インタビュー
フクハラ 福原 廣 社長
- 投稿日時
- 2025/12/09 14:22
- 更新日時
- 2025/12/09 14:25
中小工場から始まる「分散型CO₂回収」の可能性
地球温暖化が加速し、世界の平均気温はすでに産業革命前から1.6℃上昇。パリ協定が掲げる「1.5℃目標」は現実味を失いつつある。こうした中、「中小工場からのCO2回収」という独自路線を歩むのが、コンプレッサー周辺機器メーカーのフクハラだ。同社はドレン処理装置やフィルターといった既存技術を拡張しCO2回収技術を製品化。大企業偏重だった脱炭素分野に「分散型DAC(Direct Air Capture)」という新たな選択肢を提示しつつある。同社福原廣社長にその狙いと未来像を聞いた。

――CO2回収に本格的に取り組み始めた理由を教えてください。
地球温暖化の主因は人間の活動による温室効果ガスで、特にCO2の影響が大きい。大気中のCO2は産業革命前の250ppmから現在420ppmへと急増しており、気温上昇や異常気象を引き起こしています。これからは排出量の削減だけでは温暖化は止められません。出たCO2を回収し、産業革命前の水準に近づける必要があると考えたのです。必要な回収量は1.7兆㌧という巨大な数字ですが、だからこそ「日々の小さな積み重ね」が重要になると考えています。
――貴社がCO2回収に関心を持ったきっかけは何だったのでしょう。
きっかけは約10年前。パリ協定が採択された頃から環境問題を強く意識するようになりました。私たちの主力事業はコンプレッサー周辺機器の製造です。コンプレッサーは大気を吸い込み圧縮しますが、この大気中にCO2が含まれており、圧縮の過程でドレン水にCO2が溶け込みます。
ならば、「このドレンからCO2を回収できないか」と考えたのが始まりです。CO2は水に溶けやすく、圧力がかかるほど溶解度が上がる。ビールが良い例です。この性質をドレン処理に応用し、CO2吸着材を組み合わせた結果、回収に成功したのです。
――具体的にはどのような製品でCO2を回収しているのですか。
ひとつはドレンデストロイヤーCO2です。これは本来、コンプレッサーのドレン水中に含まれる油分を除去する装置ですが、新モデルではアミン系吸収材やゼオライト吸着材を追加し、ドレン処理と同時にCO2も回収できる構造になっています。
1本あたりの回収量は35㌘と微量ですが、年間の販売数量ベースでは288㌔のCO2を回収できます。さらに交換カートリッジをリユースする仕組みにより、廃棄に伴うCO2排出も約68㌧も削減しています。小さな効果でも、多くの工場で使えば効果は上がります。
■回収したCO2を建材活用
――「マックスCO2キャプチャー」についてもお聞かせください。
産業用コンプレッサーの圧縮空気を活用した分散型DAC(ダイレクトエアーキャプチャー)装置です。大気をファンで吸引する従来型DACと違い、工場で必ず使われる圧縮空気を利用するため、追加の電力がほとんど不要です。
こちらは水酸化カルシウムを吸着材に用いており、CO2は化学反応によって炭酸カルシウムに固定化されます。特徴は中小工場でも導入しやすい「リアルなCO2回収」として設計しました。
――回収したCO2はどうなるのでしょうか。
回収後は炭酸カルシウムとして固体化されるため、コンクリート原料として再利用できます。すでに建設大手でも活用の事例が出ており、今後は「工場で回収→建設で活用」という循環型モデルが確立していくでしょう。
ただし、現在は回収量がまだ十分でないため、材料としての供給が追いついていません。市場が拡大すれば、この部分も必ず整備されていくはずです。
――中小企業にとって、分散型のCO2回収が重要である理由は何ですか。
現在のCO2回収市場は大規模プラント向け装置が中心で、中小工場向けの技術はほとんど空白地帯です。しかし、実際に世界の製造業を支えているのは無数の中小・地方工場であり、そこにこそ潜在需要があります。「排出源のすぐそばで回収する」という分散型の発想は、これからの主流になると考えています。
――導入実績と各企業の反応についてお聞かせください。
すでに複数の企業にお使いいただいています。コンプレッサーの稼働時間にもよりますが、3カ月に1回の交換で運用できるため負担が小さく、特別な設備投資も不要です。目に見えないCO2をまずは「知る・測る・減らす」という第一歩として価値を感じていただいているようです。今後は製品のアンバサダー制度を通じて、利用者とともに装置の改良や社会実装を進めたいと考えています。
――今後についてお聞かせください。
2030年頃にはCO2回収の社会実装が大きく進むと見ています。火力発電やごみ焼却場など大規模排出源での回収はもちろん、中小規模工場でも“当たり前にCO2を回収する”世界になるはずです。
当社としては、コンプレッサーが存在するあらゆる現場をCO2排出源から回収拠点へ転換する仕組みを広げたい。分散型DACは、日本の製造業にとって大きな可能性を秘めています。これからも技術を磨き、地球環境に貢献できる製品づくりを進めていきます。

(日本物流新聞2025年12月10日号掲載)