品に目を向けると、多くのメーカーがダイレクトドライブ(DDモーター)方式を採用する中、貴社は「ギア駆動方式」を貫いています。
「DDモーターは応答性が高く、バックラッシュも少ないという利点があります。しかし、切削抵抗に対してはモーターのトルクだけで受け止めるしかありません。一方で、我々が数十年にわたり磨き続けてきたギア駆動方式は、モーターの力を何倍にも増幅させることが可能です。これにより、航空機のエンジン部品に使われるチタンやインコネルといった難削材を削る際にも、びくともしない圧倒的な『剛性』を確保できるのです。現在、当社の5軸機の8~9割がギア駆動仕様であることは、この『削る力』への信頼の証と言えます」
――他社がギア駆動方式に追随してこないのはなぜでしょうか。
「一言で言えば、経験値の差です。ギア技術は要素技術の積み重ねであり、一朝一夕に製品化できるものではありません。当社はこの道を何十年も愚直に歩んできました。他社が手を出せない領域で戦い続けることも、我々の生存戦略です」
――市場環境が変化する中、売上構成にも変化が見られます。
「国内はEV化の影響で自動車エンジン向けの需要は減少傾向です。しかし、我々は航空機、半導体、そしてエネルギー分野へと拡販しています。昨今では電動パワーステアリング、電動ブレーキ、半導体製造装置向けの小型で高精度のボールねじの需要が急拡大しており、小型ねじ研削盤の引き合いが強まっています」
――転造ねじではだめなのでしょうか。
「転造ねじは安く製造できますが、静粛性と高精度が求められるねじには研削加工が必須です。そこで、独自のスピンドル技術で雌ねじの研削を行える当社の小型ねじ研削盤が市場で高い評価を受けており、今後さらに需要が拡大すると見ています」
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
「アフターサービスのさらなる強化です。『機械を止めるな』を合言葉に、完全停止した機械への翌日対応率を直近で95~96%まで引き上げました。海外から航空便で部品を送るかといった、コストとスピードの判断を役員が即座に下せる体制を整えています。サービス力こそが、2台目、3台目の受注を引き寄せる最大の営業力となるからです」
清水氏の言葉からは、かつてのエースとしての矜持以上に、組織を育てるリーダーとしての誇りが強く感じられた。

売れ行き好調な小型ねじ研削盤
市場ニーズに応える製品開発
三井精機工業では川上博之会長が社長に就任した2022年から構造改革を推進。自社の高精度・高品質の標準機をベースとしたマーケットイン型の製品開発を行っている。
「ひとりよがりな製品開発ではなく、『顧客ニーズに基づかない製品は作らない』という方針を徹底しています。お客様のニーズをしっかり把握し、製品開発に着手する。いわば『出口を確保した開発』を行っています。これにより、売れない製品が生まれるリスクを完全に排除しました。この仕組みは非常にうまく回っています」(清水氏)