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インタビュー

松本機械工業 代表取締役副社長 松本 晶久 氏

投稿日時
2025/11/25 14:44
更新日時
2025/11/25 14:48

工作機械周りの自動化、初納入から3年で業界初を連発
チャック・テーブルメーカーの立ち位置活かし 

チャックと円テーブルのメーカーである松本機械工業が独自の自動化システムを立て続けに開発している。メカトロテックジャパン2025(MECT)では1台のロボでワーク・爪・工具を交換。さらに3つ爪チャックの内径にコレットを装着して小径ワークも掴めるようにしたり、チャックの面板ごと3つ爪を一気に交換したりと融通無碍な自動化を見せた。円筒研削盤のケレ交換も業界に先駆けロボット化。工作機械周辺の自動化にユニークな発想を持ち込んでいる。

――工作機械の周辺機器メーカーの貴社がなぜSIer事業を。

「実はクイックジョーチェンジチャックの販売を始めたのは約40年前。ワンタッチで爪交換できるチャックを開発し、のちに自動で爪交換できるようモデルチェンジしました。『HQJC』は爪交換の繰り返し精度が10㍈と高く、取り外しても爪の再成形が不要で、爪の先端だけを交換するトップジョー交換方式のため切粉が入り込まない。ただSIerからすれば高精度を要求されるチャックの爪交換の自動交換は面倒で、製品が良くとも実装が進まなかったんです」

――もどかしかった。

「もどかしさもありましたし、コロナ禍に突入しチャック・テーブルの次の一手を打たねば不確実な時代を乗り越えられないと感じていました。折よく知見の豊富な現開発部長が入社し、ならば我々が自らSIerになってやろうと。2020年に開発に着手し、21年にロボット、ハンド、多段ストッカーをパッケージ化した最大32回の無人段替えができるロボットシステム『Smart Terrace AIO』を発売。そこから一気に駆け抜けてきました。3つ爪を面板ごと一発で交換するシステムや円筒研削盤で使うケレの自動交換、工具交換、ロボットハンドによる多点計測&追い込み加工システム…と年々新技術を投入しています」

――ケレの自動交換は珍しい。

「ケレ自動交換パッケージはたぶん業界初。円筒研削は要求精度が高く、ケレの装着と計測が自動化の壁でした。我々のシステムはロボットハンドでワークを掴むことで多点計測が可能で、機械に測定値をフィードバックして追い込み、初品から良品を出せます。ケレはカブト工業さんの市販品。専用の受け台とロボットでワーク径に最適なケレを着脱し、近接センサーで取付状況を確認します。円筒研削の段取りがゼロになります」

■モジュール販売開始

――MECTの展示機はユニークでした。1台のロボットが爪とワークと工具を交換し、しかも3つ爪チャックなのにコレットも挿入できる。

「見せたい技術を詰め込みました。旋盤の自動化を模しており、主軸に3つ爪チャックですがコレットも挿入できる『ハイブリッドチャック』を装着。最小φ4の小径ワークをコレットで掴める一方、円盤材は3つ爪で直接把持できるおそらく世界初の構造です。コレットにワークを挿入する公差は40マイクロメートルで、普通は力覚センサーを使いますが我々はティーチングだけで正確に挿入できることに技術者から感心いただけました」

「またタレットの工具を交換する際、市販のナットランナーはヘッドが旋盤の狭い機内に干渉する。そこで部品単位で再構築し小型のナットランナーを開発しました。チャックを起点に工作機械を知り尽くした我々ならではの自動化です」

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MECTでは1台のロボットでワーク・爪・工具交換を自動化。写真はチャックの3つ爪を面板ごと一気に交換しているシーンだ。爪を個別に交換するよりサイクルタイムが圧倒的に早い

――独自技術の数々をどう広めますか。

「今後はパッケージに限らず機能をモジュール化して販売したい。というのも自動化が全然進んでおらず、どのSIerもシステムをゼロから組み上げるので価格が要望に合わない。共通の悩みだと思います。我々はとにかく機械加工業界の自動化を進めたい。ユニットを提供することですぐシステムを立ち上げられます。また今後の展開として、今まで工作機械の段取りを自動化してきましたが、組立工程の自動化にも挑戦します」

――組立に手を広げる狙いは。

「段取り・ワーク搬送を自動化しても加工中はロボットが動かない。機械は稼働させてナンボです。加工中にロボットが組立を担えれば良いな、と」

 ――貴社の場合ロボットが既にワーク・爪・工具交換、測定と多くのタスクを担っています。まだ止まっている時間が気になると。

 「導入したお客様から仕事がはかどりすぎてワークがないという声も聞くので(笑)。嬉しい悲鳴ですが、はかどりすぎて手持ち無沙汰になるなら別のタスクを与えたいんです。まだ構想段階ですがAGVでトレー交換を行う構想もあり、実現すれば最大32回の無人段取り回数ももっと増やせる。夜間だけでなく3連休を無人稼働できるかもしれません」

 ――今後は自動化システム「で」成長を目指す?

 「自動化システムと『ともに』成長を目指します。まだまだチャックもテーブルも進化の余地があり、自動化システムを開発することで同時にレベルアップが見込めます。ハイブリッドチャックも自動化を進めたから生まれた製品です。チャックメーカーの誇りを守り、自動化と従来の事業の両輪で成長します」




松本機械工業株式会社

1948年創業、従業員86人

石川県金沢市示野町ニ80

年間納入台数10台

チャック・NC円テーブルを中心とした周辺機器メーカーだが2020年にSIer事業を開始。爪の自動交換に向いたチャックシステムとロボット、ハンド、多段ストッカーをセットにした無人段替えシステム「スマートテラス」を発売した。工具交換、測定など様々な機能を開発しており、組み合わせて最適なシステムを構築。業界でも珍しい円筒研削盤のケレの自動交換システムも上市した。



(日本物流新聞2025年11月25日号掲載)