インタビュー
髙丸工業 専務取締役 髙丸 泰幸 氏
- 投稿日時
- 2025/11/25 13:51
- 更新日時
- 2025/11/25 13:56
職人の技を、誰でも、どこからでも
「溶接」の民主化と社会実装
髙丸工業は、創業1963年以来ロボットに軸足を置いてきた老舗のロボットSIerである。同社は、ロボット導入実証事業で全国一位の採択件数(平成27・28・29年度)を誇り、その全てが多品種少量生産の中小企業だという。親子二代にわたって引き継がれた開発が、遠隔操作溶接ロボットシステム「WELDEMOTO」として結実。大阪・関西万博への出展も果たし、社会実装に弾みがつく。その挑戦を、泰幸専務に聞いた。

――市況感と貴社の最近の状況を教えてください。
「私の見聞きする範囲では、SIer業界自体は現在、厳しい環境にあります。多くのSIerは自動車や家電などの大口顧客に特化して安定を図るため、EVシフトや関税問題など外的要因の影響を受けやすいわけです。その点、当社は毎年、仕事の半数以上が新規の中小企業案件で、売上の安定に苦心する反面、リスクは分散できています」
「また、洋上風力、原子力、防衛関連など、他社がやりたがらない課題の多い案件もこなしています。単純に好調と申し上げたい意図ではなくリスクや課題を含んでいるのですが、造船業界の好調もあり、売上だけで見れば今期も過去最高を更新する見込みです。また、50年の歴史の中で、中小企業の新規案件も一巡し、毎回ゼロベースと言えどもコア技術がパターンオーダー化できてきたため、利益面の安定もできています」
――課題感とは。
「案件に対してのリソース最適化ですね。そして何より採用問題です。モノづくりの面白さを純粋に伝えると、入ってからの泥臭い苦労に挫けてしまう。逆に大変さだけを伝えると採用の土壌に上がれません。このバランスが難しい」
――WELDEMOTOの概要や開発経緯を教えてください。
「25年前、正社長がマスタースレーブ制御に着想を得て、ロボットを単なる省人化・省力化装置ではなく、人の技術や技能を補う道具として使うコンセプトの遠隔操作ロボット開発を目指しましたが、一度挫折しました。その後、私が入社して夢を引き継ぎ、実画像にシミュレーターを合わせるという発想の転換で完成に至りました。産業用ロボットは一般に操作が難しく、自在に扱える人は国内で1万人に1人とも言われます。そこで、パソコンのドラッグ&ドロップといった簡単操作で、経験がない人でも遠隔から溶接加工ができるWELDEMOTOを開発しました」
「溶接に留まらず、遠隔操作をプラットフォーム化して展開することで、障害を持たれている方、事情があって家から出られない人、そして海外から、誰もがロボットを扱える世界を目指しました。大阪・関西万博でも広く技術を伝えることができました」

髙丸カラーに塗装されたWELDEMOTO
―実際の受注状況はいかがですか。
「受注も決まりました。機密保持上詳細は言えませんが、内製化したいが職人を雇って育てるのが難しい加工業様です。対象ワークに合わせた専用機的なロボットシステムも可能ですが、汎用性を持たせて溶接部門を育てるために遠隔操作ロボットを採用されました。溶接をすでにやっているところの省力化を想定していましたが、溶接部門の新たな立ち上げのコアメンバーにロボットがなるのは想定外でしたね」
「また、広報活動が功を奏し、アプリケーション開発、カメラ開発、データ圧縮技術などでパートナー提案が増えてきました。溶接以外の用途に使いたいというSIerからのアプローチも増えています。正社長が『マイクロソフトを目指す』と言っていますが、WELDEMOTOを媒介とした広がりが起こり、その構想に少し近づいています」
―― 国際ロボット展には?
「WELDEMOTOの普及版を展示します。コンセプトは半分のサイズ、半分の値段です。中小企業自体のスペースのなさに対応するため、2600ミリ×1400ミリに収めました。アンカー用の突き出しもなくし、自重1・5㌧でフォークリフトでも据え付けられるようにしました。また現在はタッチセンサーで最終的な位置補正をしていますが、3次元カメラでデータを取得し、タッチセンサーレスで開始点を選ぶだけで溶接可能にすべく開発しています」
――中長期的なビジョンは。
「売上2.5倍を人員1.5倍で達成するという、SIer専業としてはかなり大胆な目標を掲げました。現実的な目標ばかり追っていると大きな飛躍がないと考えたからです。冒頭に申し上げた受注残を、増員するのではなく、外注の活用、工場のスペース活用最適化、工程管理の徹底、組織のマネージメント力強化によって乗り切ります。これは次のステップに進む試練です」
「若いスタッフが入るタイミングで3DCADに移行しシミュレーションソフトも活用していますが、結局、自分の所で組み立ててしっかり動かしているからこその競争力があります。設計ががっつり現場に行く、という泥臭さのほうが当社らしい。AI時代は、手を動かすことが強みですよ」
「競争力の前提として本日、休みを10日増やして、給料も10%増やすと宣言しました。定着率を上げること、そして採用にお金をかけるより社員に還元することで、モノづくりが好きな人が安心して働ける環境を整えます。これが中長期ビジョンの礎になります」
「細かい話では、髙丸工業標準塗装を決めて、コーポレートカラーの緑をコンセプトに特別に色調した『髙丸カラー』を作りました。ブランディングが第一目的ですが、廃棄コストと環境負荷も考慮し、持続可能性を高める意味もあります」
髙丸工業株式会社
1963年創業、社員29人
兵庫県西宮市朝凪町1-50
JFE西宮工場内
納入件数 年間100案件程度
様々な産業分野で使用されるロボット・設備の設計から製造、試運転、納品までを一貫して行っており、難易度の高い「中小企業向けロボット導入支援」において全国トップクラスの実績を誇る。「中小企業へのロボット導入のためには、就業前の高校生にロボット教育を行うべきである」という考えのもと、高校生産業用ロボットセミナーを開催している。
(日本物流新聞2025年11月25日号掲載)