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インタビュー

東邦工業 代表取締役 丸山 洋彦 氏

投稿日時
2025/11/25 14:35
更新日時
2025/11/25 14:38

自動車FAからの「引き算」の技術戦略
最高クオリティーを他産業へ応用

創業から70年以上、東邦工業は自動車産業を中心に、ワンストップで対応するのが最大の強みだ。近年、外部環境の変化による自動車産業の投資抑制という課題に直面したが、エンジニアリング力と山善グループ参画のシナジーを発揮し、他産業のFA分野で活路を見出す。経営の多様化を加速させ、新たな成長フェーズに挑む丸山洋彦代表取締役に、その戦略を聞いた。

――トランプ関税の影響で自動車産業は投資に消極的です。貴社のSIer事業の最近の状況や受注状況を教えてください。

「旧来、当社の売上は自動車産業を中心とした地元ユーザーの仕事が90%近くを占めていました。広島地域も自動車産業の設備計画見直しによる影響は一定レベルあります。そこで活きたのが、2017年に参画した機械工具商社である山善グループの強みです。当社は工作機械周りの自動化に活路を見出しました。工作機械メーカーの中には、自動化をパッケージ化して提案するところもありますが、当社は工作機械内の自動化に注力し、周辺を協業で取り組むメーカーとの連携を深めています」

「自動車の自動化は、精度や信頼性などあらゆるものが最高レベルです。その技術や経験があるため、工作機械周りの自動化は決してハードルが高いものではありません。これまでの経験を活かし、高品質なソリューションを提供できています」

――食品業界など、自動車以外の産業への参入状況はいかがでしょうか。

「食品企業に直接アプローチするのではなく、自動化装置のエンジニアリング企業と協業することで参入しています。当社が得意なロボット技術を用い、液体注入や箱詰めといった自動化装置の後工程をロボット化する事例が多いです。食品業界は各工程自体は自動化されていても、前後の工程や工程間のハンドリングがロボット化されていないケースが少なくありません」

――自動車以外の仕事が増えてきていますね。経営の多様化についてどう捉えていますか。

「前々期は自動車産業の仕事が9割を占め、特定のユーザー様に大きく依存していましたが、今期は70〜80%を自動車以外の仕事が占めるまでに変化しました。これは経営の多様化が実現できたとも言えますが、この変化を『たまたまの幸運』で終わらせてはいけません。今後はリピート受注を獲得し、多様化した事業構成を再現性のある形で定着させなければなりません」

東邦工業02.jpg

自動車産業で培ったエンジニアリング力を他産業に横展開

■早期にヒューマノイド実証実験

――他産業に対応できたエンジニアリング力の源泉は何でしょうか。

「検査、洗浄など、オールラウンドでの対応力が一つ挙げられます。当社はエンジンやトランスミッションの組立を長年手掛けており、特にナット締めやプレスを使った圧入にはノウハウの蓄積があります」

「当社のオーダーメイド機は、長年の経験とノウハウを蓄積させた結果、一種の『製品化』と呼べるような高い完成度を誇ります。この自動車の自動化で培った技術があれば、他産業でもワーク(対象物)が変わるだけで対応可能です。今後は、自動車で必要とされるミクロンオーダーの精度が不要な産業に対して、『自動車のノウハウから引き算していくイメージ』で、産業ごとの精度とコストパフォーマンスの適正化がカギになります」

――その他、今後の動きについて教えてください。

「海外メーカーの活用にも積極的に取り組みます。協働ロボットのTechman RobotやAMRのYOUIBOTに加え、電気機器や産業機器もアジア諸国の優秀な製品を活用していきます。海外メーカーの活用ではユーザーがサポートを気にされますが、当社のエンジニアリング力と山善とのシナジーで、万全のサポート体制を担保します。『アジアメーカーの技術を使ったエンジニアリングなら東邦工業』というブランドイメージも獲得したいと考えています」

「また、シミュレーションの活用も模索しています。実際にラインを組む前にどれだけ不具合を潰し込めるかが肝要です。ロボットのシミュレーションに加え、電気の回路もCADに入力し、プログラム上でシーケンス回路を組むことで、装置の動き全体をシミュレーションする予定です。これにより、実機導入時のデバッグ時間が大幅に削減でき、スケジューリングの組みづらさといった実務の煩雑さも軽減できます」

――国際ロボット展での出展計画は?

「山善と協力し、INSOL-HIGH(インソルハイ)のヒューマノイドをメインに、AGVやAMRとの共同作業をお見せする予定です。工場の作業環境が人間に最適化されているので、ヒューマノイドがSIerの世界に入ってくることは間違いないでしょう。実装は少し先になるでしょうが、まずは宣伝効果や学生の獲得といったブランディングアイテムとして、ヒューマノイドの検証実験を早急に行いたいと考えています」

――採用強化と働き方改革について教えてください。

「採用と定着率の向上を目指し、ここ2年ほど積極的に投資しています。一昨年は工場の隣の社屋をリフォームし、食堂も新設しました。工場では全館空調の導入など、作業環境の改善を随時行っています」

「ソフト面では、男性の育児休業取得率100%を目指すなど、働き方改革を積極的に推進しています。今年初めてインターンの受け入れも実施するなど、モノづくりを愛する人にとって『楽しい環境』は整っています。中小企業の柔軟性と山善グループの安定性を活かし、次のコアとなる人材を新卒からしっかりと育てていきたいと考えています」




東邦工業株式会社

1959年設立、従業員84人

広島市安佐北区安佐町

大字飯室字森城6861-9

年間納入件数:80~100件

1950年、神川正之氏が木工機械、農業機械の製造工場として創業。その後工作機械、建設機械、船用補器製作加工部品の販売修理開始。自動車業界の発展とともにエンジン回りを中心に、東邦ブランドのハイクオリティな製品・サービスを迅速に提供しユーザーの省力化に貢献している。2017年に山善グループに参画。





(日本物流新聞2025年11月25日号掲載)