インタビュー
東日製作所 係長 仲佐 大樹 氏
デザイン主導でトルクレンチ刷新
- 投稿日時
- 2026/02/09 09:58
- 更新日時
- 2026/02/09 10:04
「計測器らしさ」を明確化
「品質はいいけどデザインがね...」
欧州で浴びたその一言が、東日製作所の開発思想を動かした。2023年にデザイン小委員会を立ち上げ、主力製品のプリセット形トルクレンチ「QL/CLシリーズ」を第一号案件として刷新したのが「QL+/CL+シリーズ」だ。開発を担当した技術部 MT機器グループ 係長の仲佐大樹さんに開発の苦労やこだわりを聞いた。

プリセット形トルクレンチ「QL+/CL+シリーズ」を開発した技術部 MT機器グループ 係長の仲佐大樹さん。趣味は職場仲間とのゴルフ。「アベレージ80台前半」が近頃の目標となっている
工具ではなく、計測器である――。QL+/CL+シリーズのデザインで東日製作所が明確化しようとしたのは、その位置づけだ。
「工具だと思われている方も多いが、トルクレンチは計測器」。仲佐さんがこう語るように、トルクレンチはねじを正しく締付けるための計測機器だ。にもかかわらず、外観や触感が工具の延長に見えると、現場での扱われ方や信頼の置かれ方にも影響する。デザイン刷新の出発点は、外観と操作感の両面から“測る道具”としての信頼感をいかに伝えるかにあった。
そこで同社が踏み込んだのが、開発プロセスの転換である。従来のインサイド・アウト、すなわち機能を先に決めてから外観を整えるやり方を、アウトサイド・インへ改めた。見え方と使われ方――デザインの要件を先に定め、その制約の中で機構を成立させることを、「+Design/+Quality」を含意する「+シリーズ」に課した。
その象徴が目盛りだ。狙いは単なる数値の読み取りやすさではない。視覚から「精度の気配」を立ち上げ、計測器として安心感を与えることだ。そのためにも目盛りの見え方を先に決め、「その見え方や動きを成り立たせるための構造」を逆算していった。
「デザインが先に決まっていたため機構側の制約はきつかったが、それを成立させるために考え抜く課程が、これまでにはない技術的なブレイクスルーのきっかけにもなった」

プリセット形トルクレンチ「QL+」。近年、増加傾向にある低トルク化の波を受け開発に着手。トルク調整範囲0.4~2N・mのタイプと同1~5N・mのタイプを用意する。内部構造の改良により実現した鮮明なクリック感も特長だ
■デザインがユーザーの所作を導く
計測器において精度良く測れることと同じくらい重要なのが、「ユーザーが正しく使える」ことだ。目盛りの表示がわかりにくければ、誤設定につながる。同様に、持ち手の造形も「正しく締付ける」ための要となる。
トルクは「長さ×力」で決まるため、力を入れる位置(有効長)がずれれば設定値通りのトルクが出ない。特に、低トルク域の締付け作業では、持ち手の形状によっては過剰な力がかかりやすくなってしまう。QL+/CL+はあえてグリップに突起とくぼみを設け、ユーザーの指が自然と正しい位置に収まるように設計。それでいて、強く握り込めない形を追求した。
このように、デザイン先行型の開発は、美しく形を整えるだけでは成立しない。むしろ「トルクレンチとはこうあるべき」という理想を持つ東日製作所だからこそ、必要な機能とユーザーが求めるデザインを両立できた。同社にとってデザインが足かせではなく、理想に近づく踏み台になった。
こうした変化は既に市場にも届いている。既存ユーザーから「東日変わったね」という驚きや好感の声が寄せられている。目盛りが見やすいトルクレンチが欲しいとずっと探していたユーザーは、このレンチをネットで見つけ即座に手に取ったという。
「+デザイン」の思想は今後、デジタル機器や動力機器などの次世代製品にも順次展開されていく予定だ。プロジェクトを完遂した仲佐さんは、「デザイン先行の開発を通じて、技術者として新たな知見を得ることができ、自らの成長にも繋がった」と手応えを語る。東日製作所が踏み出したこの一歩は、世界に通用する「計測器」としての新たなスタンダードを形づくっていく。
(日本物流新聞2026年2月10日号掲載)