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インタビュー

日産自動車 小柳 貢士 氏/塩飽 紀之 氏 
金属積層造形で試作開発期間を半分に

投稿日時
2026/03/09 13:52
更新日時
2026/03/09 14:03

AM、社内の壁をついに突破

AMが、日産自動車の開発現場で急速に存在感を高めている。転機となったのは「AMにしかできないこと」の追求ではなく、既存の鋳造部品とまったく同じ形状・特性をAMで安定的に再現する技術の確立だ。これにより開発試作のリードタイムは従来比で大幅に短縮され、設備はフル稼働の状態が続く。AMの工法・材料開発を担う小柳貢士氏と塩飽紀之氏に聞いた。(以下、敬称略)

【写真左】日産自動車パワートレイン・EVコンポーネント生産技術開発本部の小柳氏(試作・サイマル技術開発部 パワートレイン技術グループ 主担)
【写真右】塩飽氏(技術開発部 戦略企画・技術統括グループ エキスパートリーダー)
背後にはニコンSLMソリューションズ製3Dプリンター「SLM280」

AM、社内の壁をついに突破

――昨年の取材から約1年、実用化まで「あと1、2歩」の領域もあるとのお話でしたが、現状はいかがですか。

小柳 大きく前に進みました。とくにこの1年は、「AMでできることを増やす」だけでなく、社内の開発・設計部隊が安心して使える技術基盤の確立に力を注いできました。そうした我々の取り組みと全社的な「開発期間の短縮」という命題が合致し、AMは「使える技術」という認識を急速に社内で確立しつつあります。

塩飽 1.5歩は進んだのではないでしょうか。昨年度まではAMに対して懐疑的な目線もありましたが、この1年でその空気は一変しています。開発部を中心に「これを作ってほしい」という依頼がひっきりなしに舞い込み、現場の設備はほぼフル稼働状態です。

――1年で大きく状況が変わった要因は。

小柳 AMというとどうしても「AMでしかできないこと」に目を向けてしまいがちです。当社でもそこには力を入れています。しかし、今年度は「既存の鋳造品とまったく同じ形状、材料特性のものをAMで再現すること」に力を注いできました。

――AMの良さが消えてしまいそうですが。

小柳 確かにAMにしかできない形や素材、造形方法などを用いれば、従来工法とは違う製品が作れる可能性はあります。しかし、我々は量産車を作っている。生産能力が足りない今のAMでは、まだ量産部品を作ることはできません。そうなると現場では少なくとも数年は従来工法で生産する必要があり、そうした工法を使うことを想定して開発は進んでいきます。そのため、量産段階で従来工法に置き換えられないのであれば、どんなに優れていてもAMを使う意味がなくなってしまいます。

そこで、今年度は量産で使っているアルミ鋳造の部品と同じ形状・材料特性を、AMで安定的に再現できる技術の確立に取り組みました。引張強度や伸び、材料組織などすべてにおいて従来鋳造品の水準を満たし、しかもその調整が自在にできるようになってきています。

塩飽 AMならではという逸る気持ちを抑えて既存技術と同等品質で造形する。この重要性を体感し実行できるのは、従来工法のバックグラウンドがあるからこそだと思います。AMからモノづくりを始めた方は、より自由な発想ができることでしょう。しかし、小柳が言ったように、我々は自動車を作ってきた歴史の上でAMを使っている。量産現場の制約や要求仕様はもちろん、業界として積み重ねてきた安全への強い意識もあります。動けばいいわけではありません。今年度の取り組みは従来技術とAMの接続点を見極めた大きな一歩であったと思います。

■追加の設備投資も視野に

――実際にどのような成果が出てきていますか。

小柳 まず、試作品の開発スピードが格段に速まりました。従来のアルミ鋳造では型の発注から納入まで4〜6カ月かかっていましたが、AMなら最長でも2カ月以内に仕上がります。素材試験用の部材であれば、翌朝には物が手元に届く速度感です。現状は、造形サイズがエンジンのシリンダーヘッド1気筒分ほどに限られていますが、開発の方向性を決める空気の流れや燃焼特性の試験用途には十分に機能しています。

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AMで造形したエンジン用リンク試作部品。フル稼働状態の同社では、除去しやすいサポート材の設計など後工程の省力化にも力を入れる

――塩飽さんはいかがでしょうか。

塩飽 開発部の意識は大きく変わったと思います。これまでは、試作を1つ作るにも時間やコストがかかるため、絶対に間違いのない大きなマージンを取って開発する必要がありました。それが、3つ作れるとなれば、性能ギリギリの領域に踏み込んだ検証ができます。設計者が本来やりたかった開発に、AMなら手が届くと感じています。

――フル稼働でサイズが足りないとなると、追加の設備投資もあり得ますか。

小柳 そうですね。現状のサイズでも様々な活用法がありますが、エンジン1基をフルサイズで造形できるようになると、開発への貢献度はさらに広がると見ています。この1年でAMを社内の開発プロセスに載せることができました。現実的な次の一手として、具体的に検討を進めていきます。

――今後の展開についてお聞かせください。

小柳 AMが競争力の源泉になり得る場面は、今やっている既存領域の開発加速だけではないと考えています。従来技術の延長線上にはないまったく新しい領域、いわば飛び地での開発に踏み込むとき、量産品と同等の特性を持つフィジカルツイン──物理的な双子とも言える試作品──を短いサイクルで生み出して物理的なデータを確保できるかが、競争力を左右すると考えます。そのためにも、今AMを自在に使いこなせる技術と体制を磨いておくことは、将来の競争力に直結すると確信しています。

塩飽 AMを使って短縮された開発期間の恩恵は、既に新製品の開発において形になり始めています。次年度以降、これまで想像できなかったタイミングで意外な車種が世に出てくると思います。ぜひ楽しみにしていてください。



(日本物流新聞2026年3月10日号掲載)